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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
幼少期・王宮編
14/119

私とフレイ君の約束1

ユーフェリア視点に戻ります。


私の見立てでは軍馬の熱病はやっぱり馬流感だと思う。


馬インフルエンザとも呼ばれ、日本でも1970年代におよそ6700頭以上が発症した呼吸器疾患の伝染病だ。発熱に咳と多量の鼻汁、食欲不振などといった症状で主に飛沫による感染で拡大し、その感染力は恐ろしく高く感染速度も速い。けれど確か死に直結するほど毒性のある病ではなかったし、人に移ったという症例もない。

なのにこの警邏隊駐屯地ではすでに死亡した軍馬もいるとか。


ーー実を言うと前世では医師か医学研究者を目指していた私。懐かしくも遠い世界での記憶を掘り起こしつつ、患畜の押し込められた厩舎内をセヴォワ公爵家代表のフレイ君と共に視察していく。

詳しく今までの経緯(?何故か懇切丁寧に説明してくれる)を聞けば、このセヴォワ公爵領では軍馬が熱病を発症する以前に、同じく警邏隊が所有する軍用小飛竜が先んじて熱病を集団発症したという。なら感染源はその小飛竜から、という推論が成り立つわけなんだけど。でも受容体の全く異なる哺乳類・奇蹄目馬科の動物に、非鳥類型恐竜(?)ええと、とにかく哺乳類ではない小飛竜のインフルエンザが感染なんてするのだろうか?


雨の予想で勝ち取った賭けの戦利品の厩舎への視察。中では会見でお話したフレイ君の侍医アシュリーさんを筆頭とした、獣医さんら医療チームが懸命な治療にあたっていた。ーーあ、うちのレストワールの獣医師ら2名も加わっている。本当に予想外に好意的だな...。



「それにしても、ユーフェリア嬢は農業分野だけでなく気象学にも長けておられるのですね。噂以上の聡明さで...もはや感服するばかりです。けれどその結果、必然的にこの僕も感染病の厩舎へと堂々立ち入る事ができたのですから。どうやら稀なる機会に恵まれたようです。」


そういって興味深そうに厩舎内や患畜の軍馬を見ているフレイ君。

いやいやでも。人の事はなんとやらだけど、エルドラシア王家の血も引くセヴォワ公爵家の大事な若様が、やすやすとこんな危険な場所に足を踏み入れてしまっていいのだろうか。

ーーやんわりとその疑問をぶつけてみると....


「問題ありません。この熱病が決して人に移らない事は僕も知っていますし、父上からはこの会見における全権を委任されているのです。ですがお恥ずかしい話、まるで生態系の異なる小飛竜から軍馬へと感染したのは想定外でした。また、それらの感染経路も未だに分かっていないのです。己の対処の甘さを猛省し、早急に本格的な調査団を立ち上げねばと思っていたところで...」


こ、この若様!まだ10歳じゃなかったっけ...!?

思慮深く真摯な姿勢と謙虚さ、ただならぬ品格も滲み出てるしビスクドール並みの特上美少年だし!ーーっ末恐ろしいわっっ!せめて俺様な性格だったなら逆に愛嬌も感じられるのに!それについさっきも「その白い前掛けのご衣装、清楚でとても可愛らしいですね」って~~~っ!いいい、いきなり何言い出すのっ!?


