私と寒々しい王家団欒3
「......な、何故、次に王座に指名するのがエルディアス・ギュンスター様、なのでしょう? ギュンスター伯爵家の血筋が代々魔力がずば抜けて高く、魔法の才能に優れているから? それとも、ヒースクリフ王の秘宝を彼が所有している、それが理由でしょうか?」
ーー頭が、とても追い付かない。
私とフレイ君を、け、けけ結婚させるしか方法がない!?
しかも王立学園の初等科を卒業したらって!だったらもう、呪いを解く為にヒースクリフ王のルーティンパネルカードを集める期間は、あとたったの残り2年しかない!
貴族、それも上級貴族家であるレストワール公爵家に産まれた以上、政略結婚の義務はそれなりに覚悟はしていた。けれどまさか、政敵であるセヴォワ公爵家、しかもお互いにその跡取りであるフレイ君と私との結婚は、絶対に有り得ないと思っていた。だから、今まで考えた事もなかった......
「ユーフェ、お前の口から秘宝の言葉が出る日が来るとはなあ....。こんな事態になる前に、さっさと呪いを解ければ良かったんだが。...全ては俺の不甲斐なさと力不足だ、申し訳ない。」
「なっ!?」
王様が私に向かって深く頭を下げた。
いつも自信満々で自由奔放、そんな態度からは想像が付かないほど神妙な面持ちで。第一、姪とはいえ一国の王が頭を下げて謝罪するなんて!
「さて。それで、エルディアスをお前達の次に王に指名する理由、だったな。それはギュンスター伯爵家が王家の次に権威を持つ家柄だからだ。この事実は代々秘匿されていて。王と王妃と本来ならば王太子、貴族閣僚議会の一部の上級議員、最高審議顧問くらいにしか知らされていない重要機密だ。」
「え!? ギュンスター伯爵家が、王家の次に権威を持つ家柄!?」
「そうだ。ギュンスター家の爵位は伯爵だが、実はその初代アゼル氏はヒースクリフ王の親友で右腕。その偉大な魔法の才で、王と共に大国からの独立戦争に高く尽力した傑物と言われている。アゼル氏自身は権力も名声も望まず、珍しく稀少な転位魔法の使い手であった事から、 建国後は魔法修行と銘打って世界中を旅して回っていたらしい。だから伯爵位は、ヒースクリフ王が彼を王国に留め置く為のいわば枷で、貴族になる事すら煩わしいと厭う彼が受け入れたギリギリラインの爵位だったわけだ。その証拠にギュンスター領は、その領地の大半が雪山などの険しい山岳地帯と天然自然保護区域。領民も生産農地も少なく、王国への納税もほぼ免除。当時の領地経営は実質上王国側が代行していた。そしてギュンスター伯爵家の代々の当主には、秘宝であるヒースクリフ王のルーティンパネルカードが3枚も継承されている。その点においても、王家の次に王に相応しい家柄と言えるだろう。」
神の恩恵を封じた秘宝のパネルカードを3枚も!?
そのうちの1枚は、エルディ君が私に見せたⅦ番の“魔境”なのだろうか?人の思考を読み取る、あの精神感応の恩恵。
「なあ、ユーフェ。一つ、これだけは聞いておきたいんだが。呪いの話云々、政略結婚という義務があってもなくても、あのフレイと結婚するのは嫌か?」
「ーーえっ!、その、ええと...嫌も何も、今まで一度たりとも考えた事がありませんわ。それに私などがお相手では、」
ーーカタンッ!
「物音? あら? どれか、時計の一つが倒れたのでしょうか?」
「いや。どれも大丈夫そうだ。大丈夫じゃないのが、あるにはあったりするかもだが、問題ないぞ?...まあ、フレイもそれについては以前、「有り得ない」と明言していたわけだし、ーーなあ?」
「........有り得、ない....」
あ、そう、そうだよね。
そういえば、王立学園に入る前に確かフレイ君は言っていた。
ーー自分には大事に想う人がいる、と。
ならば、私なんかとは勿論、結婚したくないよね......
