私と焼きカナッペの王様1
帝王学か魔法かを選択させられてしまった。
でも正直に私が魔法を学びたい!と、そっちを選んだら、小生意気エルディちゃんはなんだか嬉しそうだった。
という事は彼の縁戚者が王室教師になるかも?、という話ではないようだ。だって担当になるかもしれない王女の私が魔法を選んで、それでエルディちゃんが喜ぶのはおかしいもの。だよね?
ーーああ!何かこれ、それなりに意味のある選択肢だったような気がしてならないんだけど.....。
「ううーん? 近々、わたくしの公務で王立学園への視察訪問、などの予定でもありましたかしら? それで帝王学か魔法、どちらかの学科を視察するかを事前に選べると? けれどあの学園は確か、帝王学の学科は設置されていませんでしたわよね....」
「あっ、俺はそこの卒業生なんですが、うちの母校には確かに帝王学なんて学科はないです。けど聞いた話では...ええと。特に優秀な成績を修めた者の中から希望者は卒業後も院生という身分で学園に残りまして。その院生ならば教授の下で特別に帝王学や政治学なども学ぶ機会があるって、俺は、ーーいえっ!私はそう耳にした事が、ございます。」
「まあっ。あの学園にはそのような院生制度があるのですね!そこまではわたくし、存じ上げませんでした。」
私の独り言のような問いに、近衛騎士の中で一番対人スキルの高そうな...ええと。見かけは大阪の金髪兄ちゃんっぽい騎士さんが丁寧に説明してくれた。
なるほど。おそらく院生にまでなれた者には学園の教師への道や、お城の評議会議員や貴族官僚への道があるというシステムなんだ。でも、やっぱり正規では帝王学の学科はないという事か。結局意味分からんままだ。
「ーーガドゥラケル!ユーフェリア殿下に対して口調が気安いぞ!殿下、恐れながら申し上げます。」
ん? 今度は対人スキルが一番低くそうな近衛騎士が話しかけてきた。
ーーわ、わあ。背がものすごーっく高い騎士さんだな。
「失礼ながら、ユーフェリア殿下におかれましてはこのエルドラシア王国の王族としての心構えと、それに伴う国王陛下様への御威光、並びに国内外への影響力を著しく軽視なされているように見受けられます。何故先ほどは無礼極まりない不届き者へ、殿下は軽々しくも謁見を許可されてしまったのでしょうか? 重ねて申し上げればこの度の件、ランド・スチュワード(※城を管理する最高責任者)を通してギュンスター伯爵家に正式に厳重抗議の処置をお取りになられるべきかと。」
あら。つまり、暫定的にも自国の第一王女殿下がナメられてんじゃねえぞと。パパ!私、あの子に馬鹿されたの~っ!と訴え出ろやと。
ヤダよ、そんなめんどくさいこと。
取り敢えず、この近衛騎士の背が高すぎて表情がよく見えないので、ちょいと屈んでくれるように手で合図する。
ーーいやいや! 膝まで突く必要ないってば!
「お立ちなさい。わたくしは職務に堅実であり、叱咤を覚悟で苦言を呈してくれる忠義な部下の顔を見ておきたい。」
「!ーーですが!王女殿下が私のような一塊の騎士と対等に目線を合わせるなど!」
おお。怒り顔だけど、意外とイケメン騎士さんだったわ。アッシュブラウンの短髪に黒い瞳。ホントに堅実を絵に描いたような人物じゃん。
「ーーー林深ければ鳥棲み、水広ければ魚遊ぶ。 仁義積もれば、物自らこれに帰す。ーーーあのような小者を、いちいち相手にしていては、かえってわたくしの程度が知れるというもの。時間の無駄ですわ、先を進みましょう。」
必殺!困った時は難解な言葉で敵をけむに巻いて逃げろ、だ!
呆然と目を見開くイケメン騎士はさておき。思わぬ障害で時間が経ってしまっている。早く王様の元へ行かないと~っ!
