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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園編入学日編
33/119

私と寒々しい王家団欒4

今回から文章形式を変更します。

この方が書きやすかったので。

 

 ルーティンパネルカードのⅡ番、“太陽の砂時計”。


 初代エルドラシア国王、ヒースクリフ王の遺した13もの神々の恩恵を封じた秘宝。

 まさかその一つが、この王宮の星時計の間に飾られていた年代物の大きな柱時計、それそのものが秘宝だったという思いがけない事実が判明した。

 そして更に最悪な事に、今まで所有者不在で眠っていた筈のその秘宝の力が、何故か突然発動してしまったのである。


 というか、王立学園編入学一日目の今日。

 

 「フレイ君とラブラブ登校作戦!」から始まって初等科の始業式...では長年の文通友達だったシリーとの再会(※但し、女の子ではなく男の子だった。しかも隣国トライアルト王国の第七王子様…!)に、予想外に行われた魔法学科適性試験、更にはアドロス学園長らとの脅迫面談と。

 今日という一日がとてもとても、とぉーーーっても濃密で長過ぎる!いい加減そろそろ終わってほしいんですけど……


 え? やっぱダメなの? あ、そう……






*********





………チク、タク、チク、タク、チク、タク、チク、タク………



「ーー…っユーフェリア様!くっ、だ、大丈夫でございますか!?」


「あー、ううっ、耳がまだキイーンと……」


 鼓膜が破れそうなレベルの秒針の音がやっと鳴り止んだ。

 固くつむっていた目を開ければ、元凶たるこの目の前の柱時計、“太陽の砂時計”はしれっと普通に時を刻み、銅金色の振り子も元気に反復運動している。

 

ーーイラッ。


 ああもう!神様の恩恵の力だか何だか知らないけど!ちょっとは手加減とか遠慮ってもんがないの!?

 そもそも人を過去だか未来だかのよく分からん時間軸なんかに勝手に飛ばすなあッ!色々とリスクが高そうで七面倒くさい時間旅行なんぞ、私は欠片も希望してないわーーーッ!!

 盛大に心の中で悪態をつきながら、どうにか無理矢理にこの苛立った気を深呼吸を繰り返して鎮める。

 そして何とか表情を繕い、どうやらこの災難に一緒に巻き込まれたらしいアシュリーさんに目を向け、た、っが!


ーーー!??


「ふうっ、いやはや。何とも凄まじい秒針音でございましたな。ユーフェリア様、お身体に影響はございませんか?」


「そっ、それは大丈夫、なのですが!ーーっそれよりもアシュリーさん!姿が若返ってます!というか!別人みたいなんですけど!?」

「何ですとぉぉぉーーー!?」


 向かい合ってお互い叫び声を上げた!

 ええと!アシュリーさんの面影は確かにある。

 けれど元は金髪だったと思われる短めの白髪は見事なハニーブロンドに!笑顔がそのまま顔のしわとして刻まれた柔和な印象の面差しがスッパリ消えて!それとは真逆の、冴え渡るような鋭利な双眸へと激変していた!

 左目の眼窩には銀のチェーン付きモノクルを掛けていて、これはこれで渋くて格好いいんだけど!でもいつものアシュリーさんと違って何とも近寄りがたい雰囲気…!

 年齢はおよそ三十代半ば、といったところ?


 アシュリーさんが若返ったという事は、ここは過去の世界なんだね....

 

 やや屈んで柱時計の振り子のガラス部分に自分の顔を確認したアシュリーさんは、呆然とした顔でぶつぶつと呟く。


「こ、これは…二十年以上前の、三十代半ば頃の私ですな……何と言いますか、自分の黒歴史を見ているようです。この頃の自分と言ったらそれはもう…」


 何故かずーんと落ち込む様子のアシュリーさん。

 黒歴史? まあ、長く生きてると人生色々あるよね。

 でもその頃なら多分、御殿医として華々しく活躍されていた頃だよね? なら、寧ろ白歴史じゃないの?

 ん? アシュリーさんが若返ったのなら、この私はどうなってるの??

 アシュリーさんの覗き込むガラスに、私も自分の姿を映して確認してみた。


「あら? 私はそのままですわね。最も二十年以上前だと、私はこの世界に産まれてもいませんものね。ーーあ、いえ? 衣装が……」


 先ほどまで王立学園から帰宅してそのままだった為に学園の制服、藍色のブレザーを着ていた筈の私は、いつの間にか濃紺色のワンピースに白のエプロン姿、という侍女が着るようなお仕着せを身に纏っていた。

 胸元には上品な絹仕立てのシルバーのリボンタイ。


「うむむ。それは王宮の侍女専用のお仕着せでございますね。それもやはり、二十年前に正規で使用されていた旧式デザインのもの。しかし、そのリボンタイのお色は……」


 何やら私のシルバーのリボンタイを見て首を傾げるアシュリーさん。

 

バアアーーーン!!


ーーけれどそのタイミングで、突然この星時計の間の扉が開いた!

 扉には執事服姿のややふくよかな初老の男性。

 慌てた様子の彼は私の顔に目をあてたとたん、必死の形相で叫ぶ!