「...あの? 先ほどから口数が少ないように感じられます。やはり、医療に不勉強者の僕などが案内人では、ユーフェリア嬢にはご満足頂けないのでしょうか?」


そう心配そうにうなだれた子犬...もとい!セヴォワ家の若様。


「いいえ!こ、これは、あのっ!ーー先ほどはわたくし、はしたなくも大はしゃぎしてしまって。そのっ...我に返りますと、今さらながら恥ずかしく。フレイ様のご説明はとても的確で、疑問点などもきちんと受け答えしていただけますので大変助かりますわ。」


そう正直に告げると、彼の頬が安心したように緩む。

ーーっだから何でこうも好意的なの!?何の意図あってか、私の父、レストワール公爵家領主が不意に申し入れたこの会見。受け入れ拒否はもちろん、多少の無礼な扱いも覚悟の上でやってきたんだけど。

ああ、でも!あれはホントやらかしたわ...。初めて間近で見られた小飛竜を前にどんだけ浮かれまくっちゃった事か!でも竜だよ!本当にホンモノの空飛んじゃうリアルドラゴンさんなんだよ!思わずテンション上がっちゃうのもムリないよね!?


「そうでしたか。確かに少々驚きましたが、僕も友人の前では時に羽目を外す事もありますし。あのようにあるがまま、素直にはしゃぐユーフェリア嬢は、見ていて大変魅力的でした。」


ーーは ? な ん で す と !


「みっ、魅力的...!? あ、その、えっ!? 」


「はい。僕は素直に好ましいと、そう感じました。それで、あの。もしも、」「ーーフレイ様!!大変です!!」


「「!??」」



フレイ君が不意に真剣な表情で何かを言いかけた時。ーー厩舎内にアシュリーさんの切迫した叫び声が響き渡った!


急ぎ二人でその場所へ駆け寄れば、治療中だった軍馬が苦しそうに激しく咳き込み、ついにはその場に崩れ落ちた!マズい!警戒心の強い軍馬がこんな大勢の人がいる前で倒れるって、これはよっぽど危険な状態だ!


「ーーリュカ、説明をっ!容態が急変したのか!?」


「はい!治療中に突然このように悪化致しました!この個体は高熱が何日も続いて食べ物も受け付けず、体機能が著しく弱っていた様子。なので、活性の治癒魔法を使用したのですが!」


かっ、活性の治癒魔法ぉぉぉ!??


「っそれ!ダメです!それが容態急変の原因ですわ!通常の病などで衰弱した身体には、生命力や体組織を活性化させる治癒魔法はもちろん有効的なのですが!けれどこの熱病はウイルスが発症の根源なのです!体内に潜伏するそのウイルスまで活性化させてしまえば、病は今以上に悪化して当たり前です!」


「ういるす...? それがこの熱病の原因だとおっしゃる? しかし、活性の治癒魔法が何故いけなかったのでしょう? 同様の熱病と見受けられた軍用小飛竜には、この治癒魔法は大変効果的でした。そもそも、ユーフェリア様のおっしゃるその“ういるす”とは、一体?? 」


「ええと。ウイルスとは、いわば目に見えないタチの悪い精霊のようなものです。それが咳から吐き出されて他の患畜から接触感染し、胸やお腹の中に巣くって高熱や咳などの症状を引き起こしているのです。活性の治癒魔法はその悪い精霊をより一層元気にしてしまい兼ねません。ーーもしや死亡した軍馬は、これと同じように活性の治癒魔法をお使いになられたのではありませんか?」


「目に見えぬ精霊!?そんなものが...。ああ、けれど確かに。ユーフェリア様のご指摘のまさにその通り、死亡した軍馬には活性の治癒魔法が使われたようです。けれど治療自体がもう手遅れで、それがもはや効かずと事切れたとばかり...!」


「熱病の小飛竜の治療において、活性の治癒魔法が有効だったという事実は報告書で僕も確認している。だが、根本的に小飛竜と軍馬では身体の仕組みに大きな隔たりがある。そもそも竜という種族自体が未だ謎の多い未知の生き物、治癒魔法の掛かり方にも相違があるのかもしれません。」


「なるほど...しかし取り敢えず今は、この軍馬の治療が最優先。ユーフェリア様、どうかお教え願いたい。貴女様のご見解では、どのような治療方法がこの軍馬の熱病に最も有効と思われますか?」


「僕からもお願いしたい。その発言による責任問題などは一切問いません。熱病の調査自体がまだ不十分のこの段階、どうぞ忌憚なく貴女のご意見をお聞かせ下さい。」


え? こんな胡散臭い説明を、すんなり信じてくれている!?


