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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園編入学日編
26/119

私と魔法学科適性試験3

すみません。

花粉症と戦っていました。


チャンネルを切り替えるように突然変化した風景。

更にその異変と同時に、私の背中を支えていた2人の手の平の感触も消え去る。



「ーーあれ、フレイ君? どこに行ったの? シルヴェスト王子の、あのシリーもいない!?」


魔法学科の適性試験が行われるという事で初等科の大ホールにいた筈の私は、気が付けばポツンと暗い海の底に立っていた。傍にいた筈のフレイ君とシリーはおろか、魔法学科の生徒達も全員いなくなってしまっている。


風景が変わる直前にどこかからかアドロス学園長の声が聞こえた。今から魔法学科の適性試験を始めると、学園長の構築した魔法空間から自力で各自脱出する事が今年の試験だと、確かそのような事を言っていた。

ならばこの目の前に広がる寒々しい海は、夢ではなく幻術?

まるで死後の世界のように薄暗くて寂しい風景。水深何千メールの、太陽光も届かぬ未踏の深海を模しているのだろうか? 音も時間の進みも感じられず、生命らしき存在なんて一つも見当たらない無機質な世界......


「魔法空間って、こんな風に何もない空虚な場所なの...? それとも試験だから、あえて不安を煽るように演出されているのかしら。こんな寒くて暗い世界は幻でも御免だわ。でもここから脱出するって、一体どうすれば...」


襲ってくる精神的な寒気を紛らわすように腕を摩りながら、事前に目を通しておいた魔法学科の教本を頭の中で開いてみる。




魔法効果・魔法空間を打ち消す手段。

 1.術者当人に解呪させる。

 2.練り上げた魔力をその対象物にぶつけて術式を破壊する。

 3.別のそれ以上の魔法効果・魔法空間を重ね掛けする。



「1の術者当人って、試験官のアドロス学園長よね?」


姿を見せなかったからどこにいるかも分からないし、そもそもこの魔法空間から脱出しないとその学園長には会えない。


「となると、現実的な手段は1以外。魔法のコントロールは自信ないけど、先ずはやってみなきゃ!よし!練り上げた魔力を手当たり次第、この魔法空間にぶつけてみよう!」


私は目をつむって、両手の中にゆっくりと魔力を集中させていく。

じんわりと大きくなっていく、これが恐らく私の魔力。それを丸いボールだと頭にイメージして、そして大きく振りかぶって思いっきり投げ付ける!



ーードボンッッッ!!


けれど私の魔法はやっぱり上手くいかなかった。

投げた魔力ボールは途中で水風船のように破裂して壊れてしまい、そして何故かその辺りが舞台照明の一つが落ちたようにフッと暗くなってしまう。


「何で私の魔力が当たると暗くなるの?ーーええと!めげずにもう一度!今度はカマイタチをイメージして、周囲一帯を切り裂くカンジで!」



ーーキィン!キィン!、ーーバシュッ....!


付け焼き刃のカマイタチもやっぱり失敗してしまう。途中でまた何かに弾かれて、呆気なくパラパラと壊れ落ちていく。

落ちた先はそれぞれまた暗くなり、元から薄暗かった海の空間が更に一層暗い闇の海になってしまった。いや、もうその海ですらよく見えなっていて。

脱出どころかどんどん悪くなる目の前の状況に、情けなくも私の身体がガタガタと震え出す!


「どうして失敗する度に暗くなるの!? もう嫌だ、恐い!恐いよ!」


暗闇が恐い?ーー違う、暗闇じゃなくて、恐いのはこの空間。

何が何だか分からない空間、視界がはっきり確認できない空間に、何故か私はとてつもない恐怖を感じていた。だって以前、こんな空間で物凄く恐ろしい目にあったような?