そ、そうなんだ。有り得ない、か。
「? おーい、ユーフェ?」
ううーーーん、そうか、大事な人。
それほど大事な人がいるというのなら、フレイ君は将来きっとその人と結婚したい筈だよね...。その為には、“子が産まれない”という王家の呪いを解かなくちゃダメで。
王様はこの呪いがある限り、私以外のご令嬢との結婚を絶対に認められないと言った。それは出来うる限り、王家の呪いの存在を露見させない為の合理的な処置で....
ーーはッ!!!
これは!私がフレイ君の幸せな未来の障害となってしまっている!?
例え呪いの存在があったとしても!この私さえいなければ、男性である彼はある程度は自由に結婚くらいできたんじゃあ...?
そもそも結婚後に子宝に恵まれなくとも、幸せに暮らしている夫婦は世の中にたくさんいる。跡取りが産まれなくとも、口うるさくせっつかれたり責め立てたりしないであろう、はるか格下の貴族家のご令嬢とかであればいいわけだし!
理不尽にも、世間では一般的に跡取りを産まぬといって先ず責められるのは嫁の方。だから王様は私の為に、私にそんな肩身の狭い思いをする結婚をさせない為に、あえてフレイ君をあてがおうと.....!?
「いやいや!そういう事情も含めて、それがやっぱり政略結婚なんだろうけど!」
ーーでも!そんなの、ダメだああああ!!
あんなに優しくて有能なフレイ君を不幸にするなんて!
私にだって多少なりとも愛国心はある!私はともかく、あれ程優秀な王子様の種を!彼の遺伝子をこの代で根絶させるだなんて絶対にダメだ!それはこのエルドラシア王国の多大なる損失!
「あのー、もし、ユーフェリア様??」
「ーー腹を決めました!お義父様!私は全力で、この迷惑千万な王家の呪いをっ、ーーあれ? 貴方はお義父様...ではなく...アシュリー、さん!? 」
「はい。リュカ・アシュリーでございますよ。フレイ様に仰せつかりまして、お身体の診断に参りました。」
ーーリュカ・アシュリーさんが突然目の前に現れた!
「え? い、いつ、こちらへ!? 」
「少し前からでございますよ。お久しぶりでございますね、ユーフェリア様。」
柔らかで落ち付いた物腰、始終如何なる時にも微笑み続けた為に笑顔がそのまま彼の顔立ちになった、そんな優しげなお医者様。
かつては王国一の医師であり、王家専任の御殿医として尊ばれた彼は、星時計の間のソファーで私と向かい合って座っていた。
「ーーあの、はい。ご無沙汰しております。...ええと? お義父様は、あ、いつの間にか退室されていたのですね...」
「退室時に、何度かユーフェリア様にお声を掛けておられましたよ。本日は王立学園への初登校で随分とお疲れになられたご様子。どうぞ、そのまま楽になさって下さい。」
アシュリーさんはぐるりと私の真横に移動するとその場で膝を突き、静かに一礼すると私の手首をとって脈をみた。
手首から心地好く清涼な魔力波動を感じる。魔法で私の身体をスキャンすると同時に、リラックス系の魔法を掛けてくれているんだ。
しかし彼の言う通り、私は相当疲れているのかもしれない。王様とアシュリーさんが交代していた事も気付かなかっただなんて。
「ううーむ。やはりかなりの精神疲労を感じます。これ以上のご無理をなさってはいけません。この後は国王陛下様とフレイ様、お二方とご夕食とのご予定と伺いましたが、今日はお断り致しましょう。どうか今夜は早くお休みになって下さい。」
「そう...ですか。けれど了承の返事をしてしまっているのですが...」
正直に言うと、本当は少し楽しみだった。
義理とはいえ家族で食卓を囲むだなんて、一度も経験がない。
ーー今世でも、前世でも。
残念なような、複雑な顔をしてしまった私に、アシュリーさんは柔らかく温かな口調で語り掛ける。
「聞けばユーフェリア様は先ほどお倒れになったとか。いつもと環境が変わり、ご自分が感じる以上にストレスとなっているのかもしれません。この老いぼれで宜しければ、いつでもご相談に乗ります。小さなお悩みでも、愚痴でも何でも結構ですぞ。一人で考え込まず、このリュカめをどうぞ遠慮なくお呼び下さい。勿論、ささやかではありますが、この医師としての知識や腕も、貴殿がお望みならば存分にお貸し致しましょう。」
「王国一のお医者様がいつでもご相談に乗ってくれるのですか? それはとっても有り難く、心強いですね。ふふっ、有難うございます!」
「....おやおや?」
笑った私に、アシュリーさんが笑い返した、その時ーー!!
