ボクが世界最強になったワケ4
眩しい光を放ち、疾風迅雷の如く高速で繰り出される剣先。
ボクの背丈はありそうな手の得物は大型の獣相手にも有効な巨剣・バスタードソード。それをまるで剣劇を披露するが如く頭上高くでクルクルと旋回させっ……
「─ってぇ!のんきに語ってる場合じゃないっての!わっ、ちょっ…!だからこの状況って一体何なの!?今さっき出会ったばかりの君にっ、どうしてボクが攻撃されなきゃなんない、のぉーーっ!?」
「ふむ。やはり相当すばしっこい。それにそのひらひらした衣服は非常にくせ者ですね。狙いが定まりませんし、大きく揺れ動いてどうにも色々と気が散らされます」
「そんなの知ったこっちゃないよ!ていうか!攻撃しといてなんでそうちょいちょい目を逸らすかな!?」
再びササッと目を逸らされた。
え!ちょっと!?せっかくアーシェさんに用意してもらったこの服!やっぱボクには似合わない!?どっかおかしいの!?
あわあわするボクとは真逆に、人をおちょくってるのか抜き身の剣をこちらに向けたまま平然と澄まし顔。
見た目は自由気ままな流浪の剣士。けれど秘境の地で見た湖の湖面のような涼やかな目元にスラリと高く逞しい体躯、冴えない灰色のマントなんかでは隠しきれない美貌のその青年は、ボクと同族の神竜で“光竜”、しかもダーリンの友人のヒースクリフ、と名乗ったけれど…──
てか!ホントこの状況、わけ分かんない!!
「だからさあ!ボク、君になんかやらかしたっけ!?出会い頭に問答無用で攻撃されんの、火竜マギナロスに続いて二度目なんだけど!」
「火竜マギナロス?─ああ、彼は常に寡黙で泰然自若。けれど一旦その感情が限界まで高ぶると、無制御にブレスを穿いてしまう性質があるのです。あの彼のブレス攻撃を受けて、まさか無傷で済んだと?……なるほど。どうやら彼は貴女に一目惚れしてしまったようですね」
「はあああッ!?一目惚れって、意味分かんない!どこの世界に惚れた相手を火だるまにしようとするクソバカ竜がいるのさッ!あれホントびっくりしたんだからね!」
─ん?でも言われてみれば確かに。あの火竜さん、最初から最後までずうーーっとボクの顔をガン見していたよう……
「いやいやいや!そんなわけないし信じらんないし!それにボクはダーリン一筋!だから他の神竜なんてどうッでもいいよ!」
「ダーリン……?それはもしや、アゼルの事を言っている?」
「そうだよ!それ以外に呼ぶわけないし!」
「……解せませんね。あの懐きにくい猫のような気質のアゼルが、そんな風に呼ぶ事を許していると?」
「む!別に呼んでいいよとは言われてないけど!でも絶対やめてとも言われてないもん!フンッ!なんか文句ある!?ダーリンはボクの将来の旦那様なん、──ふぎゃッ!!」
──ブォオンッ!、と剣先がボクの眉間すぐ横を通過した!
決して本気じゃなかった筈の彼の剣が、一転してビリビリと猛烈な殺気を放ってる……!?
「これは想像していた以上に憂慮すべき状況か……?」
「え、え?な、何なの……!?」
「妖竜ハーシェンヌさん、どうやら君はご自分の神力をきちんと理解されていないようだ。いや、それとも充分に知った上で平然と口にしているのか?」
「だから!意味分かんないってば!一体何が言いたいのさ!」
ちょっ…!この人、もしかして神竜一強いんじゃっ…!!
怯むボクをよそに、彼の口からは衝撃の言葉が吐き出される。
このボクが、神竜のみんなに嫌われる理由。どんなに頑張っても、ダーリン以外は誰も友達になってくれない、その本当の原因を、───
「俺は君の前の、先代の妖竜を見知っている」
「へ!?ボ、ボクの前の…先代の妖竜!?」
「そうです。アヴェンダルという名の彼は、歴代の妖竜の中でも類い稀なる強力な“魅了”の神力の持ち主でね。─つまり、その神力を使って常に自分の周囲に数多くの女性を侍らせ、己の何でも言いなりになる傀儡人形にしてしまっていたんだ」
「えっ!!」
─ボクの先代の妖竜が、そんな事を……!?
ああ。でもそれはちっとも不思議なんかじゃない!
妖竜の神力は“他人の思考を読み取る”、更には“相手の精神に干渉して意のままに操る”、─なんだもん。ならば気に入った異性を見つければ手当たり次第に虜にして、欲望のおもむくままに一大ハーレムを作るのも不可能じゃない。
─でも!例えそんな神力を使い熟せたとしても、ボクはっ!