「わ、分からない。それがどんな記憶か、何一つ覚えていない。でもこんなにも恐いって!...何でっ、一体どうして?」


恐怖で震え、口から出る声も掠れる。けれどきっと、自分はその理由を知っている。知っていて、逃げている。


目を固く閉じて、耳を塞いで。


それを、見てしまってはいけない。


何も思い出しては、ダメ。



「だって、私は。私は。私は、前世で、ーーーー」










怒鳴り声が聞こえた。



ヒステリックに喚きちらす、母の叫び声。



そして全てがどす黒いたくさんの赤で塗り潰されて。



気持ち、悪い...ああ、呼吸も上手く...でき、ない...







*********





「ーーああ、もう!貴女ったら、またそんな状態になっちゃって!干渉可能空間にいたからチャンスと思って様子を覗いてみたらこれって、ホントどういう事なのよ!?」



女の子が心配そうにあたふたしていた。

綿菓子のようにふわふわな髪で妖精みたいにキラキラした女の子。サイドの淡いすみれ色のメッシュが特徴的で、蝶々のような透明なはねがパタパタと背中で動いている。


ーー妖精みたいというか、絶対に妖精だ。それも絵本の挿絵に出てくるような、女の子の誰もが一度はなってみたいと憧れる存在。


「あら? 貴女にはこの私がそんなにキラキラに見えているの。ま、まあ、光栄だけど、私は妖精なんかじゃないわよ。それに多分、妖精に見えるのはこの後ろの風景の所為ね。」


ーー妖精さんの指し示す後ろにはお花畑が広がっていた。黄色やピンクに紫や赤と、色鮮やかなラナンキュラスの花が咲き誇る風景。

そのおかげなのか、さっきまでの恐怖心と押し潰されるような息苦しさがすっかり消え去っていた。


「しょうがないからこの空間に避難させてあげたのよ!意味不明な空間がとっても苦手なんでしょ?貴女ったら前回もそんな風に死にそうになって、まともに話もできなかったんだもの!心優しい私の気遣いに、たーっぷり感謝しなさい!」


ーー前回? 妖精さんに、以前にもお会いしました? 私が?


「やっぱり覚えてない!貴女って、IQがすっごく高くて賢いのに、なーんで肝心な事は覚えてないのかしら!?」


ーーそ、そうでしたか。ごめんなさい。本当に全く何も覚えてません。でも今回は必ず妖精さんの事、きっちり覚えておきます!


「当然ね!まあ、それならいいわ!というか、ホント貴女って予定外に謙虚に育っちゃってるわよね!悪役令嬢になってないとか、もうシナリオがめちゃくちゃなんだけど!」


ーー私が、悪役令嬢?...シナリオ!?


「そうよ!予定では貴女、ヒロインの前にこれでもかってくらいに鬱陶しく立ちはだかる、そりゃあ小憎ったらしい敵役だったのよ!そもそもレストワール公爵令嬢の貴女が、あのシオン・セヴォワ、またはエルディアス・ギュンスターの、どっちの婚約者にもなってないとか絶対におかしい!この王国が未だに侵略もされてなくて平和だとか!全ての設定がおかしくなってるの!」


ーーは? シオン・セヴォワ、エルディアス・ギュンスターの、そのどちらかが私の婚約者だった!?...侵略って!このエルドラシア王国がどこの国に侵略されるっていうの!?


「ああ!落ち着いて!その辺りはまあ、今のところは大丈夫みたいよ。今のところはね。」


妖精さんはそこで一旦言葉を切って、真剣な表情になる。

そして私にまるで物語のような、信じられない話を語り出した。


「ーーそれよりもあのね、ちょっと貴女にお願いがあるの。初代エルドラシア国王ヒースクリフが作ったルーティンパネルカードを探して集めて欲しいの。あれを集めないと、エルドラシア王国に掛けられた呪いが解けない。あの子は天から選ばれた勇者だった。この世界に現存する“13もの神”からそれぞれ一つずつ加護を受け、混沌たる戦乱の世に今のエルドラシア王国を打ち建てた英雄王。彼は晩年、その加護の力を13のパネルカードに封じてこの世を去ったの。それがルーティンゲームに使われるパネルカードの由来でもあるのよ。」


ーー初代エルドラシア王国ヒースクリフが神の恩恵の力を受けていた?その力を封じたルーティンパネルカードを、私に集めてほしい!?

