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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
正規ヒロイン編
118/119

ボクが世界最強になったワケ6



 

 終わりのその日、ボクの視界全てが紅く塗り潰された。



「ーーあ、あああ、ッぁあ!きゃあああああああーーーッ!!」

「ハーシェンヌ!ハーシェンヌ!」



 身体中から血を噴き出して地上へと落下していくボクを、落ち葉色をした神竜姿のダーリンが必死になって追いかけてくる。そのすぐ後ろには、白金色に光り輝く鱗のひいちゃん。

 常に自信満々で十手先までも見通すようなあの彼が、見るからに酷く取り乱し、吠えるように何かを叫び散らしていた。


 

 ─ああ。ボクはもう、助からない。


 こんな事になった原因は今から数ヶ月前。何でもない平凡な日々が続いていたある日、ほんの小さな油断から強欲な“人”の王の計略によって大事な竜眼を奪われたダーリン。

 それだけでも八つ裂きにしてやりたいレベルで腹立たしいってのに、あろう事かその上更に、ダーリンの抉られた眼窩には悍ましき禁呪が仕掛けられていたのだ。

 ボクはおバカだけど本能的な直感だけは鋭い。巧妙に隠されていたその呪印を見つけてとっさにこの身に移し取ってはみたけれど、やっぱり無力なボクではどう足掻いても成す術がなく、結局はこんな最悪な結末を迎えてしまっていた。

 

 ああ、人を人とも思わぬ残虐な儀式によって増大させた闇の禁術はまさに今発動し、ボクの“神力”と一緒に“命”までもを根こそぎ奪っていく。

 他人事のように語ってるけど、別に死ぬのが恐くないわけじゃない。こんな目にあって悔しいとか、何の非もない筈なのに理不尽だとか思わないわけじゃない。

 でも。そんな事よりもボクは、この勝手に操られていた自らの手でよもや最愛のダーリンを殺してしまわずに済んで、それだけはああ、良かったと、今はただその事だけで頭がいっぱいで。


 そして、こんな時にだけど、ふと思う。

 確か人の言葉では“走馬灯”って、呼ぶんだったろうか?

 

 この数日間、絶えず頭の中に知らない男の声が響き、それによって行動も思考もおかしくなっていたボクは、そいつの支配から逃がれようと日中でも夢ばかりを見ていた。

 その懐かしい過去の夢の中で、昔は“はーちゃん”と呼んでくれていたダーリンが、ここ最近ではそうは呼んでくれなくなっていて。

 同じく愛称で呼ばれなくなっていたひいちゃんが「大人ぶりたいだけだろう、気にする必要などないぞ」と言っていたけど、でもホントのところはどうだったのかな?

 ついにダーリンに鬱陶しがられていて、それで距離を置かれていた……?


 あと、もう一つ、気になる事が。

 命尽き果てようとする、今、この時。

 呪術から解放されたおかげなのか、すごく思考がクリアで。

 だからこそ、いや、─ううん。

 逆に呪術によってこの身と魂を蝕まれていたからこそ、この忌まわしき“呪”の元凶が何なのか、一体誰が、何の目的で企てたものだったのか、ボクは、───


 














「“闇”だ。“光”と相対する“闇”の仕業。だよな?リゼラ?」

「ええ、そうね。“過去”と“未来”を司る神竜の私とルゼロが対であるように、闇竜もまた、光竜と対極で常に存在しているもの」


 

 あれ?ボクはもう死んでしまったの?

 最期にあれこれと思考していた筈が知らぬ間にブツンと途切れ、ハタッと気付けばそこは世にも奇妙な空間。

 

 ええと……見たまんまで言うと、“時計だらけの部屋”?

 

 そこらじゅうの棚や壁や柱にとにかく時計、時計、時計。

 形もデザインも素材も実に様々。その手のコレクターが世界中の国々から買い集め、けれどただ無作為に乱雑に飾ったような、そんな異様な風景の部屋。

 そして何よりも、その部屋の中央にはピンクと青の紫陽花色の髪の、双子のようにそっくりな二人が対のお人形のように立っていた。


 てか…あれ?

 よく考えたらこの二人が揃ってるの、ボク初めて見る……?

