ボクが世界最強になったワケ2
「ボクはダメダメ竜ぅ~チビでおバカで嫌われ竜でぇ~おまけにすぐにキレて暴れる迷惑竜ぅ~…はあっ。あ、あははっ……」
─渇いた笑い声が刹那に水音にかき消されども、この胸を覆い尽くすどんより感はこれっぽっちも消えやしない………
やあ。前回も言ったけどボクは妖竜ハーシェンヌ。
相変わらず友達ゼロで一人ぼっちなこのボクは、薄暗ーい早朝にどっぷりと胸の辺りまで川の水に浸かりつつ、ぶつぶつと自虐的な歌を歌いながら手に掴んだ岩をポイポイと投げ捨てていく。
あ、別に遊んでるわけじゃなく、これでも川の清掃中。
ボクが今浸かっている急流の幅狭のこの川、実は数日前から岩盤の破片や折れた樹木、更には大量の砂利なんかが土まんじゅうのように山済みになってて、この先の下流にある人の村まで水が半分も流れ着かなくなっていた。
村人達も懸命に除去作業にあたっているみたいだけど、岩や木はどれも重くて砂利の量もハンパなく多いしで、なかなか作業が進まなくて困っているらしい。
ちなみに今のボクは人の姿。竜形態だと力加減が難しくって、うっかり川そのものをこの地から抹消しかねないからね!
「ホントはた迷惑な災害竜だよね……。えっと、うん。お察しの通り、この災害を引き起こした悪しき犯人は、っなーんとこのボクなのだぁ!」
あ、あははは………
もう笑うしかない状況だけど、ちゃんとまじめにやらないとまたあの大御所っぽい神竜がクレームにやって来ちゃう。
うう、あれにはホントびっくりした。
正当防衛の時もあったけど、友達が欲しくて世界各地に住む同族の神竜を尋ね回ったボクは、ガン無視に門前払いとあまりにも酷い彼らの態度に毎回ぶちギレ。回りの事など何も考えずと大暴れして、結果その近隣周辺の自然をめちゃくちゃにしてしまっていた。
それでついに先日、森羅竜ラッセル・テリオスと名乗る神竜がボクのところにクレームにやって来たわけだけど………
「ボクなんか軽く弾き飛ばしちゃいそうな巨体にみなぎる大地の神力。あんな大物竜、目を合わすのも恐くって……。それでついその場から一目散に逃げ出しちゃったんだけど……でも、ボクが壊したところはこうして順に直して回ってるし、もう叱りにやって来ないよね……?」
ホントボクって、ダメな神竜だよね………
アホでチキンな自分のどうしようもなさ加減に呆れ果て──ふうっと、ため息を吐いた、まさにその瞬間だった。
「─ねえ、どうしてお姉ちゃんが叱られるの?」
「ひゃうッ!?」
「あ、驚かしちゃった?ごめんね」
微塵の気配もなく突然かけられた声に後ろを振り返れば、そこにはボクより小さな……っ人間の男の子!?
「この川、数日前から水が隻き止められちゃっててみんな困ってたんでしょ?ちょっと気になって様子を見に来たんだけど、お姉ちゃん一人で随分きれいに片付けたんだね!」
「えっ、や、でもこれは……」
「びっくりするほど力持ちだし、人知れず他人の為に奉仕してるなんて、まるで物語に出てくる義賊みたい!カッコいいね!」
「カ、カッコいい……!?」
そもそもこれをやらかしたボクが悪いんだけど……
けれど紅茶色の瞳の少年は、その無垢な瞳でなおもボクを誉めそやす。
「あのね!この間ひいちゃんから貰った本に、お姉ちゃんみたいなキャラが登場してたんだ!えっとね、謎の美少女義賊プリティ・キュートシェリー!もしかしてあれ、お姉ちゃんをモデルにした話だったのかな!?」
ぜ、絶対違うと思う、なあ~。
それにいくらなんでもそのネーミングセンスはどうなんだろうかとツッコミたくなる。“可愛い”が3個も入ってるし………
なんて眉を寄せてたら、少年はボクの服の袖を引っ張っていた。
え?川に入ったら濡れちゃうよ、少年?