でも、どうして私が?...そもそもその、エルドラシア王国に掛けられた呪いって、一体何なの!?


「子孫が絶える恐ろしい呪いよ。今はヒースクリフの子孫であるエルドラシア王家だけに影響を及ぼしている状態だけど。あっ、貴女もこれに入ってるのよ?王家の血を引いてるんだから当然ね。そしてそのうち徐々に、このエルドラシア王国中で子供が生まれなくなっていくわ。」


途方もない話だ。この王国に子供が生まれなくなっていく呪い?

でも言われてみれば...現存の王族筋は異常に少ない。


「貴女にお願いする理由はね、貴女の方がヒロインの位置に近くなってしまったから。勿論、正規ヒロインのあの娘と協力して集めても、それはそれで構わないの。ルーティンパネルカードは必ずしも貴女が手に入れる必要はないから。その加護の力が復活して、このエルドラシア王国内にあればそれだけで王国に掛けられた呪いは解ける。だからお願いね。ーーああ、でも取り敢えず1枚だけは、せめて新たに私から貴女に差し上げる事にするわ!はい、どうぞ、受け取ってね!」


妖精さんが、私の頭にポンッと何かを乗せた。な、何だろう?

手で確認しようとすると、最後に妖精さんはとんでもない事を口にした。


「あのね、貴女。あの王子様を信用しちゃダメよ。騙されてるから。」



ーーえ? 騙されてる?王子様って、どっちの...?



「どっちって、小飛竜の方の王子様に決まってるでしょ!あの子は貴女を騙して油断させておいて、そのうち無理矢理にでも自分の王妃に据えるつもりだから。貴女のずば抜けて高い知能と名声が欲しいのよ。貴女このままだと、何でもいいなりになって従う王妃という名の奴隷にされちゃうんだから。」



ーー嘘!そんなのっ、信じられない!フレイ君が、私を騙してるだなんて!そのうち自分のいいなりになる王妃にするつもりだなんて...!


「信じられないのも無理はないけど、とにかく気を付けて!それじゃあ、私の話はこれでおしまいだから。ヒースクリフのルーティンパネルカード集め、どうかよろしくお願いね!じゃあ、またねーーーっ」



ーーちょっ、ちょっと待って!



呼び止めるも、急激にこのお花畑の空間が視界から遠ざかっていく。

ジェットコースターが逆流走行するような、強引に後ろへ引っ張られる感覚に歯を食いしばって堪える!


ああ、もう!勝手な事ばかり言って、いい逃げするなんて!

王国に掛けられた呪いも、誰がどんな目的でとか!正規ヒロインって、それはどこに誰なのとか!そもそも私が悪役令嬢だった筈のシナリオって、それ何なの!とか。

こっちの聞きたい事はたくさんあるのに!


ーー何よりも!フレイ君が私を騙してるだとか...!






*********





ーーようやく戻った、という感覚を感じて目を開ければ。

私に目掛けて駆け寄ってくる二つの輪郭。



「ユーフェリア姉上!大丈夫なのですか!?」

「ユーフェ!おめでとう!脱出成功したのね!一番最後だったから、とっても心配したのよ!ああ、無事に合格して良かっ..、あら?」


フレイ君とシリー、2人の視線は私の頭に向けられていて。

思わず手で確認すれば、草の感触。


「え、それって、ヒースクリフの“草の王冠”じゃない?」

「そ、そうじゃ...紛れもなく、それは...!」


呆然とそう呟いたのは少し離れた位置に立っていたエルディ君とアドロス学園長。

草の王冠って、ルーティンパネルカードにある図柄の、あれ?

その実物の草の王冠が、私の頭に被せられている?


「なんと!人知を超えた凄まじい魔力を感じるぞい!それはまさに伝説のヒースクリフの秘宝!おお!ユーフェリア王女殿下に神の奇跡が!」




もしかしなくても。私はとんでもない使命を背負わされたらしい。




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