ーー私の胸中は、信じられない気持ちでいっぱいだった。

だって前世からこのIQの高さで“話についていけない”、“年長者を立てる気遣いも持ち合わせていないのか”、“でしゃばりで可愛いげのない貴族令嬢よ”と、いつも決まって敬遠され、時にキレられたり陰口を叩かれたりした事もあった。

そんな私の意見を、もしろ敵対している筈のセヴォワの人達が、こうも真剣に受け入れてくれるなんて...!!


「あ、あのっ、ええと!この軍馬のウイルス...悪い精霊には清浄魔法が1番に効くと思われます。肺や胃腸...胸やお腹辺りを丹念に清浄すればそこに巣くった悪い精霊は死滅して、それから活性の治癒魔法を施せば、病は直に治る筈です。」


ウイルスを先ずは体内から根絶するのだ!この世界にある清浄魔法なら、確かそれがピンポイントでできるよね!


「!、分かりました!ならばすぐにでも、その治療方法を試してみましょう!先ずは緊急を要するこの患畜からですな!よし!皆もそのように協力して治療にあたるように!」


「「「はいっっっ!」」」


本当にそのまま私の意見は受け入れられた。

この治療方法できっと間違いない、けれどじわじわと不安が込み上げてくる。そもそも馬流感ではなく、全く別の病だったら?

この私自身は回復系の魔法は未取得で何も出来ないし、もしも見当外れで病状が更に悪化しちゃったら...!?

思わず身震いした瞬間。ーーー私の手に、温かい力が灯った。


「きっと大丈夫です。」


フレイ君が勇気付けるように私の両手を包み込んでいた。


「リュカは大変優秀な医師ですし、これまでも自らこの感染病の治療にあたってきました。それに上手くいかずとも、また何度でも皆で考えればいい。...それが僕ら、上に立つ者の役割なのですから。」



ああ.....


この子は私と違って、本当の統治者の資質を持っている。


この手は優しく、子供ながらにこんなにも力強い。


人を身分や立場なんかで判断せず、ありのままを見ていて。


謙虚で冷静で注意深く、そして常に全体を見守るような姿勢。


この子が当主になったなら、きっと将来はレストワールとも和解できるだろうし、どこよりも立派な領主になるだろう。


独りよがりで偽ものの私とは違うんだ.....






*********





やがてその後。私の提案した治療方法が功を奏し、重篤状態だった患畜は瞬く間に持ち直した。高熱も引いて激しい咳も止み、同様の治療をした他の患畜も容態が目に見えて安静化していく。

やはり私の見立てに間違いはなかったんだ...。



「なんと...!まだ咳は残るものの、これ程効果てきめんとは驚きました。悪しき精霊の話もなんと興味深い事か!ユーフェリア様は医術にも高けていらっしゃると!」


「直ちにこの治療方法を国王陛下に進言致しましょう。もちろん、ユーフェリア嬢の御名で。後は感染源と小飛竜から軍馬へと熱病が移った感染経路を特定できれば...今回はこれで病が収束しても、数年後に再び同じような集団感染が起きてしまう可能性があります。」


「いえ、感染経路については...もしかしたらですが、小飛竜の熱病は別の....」


「はい?」


「あ、いいえ。失礼致しました、ーー何でもありませんわ。」


ーー小飛竜の熱病は馬流感とは全く別物かもしれない。


私の頭の中に思い当たった一つの仮説があったけれど、すでに完治した今では実証するのは難しそう。それに、小飛竜の熱病は軍馬ほど重いものではなかったようだし...

そう思った私はその時、それ以上の思考を閉ざしてしまった。




ーーけれど。この時の判断が大きな間違いであったと、この後に私は酷く後悔する事となる。






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