私とエルドラシア王家の呪い1
“人知を超えた凄まじい魔力”、とやらを放っているらしい“草の王冠”を頭に乗っけて魔法空間から帰還してしまった私は、アドロス学園長と魔法学科の担当教師に事情徴収を受ける事となった。
この教師の名はエフィー・クライシス先生。肩先までの赤みがかったブラウンの髪と紅茶色の瞳、中性的な雰囲気で若いのに随分と落ち着いて見える女性だ。その横にはいつも不機嫌顔の、あの少年が何故か当然のように座っていて。
ーーさて。この場をどう切り抜けたらよいものか。
案の定、王立学園中央棟にあるこの豪華な貴賓室で、私の正面に座ったアドロス学園長が喜々として尋ねてきた。
「ユーフェリア王女殿下。このようにお時間を取らせて申し訳ないのぅ。じゃが、この度殿下が魔法空間からお持ち帰りになられたその代物は、恐らく国家機密に関する重大な秘宝の一つとお見受け致す。さすれば王女殿下がどういった経緯と事情とで、果たしてどなたかから秘宝を手に入れられたかを!是非、我々に詳しくお聞かせ願いたい!」
「ーーまあ、重大な秘宝だなんて!きっと皆様は何か勘違いをなさってません?これはそんじょそこらのただの草の冠ですし、個別に課せられた適性試験の最中に、一体私がどこのどなたと、どうやってお会いしてたと?」
ムダだろうけど一応シラを切ってみた。
魔法空間から自力で脱出せよというあの適性試験、予想するに合格判定の為に監視されていたと思う。なら、さっきの出来事は筒抜けだったのでは?
「お話しする気はないとおっしゃるか?そんじょそこらのただの草の冠などと!憚りながらも申し上げるが!魔法のエキスパートである我らを前に、そのように無意味な、っ、お戯れをっ、ーーくっ!いかん!恐れ多くて、と、とても文句なんぞっ!は、ははーーーっ!」
学園長の様子がなんかおかしくない!?
ギクシャクと椅子から下りて、えっ、私に跪こうとしている!?
「あー、大変です!条件が揃ったのか、恩恵のカリスマが発動してますね!ユーフェリア嬢、できればその草の王冠を今すぐ頭から外して下さい!その秘宝の力は、目にした者を無条件で君主と仰ぎたくなっちゃう非常に厄介で絶大なカリスマ性を放つ、というものなのです。ーーうわ!プライドの高いこのエルディが!と、とんでもない強制力ですね!」
「ホント最悪!よりによって、この僕が!ユーフェ嬢相手にひれ伏したくなってるなんて!あー!もうおぉおお!頼むから早く取ってくんない!勘弁してよ!」
エフィー先生が咄嗟に目元を手で覆って椅子ごと後ずさる!
エルディ君に至ってはすでに土下座していた。え? 土下座っっ!?
こ、これが神の恩恵の力...。うん、捨てよう!
「投げ捨てるでないーーっ!あ、あれは王国の秘宝じゃぞ!!」
「いえ。人サマを無条件で跪かせるアイテムなど、それは秘宝でなくて呪いのアイテムですわ。即刻処分致しましょう。どうぞ!サクッと消して下さいませ!」
「それは確かに!いや、だがしかし!ユーフェリア王女殿下は、かの尊いお方からご説明をお受けになられたじゃろうて?処分などとおっしゃっては罰当たりですぞ!まあ、さりとて非常に危険であるし仕方ない。そこの草の王冠は、取り敢えずパネルカードに変えておくぞい!」
学園長が指をパチンと鳴らすと、床に落ちた草の王冠がルーティンパネルカードに変わって私の手元に飛んできた。数値はⅨ番で、図柄は月桂樹の王冠を被ったヒースクリフ王らしき人物。顔の部分は描かれてない。
......マズい。結局話すまでもなく、全部お見通しなの?
あの謎のお花畑での、あの謎の妖精さんとの会話を、あの謎の荒唐無稽な呪いの話を、全て見られていた?
「謎多いね。全てってのはちょっと違うよ。学園長が見ていたのはユーフェ嬢が暗い海の底にいた場面まで。けど、その妖精さんってのにユーフェ嬢は聞いたんでしょ? 初代エルドラシア国王ヒースクリフは、13もの神様から恩恵の力を与えられていたって。つまりさ、その妖精さん以外にも他の神様がこの世界には存在していて、同じ内容の啓示を下してるって事。」
ふらりと立ち上がって椅子に座り直したエルディ君。
不機嫌極まりない顔で、懐から何か平ぺったいものを取り出した。
ーーそれは!ああ、もう嫌な予感しかしない。
「私、妖精さんの話をいつしましたかしら? そもそも今更ですけれど。この国家機密とやらに関する重大なお話の席に、成績優秀生といえど何故、いち生徒でしかないエルディ君が同席していらっしゃるのでしょうか?ーーああ、いえ。やっぱり聞きたくない、かも。」
目を逸らす私に向かって、不機嫌顔からふと何故か同情顔になったエルディ君が、取り出したそれの“表”を掲げて見せた。
「ヒースクリフ王のルーティンパネルカード、Ⅶ番の“魔境”。あのね、残念ながら僕も大いに関係者なの。この恩恵の力は人の思考を読み取る精神感応力。勝手に悪いとは思うけど、今回は重大な案件だから使わせてもらった。」
「え。ちょっと待って。精神感応...って!私の思考を、頭の中で考えてる事を、たった今も、よ、よよよ読んでんの!? 」
「だからそう言ってる。ーーそういうわけで、ユーフェ嬢がさっき遭遇したあの神様らしき存在者の事も、そこで交わした会話も、ユーフェ嬢が頭で回想した思考部分は、ぼんやりとした映像として僕は覗かせてもらった。でも誓ってこんな悪趣味な力、よっぽどの事情でもない限り滅多に使ったりしない!ま、まあ、そんな事、言っても信じられないだろうけど!」
思考を読み取る力、回想した部分を、映像として、見られた...!
