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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園編入学日編
35/119

私と即席鍋と一角獣と幻の彼1

 

「ええっ!? 王家の方々の晩餐のメニューを、今からまた作り直せと!? しかもできるだけ早急にとおっしゃいますか!?」



 料理長と後ろで作業中の料理人達は盛大に顔を引き攣らせた。

 

 無理もない。王宮の晩餐料理とは、ありとあらゆる趣向と贅を凝らした言わば王国一の美食の食卓だ。

 各地から厳選された選りすぐりの高級食材や魅惑の珍味、庶民では一生口にできないであろう稀少な調味料や香辛料などもふんだんに取り入れ、それらを王宮お抱えの彼ら、超一流料理人達が渾身の腕を振るって提供する絢爛豪華な食の饗宴…!

 

「まさかその王宮晩餐料理を!3分間クッキングの如く、即席でしかも再度作れというこの私の無茶な要求!」


「いえ、あの、侍女長殿?女王陛下は大のワイン好きではありますが、その他の晩餐メニューはそこまで豪華でも贅沢でもありません。」

「うんうん。確か昨日のメインディッシュは煮込みハンバーグで一昨日はミートボール入りオムレツ、その前は、ええーっと…?」

「網で焼いたさんまの塩焼きハーブグリルだったよー。」

「そうそう。厨房中が煙臭くて超大変だった!」


 フレンドリーな料理人達が口々に教えてくれる。

 ほのぼのとした職場環境だな……


「ええー、どれも美味しそうですけど、一流料理人としてはあまり腕のふるい甲斐がないのではありません?」

 

 厨房の全員が「へ? や、まー、うん?」と首を傾げた後、「あれ?」という不思議な顔をする。

 ーーあっ!私は今、いつも女王の給仕を務めているベルマーレ侍女長さんに見えているわけだから、それを知らない筈がなかった!

 でも謙虚そうな料理長は丁寧に説明をしてくれる。


「ええと? そういうわけで、侍女長殿もご存知の通り女王陛下は質素堅実なお方でして。お城に客人を招かれた時には豪華な料理を我々にお申し付けになられますが、普段は庶民とさほど変わらぬメニューをご所望されていらっしゃいます。高カロリー気味で塩分過多な元来の王宮料理より、その方が幼い王子王女殿下達のご健康にも良いからと。」


ーーお婆様!儀礼的な手紙のやり取りだけでは分からなかったけど、すっごく私と気が合いそう!

 

「ん? でもオルストフ王子殿下の本日の献立はステーキでしたね?」


「ああ、それは刻み野菜入り豆腐ステーキです。赤ワインを極力控えめに配分調整したヴァン・ルージュソースを上にたっぷりお掛けしまして、味も見た目もステーキっぽく仕上げました。」


 あれはメインディッシュではなく立派な前菜だった!そして一流料理人の腕のふるい所がそこら辺にあるんだね……


「なるほど。でも王子殿下は育ち盛りなのですから、そこは普通のステーキで良いのでは?」


「王子殿下は大の肉好きで、野菜はお嫌いなのです。ああいった創意工夫を懲らさないと、全くお召し上がりになられません。」


「へ、へえ……」


 そういえば焼きカナッペの時も肉ばっか乗っけてたっけ、あのフリーダムな王様。


 その他にも反対にクレメイア王女は肉単体が苦手(ミンチ肉やハムやウインナーはOK)で、ミュゼット王女は好き嫌いはないものの、凄く少食家だという情報を入手した。


「ええと、とにかく多少庶民的な料理でも問題ないという事ですね。ーーよし!では作り直しの晩餐メニューは“即席鍋”に致しましょう!」


「「「ええ!な、鍋ぇぇぇ!?」」」


 厨房の作業台に目をやれば明日の下ごしらえ用なのか、丁度ジャガ芋や人参や白菜などの野菜類を洗い終え、今からカットする所だった。あれらの野菜をたっぷりと定番の牛肉、後はクレメイア王女の為にベーコンやウインナーも加えたい。

 

 ん? あ、長芋もあるんだ。じゃあ、あの郷土鍋に決まりだね!


「……ううーーん、鍋料理ですか。それも有りかと思いますが、けれど一つだけ問題が……」


「問題、ですか?」


 困ったように顔を見合せる料理人達。

 しかしそこで厨房の外からガラガラと何か響く音が聞こえてくる。

ーーこれ、台車を押す音?……あっ!!

