私と魔法学科適性試験2
サブタイトルを変更しました。
「久しぶりだね!ユーフェ!6年も会わないうちに何だかエレガントな美人になっちゃって!ふふっ、でもきっと中身は昔のまま、ちょっぴりニブくて人見知りさんみたい。ああ!やっと貴女に会えて嬉しい!」
ーーいえ、貴方の方が何万倍も美人です、と思わずツッコミたくなるようなビジュアル系の色男がそこにいた。
軽やかなハニーブラウンの髪を左肩で緩くリボンで結んで胸元まで伸ばし、彫りの深い瞼から覗く切れ長の瞳は明るいネーブルオレンジ。感動の再会らしき抱擁の後、私の両肩に手を乗せたままニコニコ微笑んでいる。
えっ? どこの誰だろう、この人?
びっくりして動けない私の代わりに、横のフレイ君がペリッと彼の手を引き剥がす。
「失敬。少々馴れ馴れしくし過ぎです。学園内と言えど、女性にみだりに触れないで頂きたい。こちらのユーフェリア姉上には、それはもう、特に。」
「ーーあら!なんて綺麗な男の子!焼きもちなんて焼いちゃって、まあ!可愛い!もしかして、ユーフェの彼氏さん? あ、手紙に書いてあったビスクドールのフレイ王子君ね!? 」
「か、可愛い? 僕が、ビスクドール?」
わなわなと、笑顔ながら何だかとても怒っている?
フレイ君は確かに可愛い系だけど、最近は男らしさ成分も確実に加わってきたから。うん、そこはちょっと希望を持ってもいいよ!
しかしこの人、背もスラッと高い美形さんなのに口調と仕種が残念なおネエキャラ?
ーーあれ、でも待てよ? “手紙”って、“6年”って...!
「も、もしかして!まさかそこの貴方はシリー!?」
「はぁーい!正解っ!本名はシルヴェスト・ロイズ・トライアルトと申しまーす!ずっと秘密にしてたんだけど、実は私、お隣りのトライアルト王国の王族でぇ、王子様なの!」
いや。そこじゃない。秘密にしてたのは王子だとかのそこじゃない!
「でも!シリーは女の子だった筈!私が6年前に出会ったシリー嬢は、日傘とフリルのワンピースがとってもよく似合う、向日葵のように明るいご令嬢で...!」
「うんうん。さすがにこの身長じゃあもうフリルは着れないけど、そのシリー嬢が私ってわけ!実は6年前のあの当時、うちの王宮内がちょっとゴタゴタしてて。日常的に暗殺の危険性があってね。だからいつも女装して身を守ってたの。ずっとユーフェを騙しててごめんね?」
申し訳なさげに眉尻を下げるシリー。いや、シルヴェスト王子か。
ーー正直、物凄いショックだ。
気心の知れた文通友達が、実は女装の男性だったなんて!
本名は事情があってどうしても明かせないって事で、愛称のシリーで呼んでいたけど。私は今までずっと、男性相手にあれやこれやと友情の手紙をやり取りしていたの!?
「そんな!嘘でしょう!?確かにあのシリーと髪も瞳の色も一緒だけど!本当はからかってて、シリーのお兄様だとかでは...!?」
信じられないと喚く私に、シルヴェスト王子はやや声のトーンを落とし、自分がシリーだという紛れも無い証拠を挙げていく。
長年の文通友達だからこそ、知っている私の秘密を。
「んーと。ユーフェの初恋は5歳の時に出会った手品の王子様。年下よりも年上がタイプ。教会の鐘の音が何故か恐い。すっごく頭がいいのに普通に数字を数えていくのは苦手。実は寝起きが悪くて、夏なんかは」「いやあああああ!!」
「ユーフェリア姉上は、年下よりも、年上が、タイプ...」
何故か酷くショックを受けている様子のフレイ君。私は大慌てでシルヴェスト王子にストップをかける!
ああ!もう!間違いなく、この美形おネエはシリーだ!ちくしょうっ!女の子同士だと思って気を許し、色んな秘密の話をしてしまっていた!
私はずっと騙されていたんだ...!