◇◇◇◇◇◇◇
「なあなあ、ローラント。さっきのユーフェリア殿下のお言葉、どういう意味? 俺、難しい言い回しとか全然分かんねえんだわ。教えて!」
王殿宮へ続く回廊を毅然と進み行くユーフェリア殿下。
14歳の少女とは到底思えぬ堂々とした歩みと全身から滲み出る王族ならではの気品。“高貴なる知の姫君”、そう王宮内で称されるようになったのは、果たしていつの頃からだったか。その貴人の後衛を並列して務める同僚の近衛騎士、ガドゥラケルが小声で私に尋ねてくる。
奴は今まで何十人もの女人を取っ替え引っ替えと、付き合っては別れてを繰り返す近衛騎士一の軟派野郎。
だが幼少期より偏屈で近寄り難い奴と周囲からいつも遠巻きにされている、そんな俺などにも忌憚なく話しかけてくる気のいい奴で。そんなところを、実は俺は尊敬していたりする。
ーーまあ、絶対に本人には言わなぬがな。
俺は先ほどのようにカッと血が上りやすい。ギュンスター伯爵子息のあんまりな態度についつい、ユーフェリア殿下に余計な口出しをしてしまった。あんな甘ったれボンボン、殿下は歯牙にもかけておられなかったというのに....。
「あれは帝王学における名言で遺教の一つ。君主の懐と仁義の心が深ければ、様々な思想や能力を持った臣下や民がその下に自然と多く集い、国は良いように治まる。つまり、上に立つものには寛容さが必要であるという故人の教えだ。」
「......へ、へえー。聞いても俺、何となくしか分からんわ。うーんと、要はユーフェリア殿下ってば、有能な臣下や民をいっぱい集めたいの? そんなんなら俺がユーフェリア様ファン1号になっちゃうよ!略してユーフェ様ファンくらぶ!会員集めは顔の広ーい、この俺に任せときなっての!」
「......それは違う。しかもお前の顔が広いのは、若い女性限定だろうに....」
ユ、ユーフェ様ファンくらぶ...活動内容が気になるところだが。そしてサクッと殿下を愛称呼ばわりとか、お前は本当に気安い奴だな。
そんな頓珍漢な事を言い出す同僚に呆れるも、ふと周辺警護の為に歩いてきた後方を振り返った俺は、
ーーーーーえ? フレイ殿下?
遠目ではっきりとは確認できないが、第一王子フレイ殿下がこちらをじっと見ておられる....??
そのお姿を見てしまった俺の背筋が本能的にビクリとなったのだが、ガドゥラケル、お前はどうして平気なのだ.....。
*********
控えの間に通されたものの、面会に明確な時間指定はなかった。
まあ、あったところで日々多忙な公務スケジュールをこなす国王陛下。呼び出された目下が目上に待たされるのは前世においても当然の社会の常識。ちくしょう。いっそ目を開けたまま惰眠!にチャレンジしてみようか? と思っていたら、予想外にもすぐさま入室の許可が下りてしまう。
もうですか!仕方ない、めんどい事はちゃっちゃっと終わらせよう。
ため息を必死で飲み込んだ私は、王居専属執事さんの案内で国王陛下の執務室へと通された。が。
「....っ!!」
「おう!久しぶりだな、ユーフェ!今お前の大好物のカナッペ焼いてんだよ。まあ、適当に好きなののっけて食いなって。」
執務机で30代くらいのおっさんが七輪でカナッペを焼いていた。
ーーーーーそのおっさんの名は、
オルストフ・フォン・エルドラシア。
城に忍び込んだ不審人物などではなく、れっきとしたこのエルドラシア王国のトップであり、私の仮の義父にして正しくは叔父にあたる。
そして昔からだけどこの王様、姪とはいえ私にフレンドリーすぎる。
やはり為政者としての鋭い洞察力か、はたまた野生の本能なのか。はっきりとは言えないけど、どうやら私の精神年齢が見た目通りじゃないって気付いちゃってるような節がある。
ーーだから私はこの王様が苦手なんだ。
彼の座る執務机の前まで歩を進めた私は、カナッペの焼ける香ばしい匂いを前に、バルーンタイプの姫ドレスの端をつまむ。
「本日はご尊顔拝し、」「省略!公式の場ではともかく、義父に儀礼的な挨拶も礼も要らんだろ。ほれ、さっさとそこに座れよ。」
や、やりづらっ!
慣例崩されると不安でまごつくシャイな元日本人なんだよ!
も、もういいや。薦められたし焼きカナッペでも食べちゃおう。
焼きカナッペとは、固めのバゲットをスライスして少し焼いて焦げ目を付け、その上にトマトやチーズやサーモンに生ハム、またはフルーツやジャムなど好きな具材を自由にのせて食べる手軽な軽食だ。
というか、その七輪モドキは一体どこから調達した。何故室内で火器を使っても煙が充満しないの?
あ、そうだった。この王様、空間に関する魔法が得意なんだっけ。
「うん!美味しい!チェダーチーズとナッツの組み合わせが最高ですわ。のせてすぐに食べないとチーズが溶け過ぎてしまうのが難ですけれど。ーーそれでお父様、わたくしに何のご用ですか?」
「おう。俺はぶつ切り燻製肉にレモンバジルソースがけが一番のお気に入りだ!ほい、一つ食べてみろよ。ああ、それでだな。呼び出した要件はアレだ。ーーーあんな、ユーフェ。単刀直入に聞くがお前、ハーレムエンドって言葉を知ってるか?」
ーーーは!??