「ハーシェンヌさん、君は同族の神竜達から距離を置かれているでしょう?特に女性の神竜達には極端に避けられているのでは?」
「!!、─そ、そう、だけど!けどそれはボクが大雑把で乱暴者だからしょうがないもん!それが何なの!?今ここで関係ある話!?」
「はい、大いにあります。何故ならばそれは恐らく、妖竜の君が無意識に放つ“魅了”の波動に、彼女達は同性として嫌悪感を感じているのだと思われます。まあそれ以前に、世の女性は自分よりも美しい相手に嫉妬と妬みを抱く傾向が得てしてあるわけですから」
「はあ?美しいって、どこの誰が?」
話が急に飛んだし言ってる事がサッパリだよ!
コテンと首を傾げるボクに「え!?」、と彼はその瞳を限界いっぱいまでまん丸くした。
「まさか、君って、とんでもない天然さん……?」
「テンネンさん?─ああ、ッもお!あのね!この際ハッキリ言っちゃうけどボクってバカなの!神竜一のおバカ竜でおまけに乱暴者の嫌われ竜!だからそんな難しい言い回しされても全然分っかりませぇーーっん!」
「お、おバカ、竜………」
ゴロンッ!と手から剣を取り落した。
綺麗なお顔がポカンとなんか面白い事になってる?
気付けばさっきまでの殺気はどこへやら。呆け顔の彼はやがて小刻みに震え出し、終いには吹き出すように笑い声を上げた。
「ふっ、くく、ぷはははっ!……ああ、つまり、君自身に悪意や良からぬ企みなど微塵もない、というわけか。まあ、考えてみればアゼルがそんな腑抜けである筈はなかった、か」
「腑抜け!?ボクのダーリンをバカにしないでよね!」
「はい、すみません。どうやら完全に俺の勘違いだったようだ。君に対する数々の無礼な振る舞い、この通り謝罪する」
「なんか頭を下げられた!けど!それはそれですっごく気味が悪いよッ!!」
展開の早さに頭がついてけない!そんでもってこの人に頭下げられるって、なんかとんでもなくゾッとするよッ!?
「い、言うね、君…。まあ、非は完全にこちらにあったわけだし、お詫びを兼ねてここは一つ貴重な助言を。実は妖竜である君の“魅了”の神力、完全に制御…とまではいかないけれど、努力次第では最小限に抑えておける方法があります」
「え?ボクの神力を、抑えられるの?」
「ええ。それはさほど難しい事ではなく、とにかく一心不乱に身体を鍛える、長時間全力で大空を飛び回る、などの激しい運動を毎日欠かさず行えばいいのです。ああ、そうですね、いっそのことハーシェンヌさん、神竜最強の称号の“覇王竜”を目指してみては如何でしょうか?」
「“覇王竜”!?神竜最強に、このボクが……!?」
「はい。脅すわけではありませんが…このままだと君、この先の将来かなり危うくなると思いますよ?ああ、いや。きっと今までにも、火竜以外の他の神竜にも突然襲われた事があるのでは?」
「……あ、あった、けど……」
*********
──ええと、つまり。
彼、光竜ヒースクリフの話を聞くところによると。
神竜という生き物は、口からブレスを吐く、背の翼を使って飛翔する、あるいは戦う事でも体内に保有する神力を消費しているらしく。
要は常に毎日激しく身体を動かして神力を消費しておけば、コントロール不能で無意識に漏れる“魅了”の波動の量も減る、というわけだ。
特にボクは今、成体になったばかりで最も神力が満ちあふれている状態なんだって。短気でいつもケンカばかりしちゃってたけど、案外それはそれで良かったらしい。
そもそも先代妖竜アヴェンダルさんは雄だから良かったかもしんないけど、雌のボクは自己防衛の為にも強くなっておく必要があるわけで………
「うん!よおしッ!その覇王竜っての頑張って目指しちゃうぞッ!自分の貞操は自分自分自身で守らなきゃだ!ダーリン以外なんて断固としてお断り!死んでも嫌だもん!」
「はは。ホント君って、美麗で妖絶な見た目印象と中身が180°真逆なんだね。うん、とっても面白い子で百年ぶりのとっても面白そうな事態だから、この俺で良ければ協力しよう」
「え"ー!ううーん、でもきっとボク一人で鍛練するよりかは絶対強くなれるだろうし、まあ、しょうがないっかあー!」
「そうそう。それでもうしょうがないよね。それに俺と鍛えれば上昇率が格段にアップするし大変お得だよ?さあ、では早速チュートリアルから始めようか。ハーシェンヌさん、君の得意な武器は何?─す、素手?ええと、先ずは俺の知るオススメの武器屋に行ってみようか。得意なブレスの属性は?─全属性何でも!?へえー、そこは意外と器用なんだ。素早さと野性的感は人一倍優れているとして、脚力と腕力は…………」
こうして光竜ヒースクリフ、こと、ひいちゃんの提案による“ダーリン以外に貞操を守る為に覇王竜を目指せ!”、というとんでもなく無茶な計画が始まった。
てかボク、なんかこの人に逆らえないんだよおおおッーー!!