「うん、決めた!ボクも正義の義賊ごっこやってみたい!だからお姉ちゃん、今から僕と一緒に次の災害場所に行こう!」
「ん?行こうって、─ッ、ふにゃああああーーーッ!?」
少年が両手をパンッ!と叩いた一瞬で、ボクと彼の背中に大きな翼がバサッと生えてそのまま上空へと飛び立つ!
─えええッ!?この子!ちっこいのに凄腕の魔法使い!?
人の使う飛翔魔法なんて産まれて初めて体験したけど!竜形態の自分の翼で飛ぶよりもずぅぅっと爽快なカンジ!
何よりも、生き生きわくわくした表情の少年に、ボクもつられて気分が跳ね上がってくる。
「あははは!じゃあ行っくよぉ!レッツゴーー!」
「うん!よおーし!レッツゴー!!」
その後。ボクは少年と共に各地を巡って崩落した橋や井戸を直したり、川や道を塞ぐ岩や巨木を撤去したりと修復活動にいそしんだ。
少年は目にするもの全てが真新しい!面白い!といった初々しい反応で、日が落ちてすっかり辺りが見えなくなるまでずっと楽しそうに奉仕活動をしていた。
そしてその日の別れ際、───
「ねえ、これ、お姉ちゃんにあげる。だからまた今度僕と一緒に義賊ごっこしようよ!ね!」
そう言ってにっこり笑顔で手渡されたのは、ブレスレットの形をした通信用魔法アイテム。
え?少年のお手製なの?ボクと違ってなんて器用な!
て、………あれ?
これはもしかして、と、とと友達に、なった、とか………
「僕はアゼル。お姉ちゃんはハーシェンヌって名なの?うーん、ちょっと呼びにくいから、略して“はーちゃん”って呼んでいいかな?」
「喜んで、どうぞ!ふつつか者ですが!末永くよろしくです!」
「……うん?えっと、こちらこそ、よろしくね」
*********
「こんば……あれ?泣いて、いらっしゃる?」
「ん……?あ、森羅竜さんの肩に乗ってた鳥さん……?」
顔を上げれば、夕闇の中でも目立つ極彩色の鳥さんが一羽。
どこかの国境沿いの砦の塔の先っちょ。そこにただぼんやりと座るボクを見つけ、即座に羽をたたんで下りて来た。
「名乗り遅れましたが、森羅竜様の契約獣のイシャンと申します。ああと、先日は突然尋ねて恐がらせてしまったかもと、実は見かけ倒しで中身小心者の森羅竜様が酷く心配されていましてね」
大物竜のあの人が、ボクを心配……?
あ、別にそんなに恐い神竜じゃなかったんだ………
「そうそう、あちらこちらと飛び回って随分頑張られたようで。これでも私、かなりの情報通なのです。各地の知り合いから貴女のご活躍をお聞きしました」
「それは、でも。やらかしたボクには当然の事だし」
「それでも、です。今日一日、とても一生懸命やったのでしょう?お疲れ様でしたね」
「一生懸命やったのは少年だよ。でも誰かと一緒に頑張ると、こんなにもふわふわと満たされた気持ちになるんだね。……うん、ボク、今日は産まれてからこれまでで一番楽しかった。ちょっと楽し過ぎちゃったくらいにね」
楽し過ぎちゃっても涙が出るんだね。
……知らなかった。ボクは産まれてからずっと一人ぼっちで、だからそんなの、知りようもなかったんだ。
「……それにしても驚きましたね。妖竜様は魔竜様とお知り合いだったのですか?あの神竜様はまだ誕生して間もないお方ですが、歴代魔竜の中でもピカイチの魔法の使い手だと噂されています。身に纏う神力の保有量も膨大ですし、オーラのお色もまた、」
「魔竜?、─え!?少年って、人間じゃあ…!?」
「気付いていなかったんですか?……ああ、なるほど。察するに神竜としての気配を魔法で完全に遮断されていたのでしょう。まだ見知らぬも同然の人の領域では、彼も警戒をされていらっしゃったのかと」
─うそぉおおお!あの少年が、ボクと同族の神竜!?
「ぬわあああッ!なんかもうそれって運命だよねッ!」
「運命?はい?」
「だって今でもこんなにドキドキしてるし、もうずっと頭の中から少年の顔がこびりついて全然離れないんだもん!だからつまり、少年はボクの運命のダーリン!─ィよっしゃああああッ!!」
「………………は?」