そして、ヒースクリフ王のルーティンパネルカードの1枚を、まさかエルディ君が所有していた!?
「ユーフェリア王女殿下よ。我が王立学園も、ヒースクリフ王の遺されたルーティンパネルカードを1枚所有しておる。Ⅹ番の“天の杯 地の匙”でな、これは効果範囲内における学力、運動能力、様々な潜在能力の向上率アップ補助。つまりは、この王立学園で真面目に剣の鍛錬なり勉学に励めば、成長率と成長速度が一段と上がりやすくなる。まさにこういった教育機関にピッタリな秘宝といえような。極秘であるが、王立学園創立当初よりずっと代々学園長に就任する者へと受け継がれているものなんじゃ。」
能力アップの補助効果...育成系のRPGみたい。
アドロス学園長の説明に大きく頷くエフィー先生。そうか。この王立学園にそんな魔法補助効果があるのなら、教える先生方は知っていて当然というわけだ。過去に王族の大半がこの学園に通っていた実績も、そういった理由で?
何だろう...逃げ場が、どんどん断たれていく気配がする。
だって、こんな極秘情報とか国家重大機密とか!エルディ君に至ってはわざわざ思考を読み取る力なんて、隠してればいいものをあえて私に教えるとか!これ、もう断らせる気がないって事じゃん!
「あの!大変心苦しいのですけれど、皆様のご期待に添えるには私ではかなり役不足かと。13もの神様が存在するとか魔法のカード集めだとか!多少人より知能が高いだけの、それだけが取り柄の中身凡庸な私には到底務め上げられぬ無理難題ですし、正直面倒臭いです!」
「め、面倒臭い? 凡庸って、貴女のどこらへんがどう凡庸と!?その歳で“高貴なる知の姫君”の二つ名を持ち、既に大きく王国に貢献しておられるのに!」
「凡!庸!ですわよ!見てらしたのならご存知でしょうが、あの通り魔法の才能も皆無でしたし!魔法のカード集めなどとか、そんなどこかの魔法少女のようなお役目は不適任ですわ!可愛いさも健気さも天然さも持ち合わせておりませんし似合いませんし!」
「魔法カード集めにそんなステイタスは要らぬと思うんじゃが!そして魔法少女とは一体なんぞい!ユーフェリア王女殿下の魔法の才能は...いや、魔法を放つと不思議な事が起こるのは、それはそれで十分に興味深い!」
「ユーフェ嬢は十分天然でしょ。その、努力家で人知れず回りを気遣ってるし、そこは健気だと思うし、可愛いより美人ってなだけで、」
「は?え?」
「あー、もういいよ!どんだけ気が進まないか分かったから!」
「「「「.......」」」」
私が天然で、健気で、美人と言った...?
ツンデレエルディ君がおかしな事を言ったぞ?全員黙り込んじゃったし、なんだか微妙な空気になってしまった....
「...その、取り敢えずヒースクリフ王のルーティンパネルカードはもう既に3枚、このエルドラシア王国に現存しているというわけですのね。では残りは後、10枚...」
ーーあれ? ふと気付いたけど。
普通のカードゲームのルーティンパネルの図柄は全11種だ。赤と青の色違いが2ペアずつで総数が44枚。
でもヒースクリフ王のルーティンパネルカードは13枚? 2枚も多い?
「ユーフェリア嬢。ギュンスター伯爵家からも、是非ユーフェリア嬢のお力添えを願いたい。本当にどうしても気が進まないというのでしょうか? 何か事情があるのなら、どうかその理由を話してはもらえませんか?」
エフィー先生が居住まいを正して深く頭を下げた。
“ギュンスター伯爵家から”と言った?どういう事??
「あのさ。実はこのエフィー先生、うちの父さんの年の離れた妹で僕の叔母。瞳の色が同じでしょ。この色はギュンスター家の血筋に出る特徴だから覚えといて。」
「はい?エフィー先生が、エルディ君の叔母?」
...あ、そうだったの。
ご結婚されているからか性が違ってて思い至らなかった。言われてみれば...同じ紅茶色の瞳で、どことなく顔立ちが似ているね。
「ユーフェリア王女殿下よ。これはいずれ近いうちに申し上げるつもりだったのじゃが、王女である貴女にとって呪いは誰よりも他人事ではないんじゃ。今現在、呪いは王家筋に紛れもなく発動しておる。今は亡きオルヴィナ王妃殿下は、オルストフ国王陛下と相思相愛でご成婚されるもその後4年経ってもご懐妊の兆しが見られずと、不憫な事に気の病になられたほどでな。当時、王国内における医術の最高峰であられた御殿医リュカ・アシュリー殿と、恐縮ながらこの私めが過去の文献やあらゆる専門機関をあたって極秘で調べたところ、このエルドラシア王国に掛けられた呪いの存在が発覚したのじゃ。そして、その顛末は、ーーー」
ーーオルヴィナ王妃殿下が...?
なら、エルドラシア王国に掛けられた呪いの話は本当で、あの妖精さんの発言が嘘ではないという事....?
ーーフレイ君が、本当に私を騙している...?