 やがて厨房の入口から中の様子を伺うモノクル姿の男性。

 

「ユーフェ様。お料理の手配は如何されておりますか? 何かこのリュカめに手伝える事があれば、なんなりとどうぞ。」

「リュカさんっ!あ、キャビンを下げてきて下さったんですね。すっかり忘れて、ーーー?」



ーーーパキッ!!

ーーーピキ、ピシィィィッ!!


 何かがひび割れた音がした?

 リュカさんが引いてきたキャスター付きキャビン、から…!?



「あっ!瓶か!ーーっリュカさん!キャビンから離れて!危険です!!」

「はい!?」


 私はタタタッと急いで駆け寄り、両手で力いっぱいリュカさんの腕を引っ張り込んで自分の後ろへ、厨房の中へと彼を避難させた!

 

 キャビンのサイドポケット部分には凍ってしまったあの食前酒や赤ワイン。瓶の液体飲料、特に醗酵する特性のあるお酒関係のものは、凍結したり著しい温度変化によって密閉された瓶の中身が膨張し、突然破裂してしまう危険性があるのだ!

 前世の日本では常識の、そんな基本的な注意事項を忘れていたなんて!


 通路に他に人がいないか確認し、外開きの厨房のドアを閉めようと一旦通路側へ足を踏み出した、その時!



ーーーパンッ!パキィィィーーーンッ!!!


「きゃあああああ!!」

「ーーおいっ!!」

「ユーフェ様っ!ーーああ!?」

「「「は!? 侍女長殿ーーーッ!!」」」


 あれ!? 誰かが私に覆い被さってくれている!?

 力強い手が私の腰をがっしりと掴んでその場に固定させていた!

 破裂して半壊した瓶も通路側の離れた所に転がっていて、一瞬で発動させたらしい防御魔法で弾いてくれたみたいだ。

 び、びっくりしたあぁ!!

 でも通路には誰もいないと思ったのに、一体誰が助けて、


「フ、フレイ君!? 何故ここに!? 」

「ーーえ!やはりフレイ様!?」


 恩人の顔をと見上げれば、サラサラなプラチナブロンドに翡翠色の瞳。あの義弟のフレイ君が私を抱き包んでいた!


「いっ!きゃあああ!!ーーた、助けてくれて有難うございます!でも何故ここにフレイ君がいるの!? だってここは過去の世界なのに!!」


 秘宝のパネルカード、“太陽の砂時計”の気まぐれで、現在私とリュカさんは二十年以上前の世界にいる。

 この時代では勿論、私と同様にフレイ君もまだ産まれてはいない筈だ。

 そして今、彼が私に向けている表情はとても冷ややかで。

 お、怒っている……!?


「先に一つ。か弱き女性がこのような無謀な事をなさってはいけません。万一、その可憐なお顔や華奢な手足に傷を負ったらどうなさるのです!ユーフェリア姫は随分と無鉄砲のお転婆てんば姫のようだ。」


「……お、お転婆、姫……。あ、はい。迂闊、でした……」



ーーし、叱られた!それに無鉄砲にお転婆姫って言われた……。

 

 お転婆……お転婆……

 取り敢えず“ばばあ”という漢字も入ってて、凄く嫌だ……


 ずおおおぉーーーん………


 思ったよりフレイ君に叱られるのは身に堪えた。

 ショックで咄嗟に視線を床に落とすものの、何故かどうにも彼の顔が見たくて仕方ない。本気で呆れられてしまった?

 ちらっと上目遣いで彼の顔を覗き見れば………


ーー…あれ??

 


「ふうっ、王族の姫という身分以前に、まだ大事に庇護されて然るべき少女であるという自覚を持って下さい。……それで、ああ、ちょっとリュカも耳をこちらへ。」


 呆れたように大きくため息を吐いて小言を口にしたフレイ君は、呆然と注目する料理人らを一瞥し、彼らには聞こえぬよう私とリュカさんに小声で説明する。


「何故僕がここにいるか、でしたね。恐らくは姫とリュカと同じ理由です。お迎えに行こうと星時計の間に入った途端、あの殺人的に鬱陶しい秒針音に襲われ、気が付いた時にはここに飛ばされていました。」


「ほう!フレイ様まで秘宝の力で飛ばされてしまったのでございますか!それは随分と驚かれた事でしょう。」


「フレイ君……?」


「あ、ああ。とても驚かされた…。まあ、それはさておき。実は外で立ち聞きしてしまったのですが、姫はこれから晩餐の料理をご用意する事になったとか。何やら面白そうなので、僕も是非ご協力させて下さい。」


「協力? え? 貴方はお料理ができるの!?」


「多少は。そうですね、ちょっとした加熱調整や急速冷凍、小さな真空空間を作る魔法とか。料理に便利そうな魔法を色々と使えます。」


「へえー!凄い!そういう類いの生活魔法が自在に使えるの!」


「フレイ様がそのように高度な応用魔法を……?」


「ええ。僕はユーフェリア姫と違って王立学園にはすでに一年通っていますし、いつも身近にはあの天才魔法師のエルディアス・ギュンスターもいる。日々成長しているのです。」


 

 過去に飛ばされたというのに、落ち付き払った様子のフレイ君。でもあれこれと事情を話し合おうにも今は時間がないんだった!