ボオオオォォォーーーーン!!!
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、ーーーーー
「!!、時計の音!?これは...柱時計の鳴る音...」
見ればこの星時計の間の、一番隅っこに飾られた柱時計から聞こえる。
けど異常に音が大きい!刻む秒針の音のトーンも不快音に感じるし、流石にこれはちょっとおかしい!?
「なっ!そ、そんな馬鹿な!太陽の砂時計が動き始めた!?」
「ーーえ。太陽の砂時計って、まさか秘宝の!?」
「秘宝!?何故、それを!?」
「えええ!?」
ちょ、ちょっと待って!
思わず顔を見合わせた私とアシュリーさんは、次の瞬間同時に立ち上がって問題の柱時計まで駆け寄った!そこには大きな振り子が特徴的な、ねじ式ゼンマイ時計。いわゆる“お爺さんの古時計”だ。
かなり年代物の骨董品、美麗な蔦模様がサイド部分に彫られた柱時計の盤面には、デフォルメされた太陽と砂時計の絵柄のパネルが...ってぇ!これ!よく見たらこの部分、ルーティンパネルカードじゃないの!!盤面中央にパネルカードが嵌め込まれている!?
「えええ!? Ⅱ番の、ヒースクリフ王のルーティンパネルカード!? レプリカとか単なるデザインではなく、ほ、本物なのですか!?」
「!!、王女殿下は秘宝の事をご存知でいらっしゃるのですか?ーーええ、そうです。かの有名な初代ヒースクリフ王が神の恩恵を封じた王国の秘宝、Ⅱ番の“太陽の砂時計”それがこちらの柱時計そのもので、正真正銘の本物に間違いありません。ーーしかし、現在まで正当な所有者不在の為に、時計の針は止まった状態だったのですが....」
「ぞ、存じ上げませんでした...貴重な王国の秘宝が、このように堂々と展示されているとは...!」
「木を隠すのならば森へ、でございますよ。それにこちらの秘宝が賊如きに盗まれる心配は絶対にありません。昔から他へ移動させても、ひとりでにまたこの部屋に戻っていると伝えられていますから。」
へえ...とてもファンダジックな秘宝なんだ。
いや、ひとりでに戻ってくるとか、ちょっとした怪奇現象???
「“太陽の砂時計”、その恩恵の力は刻まれゆく時間の記憶の開示。過去から現在にそして未来、どんな時代のどの場面でも見たいと望むものを、そのままの映像として見る事が可能と伝えられています。パネルカードの所有者であれば、過ぎ去った歴史に干渉する事もできたとか。時に悪戯好きな奴でして、所有者でなくともこの星時計の間に訪れた者に、それはそれは面白い過去や未来を夢として見せるとも伝えられています。」
「ま、まあ...面白い過去や未来...あ、あははは。」
うわっ、嫌な予感がする。
カチ、カチ、カチ、カチ、ガチ!ガッ!ガッ!ガッ!ーーーーー
秒針の音は更にボリュームアップしていく!
こ、この流れはヤバい!何となくもう先の展開が読めた!
だって目の前には所有者なしのヒースクリフ王のルーティンパネルカード。それが私が笑ったとたん、動かぬ筈のその秒針が動き出したのだ。
その恩恵の力は過去から現在、そして未来の面白い映像を見せる事。
「ひぃっ!どんどん音が大きくなっていく!耳が!耳が痛い...!」
「なんと凄い魔力!ユーフェリア様!お手をこちらへ!!」
容赦なく暴力的に頭の中で鳴り響く柱時計の音。
ついに限界まで達したその時、再び私は意識を手放した。
ーーけれど、最後の瞬間に私は必死で懇願した。
「うにゃああああ!どうせ強制的にどこかへ飛ばされるのなら!現時点での未来は恐すぎるから、是非とも過去を切望します!どうか、よろしくお願いします!!」