 

 ルゼロ君は眉間にギギッとしわを寄せていて、その隣のリゼラちゃんは悲痛な表情でボクに向かって口を開いた。


「なんて事…っ!貴女とは常々、不思議な縁があるとは思っていたけれど!でもまさかこんな最悪な縁で結ばれていたなんて!」

「ホント最悪だ。よりによってついに神竜までもが、この“星時計の間”に堕ちてくる事態になるってなあ……」

「え?…“ホットケーキ、の間”??」

「「!!ーーこ、こんな時までぽややん頭ぁあぁ??おい(ねえ)!今のこの状況分かってる!?もうあんた(貴女)死んじゃうとこなんだけど!!」」


 い、今から死んじゃうとこなのにめっちゃ叱られた……


「ええと……確かにボクはもう死んじゃうけどさ。でもボク自身は終わりじゃない、消えて無くなったりはしないよ?」

「「へ??」」


 二人揃ってキョトンとなる。

 双子じゃない筈なのに何故かリンクしている二人。相思相愛の恋人同士だからこそ為せる技……??

 あ、そんな事を考えてる場合じゃないか。


「ルゼロ君にリゼラちゃん、心配してくれてありがとう。でもね、ボクはまたこの世界に戻って来るよ。大好きなダーリンが存在する場所になら、必ず、例えどんな形になっても帰って来る」

「帰って、来る?は?それ、一体どういう事だよ?」

「まあッ!もしかして何か凄い秘策でもあるの!?」

「え?秘策?そんなのないよ?ええと、ただ何となーーく、そう感じるだけ。“ボク”は絶対にこのまま消えて無くならない。ぷつんと消滅したりなんかしない。きっとこの世界にもう一度産まれ落ちて、そしてまた、だぁーーーい好きなダーリンに会えるってね!」

「「は、はぁー、ちゃー…ん……」」


 揃って残念な子を見るような目をされた。

 でも絶対そうなんだもん。ホントに、何が何でも絶対。

 根拠なんてなぁーんもないけど、でも不思議とそうだという確かな自信があった。

 

 呆れ果てたのか何とも言えない沈黙が周囲に落ちるも、不意にルゼロ君がハッと何かを察知したように大声を上げた。


「へッ!?、─か、変わった!!たった今!未来がホントにその通りに改変した!!」

「え!?な、なんですってぇ!?」


 未来が、カイヘン……?

 よく分かんないけど、急に明るい顔つきになった二人。


「は、はーちゃん!どうやら貴女のそのノーテンキさとお馬鹿さが!捩曲げられ歪んだこの世界の運命をほんのちょっとだけ変えたみたいよ!」

「ああ!凄いぞ!色気無駄遣いの力馬鹿で単純脳筋神竜だと思ってたけど!俺、ほんのちょっとだけ見直したぜ!」

「…………ま、まあ、そ、その通りだけど。でもあんまりな言われよう。そして“ほんのちょっとだけ”、ってとこもなんだか、なあー…」

「だってはーちゃんが最愛の彼である魔竜さんと再会できる未来だからって、正直それで何がどう転ぶか不明なんですもの。ひょっとすると大事な事は何一つ変わらないかもしれないわ。ねえ、ルゼロ?」

「だな。期待はしたいけど、今のところこの先の未来は混沌として不透明で不確定。とにかく分岐点が大量生産中、ってカンジだな」


 未来が混沌?ブンキ、テン……??


「ううーん?難しい事は分かんないけど、ダーリンが幸せな未来ならそれでいいし、そうじゃないんならボクが一生懸命頑張ってそんなの変えてみせるよ。だからやっぱ戻って来なくちゃ、だね!」

「な、なんて呑気でポジティブな子……!ああ、だけど!未来を改変する力って、馬鹿の一つ覚え的に重た過ぎる愛とかハンパなくしつこい執着とか!ええ!案外そういうものなのかもしれないわね!」

「リ、リゼラちゃーーーん!いくらなんでも言い過ぎーー!!って、わわ!あ、あれれ…?」


 

 急に視界が霧がかったように見えなくなった。


 あ、これ、終わりだ。

 ボクの命が、ついに尽きてしまった。


 リゼラちゃんとルゼロ君の姿が、もう全然、見えない。

 

 深い眠りに誘われるよう、意識が強引に閉じられ……

 

 ああ、どこか遠くへ、引っ張ら………




「──聖女だ!!黒髪の聖女を見つけ、そして“奴”から護れ!!その女がこの先の未来を、この世界の命運を握る鍵……!!」



 

 

 ─最期の最期に、ルゼロ君のそう叫ぶ声が響いた。




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