 多少引っ掛かるものの、取り敢えず彼にも晩餐メニューの調理に協力してもらう事にした。ーー因みに料理長らには、彼はリュカさんが連れて来た医師見習い候補生と伝えた。侍女長でもある私も彼の身元を保証したので、そのまますんなりと厨房へ通される。

 これでいいのか王宮警備!と言いたい所だけど、今回は目をつむっておこう……





*********





 厨房で一番大きな鍋を用意してもらい、フレイ君の加熱魔法で一瞬で鍋に張った水を沸騰させてもらう。

 そこへ先ず、出し汁と刻んだ野菜を投入するのだが……


「ユーフェリア姫、それは何をなさっているのですか?」


 カット野菜に包丁で細工を施す私にフレイ君が覗き込む。


「飾り包丁です。ただの遊び心ですけど、喜んでくれるかな?」


「へえー。これは…器用ですね。」


「あ、料理人さん達。野菜はできるだけ同じ大きさにカットして下さい。真空魔法で一気に加熱してもらうので、具材の特性無視で火の通り加減が限りなく均一になると思います。単純にそのまま小さな具は煮崩れを起こし易くなりますし、大きな具は火が通りにくくなってしまう筈です。」


「おお。その包丁捌きといい、ユーフェ様は公爵令嬢としてお育ちでいらしたのに、意外にもお料理の嗜みがおありになるのですか!」


 前世では一応成人で女子大生だったし、まあ、お手伝いさんに教えてもらってそれなりには。真空魔法を使うのなら、多分圧力鍋と同じ原理になるものね。

 

 そして野菜の後に牛肉やベーコンやウインナーを鍋に入れて灰汁を取ると、次におろし金を使って長芋をすり下ろし、ボールの中で小麦粉と片栗粉と一緒に混ぜ合わせる。その種を大きめのスプーンでクルンと掬い、ボトボトと遠慮なく鍋の中に投入すれば下準備は完成!


「むおおおーーーっ!つ、疲れました!料理は結構体力使いますね!」

「姫、お疲れ様です。では今から真空魔法をお掛け致します。その他にも色々と補正をお付けしますので、出来上がりには3分も掛からないでしょう。」


 わあっ!あっという間に完成してしまうらしい。

 これでアメリア女王陛下や王子王女達をあまりお待たせしなくて済みそうだ、と思った時、そこで料理長らがオロオロと申し訳なさそうに口を挟んだ。


「それがあの…せっかくの料理ですが、実はこのままだとお出しする事が叶いません。」

「え!、出せない!?」


 せっかくみんなで作ったこの即席鍋が、出せない!?

 でもその理由を聞いて納得せざるを得ない。

 

「ああ、王宮魔法師による毒性検査ですね。」

「ふむ。食材自体は厨房に運び込まれた段階で一度検査されているのでしょうが、出来上がった時にも総合的な検査が必須でしたな。ーーして、その検査員は?」


 王家の方々のお口に入るものなのだ。

 勿論、直前に法規定に乗っ取った然るべき厳重な検査に通す必要がある。けれど厨房内にはそれらしき魔法師の姿が見えない……?


「実は先ほどの晩餐料理全ての毒性検査を終えた後、風邪による体調不良でその検査員は倒れておしまいに……。代わりの検査員の方も、生憎今は有給休暇を取って城には不在でして。」


ーーええー!、万事休すか!?

 時間は掛かるけど、事情を明かして緊急時の検査員を召集させる?

 けれど、そこでフレイ君が予想外な提案をした。


「事情は分かりました。では毒性検査は姫の一角獣にしてもらいましょう。」

「……………え?私の、一角獣??」

「ユーフェリア姫は一角獣のパネルカードを所有しておられるでしょう?ヒースクリフ王のルーティンパネルカード、Ⅴ番の“一角獣”を。」



ーーあ!そ、それはもしかして!!





また5000字オーバー。

ダラダラ長くてすみません……

ところでユーフェが作ったのは何鍋か分かります?

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