「あ!侍女長!侍女長殿ぉーっ!こんなところにいらしたか!もう晩餐の時間が迫っております!どうかお早く本殿宮にお越し下さい!」


「!? 貴殿は…バブコック・オルウィン殿!?」


 その彼を見て、アシュリーさんが目を見開く。

 

 オルウィン? 確か現在の王宮執事長の名がアベルス・オルウィンさんで、オルウィン伯爵家の次男と使用人名簿帳に記載されていたと思う。

 ここが本当に過去の世界であるならば、その執事長のお父上にあたる方だろうか?


「ひいぃぃぃっ!こ、これはこれは!偉大なるアシュリー閣下!侍女長殿とお話し中のところ、わたくしめ如きが割り込んでしまい!ま、ままま誠に申し訳ございません!!」


「……アシュリー“閣下”…?」

 

 アシュリーさん、目茶苦茶怯えられている。

 執事長って王宮でも結構上の役職なのに。このアシュリーさんよりもきっと一回りくらいは年上なのに。その執事長が“わたくしめ如き”って、一体どういう事。

 唖然となった私の顔を見て、アシュリーさんは気まずそうに咳払いをした。


「コホン。やー、別に構いませんぞ。それより一つお聞きしたいのだが。バブコック殿はこちらの、このベルマーレ侍女長殿にご用が?」


「バブコック、“殿”ぉぉぉ!? い、いつものように「おいこら、のろまでデブのそこのバブコック!」と、尊大でふてぶてしい呼び方でお願いします!ええ、ええ!蟻か蝿かその辺の虫けらでも見下すように!閣下がそんなふうに丁寧でにこやかに話し掛けるなど!反って恐怖と戦慄以外の何ものでもありませんッ!!」


「………それは悪かった、で、ございますな、バブコック、さん。」


「ひッ!すみません!!」


「いいからさっさと私の質問に答えなさい。ここにいる彼女はベルマーレ侍女長、それで本当に間違いありませんね? 返事は“はい”か“いいえ”で迅速かつ簡潔に。」


「はいッ!と、当然ですよ。ベルマーレさんにどこも間違いありません!ーーあ!そうそう!こんな押し問答をしている場合ではありません!ベルマーレ侍女長殿、とにかくお急ぎ下さい!もう王家の方々の晩餐のお時間ですから!侍女長の貴女がいなくては誰があの気難しい女王陛下様の給仕をするんですか! どうか一刻も早く本殿宮にお越し下さいねーーー!!」


 オルウィン執事長は大慌てて扉から出ていった。

 ええと。信じられない事に、どうやら彼にはこの私がベルマーレ侍女長さん、という方に見えるらしい。


「やはりそう来ましたか。ユーフェリア様が、あのベルマーレ侍女長殿に見えるとは。」


「アシュリーさん……」


「いやはや。神々の恩恵の力というものは凄いものでございますな。こうして実際に時間を遡り、人の視覚認識まで操ってみせる。さてはて、果たしてその狙いは…」


「アシュリーさん。今の絶対零度な態度と慇懃な口調が黒歴史ですか? 」


「…………」


「私も普段は猫かぶってます。本性はこんなカンジですし、人の事はとやかく言えません。でもアシュリーさん、別人みたいでしたね…」


「……フレイ様にはどうか内密にお願い致します…。」


「え? 長年彼の侍医を務めているのにバレてないんですか!? フレイ君って、案外ニブいの!?」


 アシュリーさんて、フレイ君の専属侍医というより腹心の部下というカンジだよね。軍馬の熱病騒動の時にもいたし、多分彼に一番信頼されている人。


「ユーフェリア様、貴女がそれをおっしゃいますか……。いいえ、フレイ様は決してニブくはいらっしゃいません。私の優しいお爺さん演技が完全無欠の完璧なだけでございます、ってぇ!ーーああ!こういう性格が黒歴史なんです!すっかり改心したと思っておりましたのにぃ!!」


………お、面白い!

 常に落ち付いていて柔和で優し気、元御殿医でもある完璧なお爺ちゃんだと思っていたアシュリーさんが、私と同じくまさかのタヌキさんだったとは!


「フレイ君には内緒にしておきます。でも一つ、交換条件があります。」

「交換条件、でございますか?」


 私はにんまりと笑った。お姫様の顔とは掛け離れた、素の表情。

 一瞬身構えたアシュリーさんは、けれど次に発した私の要望を聞くと、私と同じようににんまりと笑い返してくれた。



「これからはリュカさんと、そうお呼びしても宜しいですか?」


「……!勿論です。では私めも、ユーフェ様とお呼びしても?」



 ほのぼのと呑気に笑い合っていた私は知らなかった。

 この直ぐ後、想像を絶する寒々しい晩餐が待ち構えている事など。


 当時のエルドラシア王国アメリア女王陛下とその王子王女達の、王族一家勢揃いの優雅な筈の食事の団欒が、寒冷前線吹き荒れるツンドラで鬱々たる晩餐だなどとは。…………この時は、思いもしなかったのだった。

 

 



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