「お願い、ユーフェ。...どうかそんな顔をしないで。性別が違ったって、実は隣国の王子だったからって、今まで私とユーフェが築き上げた友情は何一つ変わらない。ずっと黙っていたのはね、そうやって距離を置かれるのが嫌だったの。こんな風に混乱させて本当にごめんなさい。...けれど、あのフェリアの共同研究仲間で、お互い謎や疑問を解き明かすのが大好きな私達。その友情は絶対に嘘じゃない。ね!そうでしょう? それとも男だって事が、そんなにも受け入れられない?」
「シリー……。」
フェリアの共同研究仲間.....。
今やエルドラシア王国内で小麦と並んで主要生産穀物となったフェリアは、私が研究開発したものだ。けれどその成功は、このシリーの存在なくしては有り得なかった。
苦労を共にした友情に、確かに性別なんかは関係ない...。
「ーーちょっと!あのさ。込み入った複雑な話をしてるみたいだけど、そろそろ試験が始まるみたいだし、静かにしたら? 回りのみんなも落ち着かなくて、かなり迷惑なんだけど!」
同じ魔法学科のエルディちゃんが不機嫌顔で注意してきた。
王女殿下の私を抱き締めるという、シルヴェスト王子のとんでもない行動で大注目を浴びていたらしい。登校の大騒ぎからして入学早々、さすがに目立ち過ぎだ。いい加減に自重しなきゃ...。
ーーん? でも今、試験と言った?
「あの? エルディアス様。試験とは、それは何の事でしょう?」
「あー、学園の生徒同士なんだから、エルディでいいよ。僕もユーフェリア王女殿下とか呼ぶの、いちいち面倒だし!それでユーフェ嬢、試験というのは魔法学科の適性試験だよ。魔法を本格的に学ぶのに、ある程度の魔力を持ってないと話にならないでしょ? それを量る為の試験を毎年この始業式の後にやってるの。魔力って実は不安定なところがあってさ、精神的ショックや生活環境の変化によっていきなり保有量が大きく増減する事もあるから。だから必ず毎年、魔力量を量る試験があるんだ。」
「魔法学科に適性試験があったの!? エルディ君!私、多分それ、受からないと思うわ!ううん、絶対確実に落ちるのだけど!?」
「えええ、エルディ“君”!?」
「姉上、大丈夫ですよ。平均的な魔力量で合格できます。代々魔力保有量が特別高いとされるエルドラシア王家の血を引く姉上ならば、問題なく合格できる筈です。」
フレイ君が平均でいいと、安心させようとするけれど!
「そ、それがムリなの!私は確かに間違いなく魔力もあるし、調子が良ければ簡単な魔法も使えるけれど。でも実は自分で全くコントロールができないの!だからそこをきちんと学ぼうと、魔法学科を希望したのだけれど!?」
全然使い熟せない、つまり、その適性自体がないんだ!
学びたくとも適性試験に受からなきゃどうしようもないと!
「まあまあ。ユーフェならきっと大丈夫!万一、落ちちゃったら他の学科に移ればいいんだしね!うん、その時は私もユーフェと一緒よ!私が第二候補にしてた、伝統刺繍研究学科なんてどう?」
「そこは興味ないわ!けど有難う、シリー!あ、いえ、シルヴェスト王子殿下。」
「あら、やだ!今まで通りにシリーって愛称で呼んでよ!正体が王子だったからって、壁を作るなんて悲しい!ねっ!」
「...あ、そうね。確かに言動は手紙のシリーそのものだし、男女で態度を変えるなんて差別よね。」
うん。偏見はよくない。シリーはおネエだったんだと思えば案外平気かも。
「...ねえ、前から思ってたけどユーフェ嬢ってば、案外チョロ過ぎない?」
「...厄介な強敵が現れた...」
うーん、もう音芸教養学科とかでいいか!その名の通り、教養的な音楽を習ったり絵画や美術品を鑑賞したりする学科。
はい。退屈で死にそう。
ガックリ肩を落としたその時、大ホールにアドロス学園長の高笑いが響き渡った。
「ふぉっふぉっふぉーー!スマン!お待たせ!やっと準備が整ったぞーい!早速、今より魔法学科適性試験の開始じゃ!さあ!試験は超カンタン!わしの構築した魔法空間から、自力で各自脱出するだけ!では頑張りんしゃい!」
魔法空間からの脱出が適性試験!?
ーードオンッッッ!!!
「っきゃあ!?」
「あら?大丈夫?」
「姉上!」
地震のような空間の揺れを感じてふらっとよろめけば、とっさに背中をシリーとフレイ君の左右両側から支えられる。
そして一瞬で、目の前の大ホールが海の底になった!




