ヒロインが原作者の物語8
「あのね、ヒースクリフは君の存在をすごく不思議がっていたんだ。あの眠り姫は一体何者だったのだろうかってね。彼女がもう少し早く目醒めてさえくれれば、辿り着く結末は大きく変わっていくに違いないと、そう口零していた」
「……な、何故、ヒースクリフさんが、私の事を?」
突然槍玉に挙げられたうちを、未だアゼルさんの腕の中のはーちゃんはポカンとした顔で、そして横のオルストフ殿下は無言のまま、けれど微かに眉を寄せて注目していた。
覇王竜のはーちゃんに恩を売る目的で意図的に起こした初代ギュンスター伯爵の遺言開封イベント。だけど蓋を開けてみれば今、遺言者本人に開封条件の裏をかかれて問い詰められる、というまたまたイレギュラーなこの状況。
勿論、言うまでもなくこんな展開は原作にはなかった!
本来の三つ目の開封条件は、“神力の保有者”ではなく“光属性の魔力”、というものであって、その正体が“光竜”であるヒースクリフさんの為にアゼルさんが設定した条件のハズだった。
自由気ままに世界を放浪中、けれど実際その後は音信不通の消息不明だった彼宛てに、晩年のアゼルさんが遺言となるメッセージを遺していたからで……
これは物語終了後の後日談にて、光竜と同じく光属性持ちのヒロインが偶然この場所に隠されていた遺言を開封してしまい、それによって思念体だけども元魔竜のアゼルさんと覇王竜のはーちゃんの二人を引き合わせる、そんな涙と感動の再開イベントを引き起こす流れで、──
──というか!
先ほどからうちの事を“眠り姫”、と彼は呼ぶけれど!
それってつまり、この先でもまたイレギュラーなシナリオが発生するという事!?もはや原作完全崩壊!?
聞けば未来では目醒める予定のようだけど!でも眠り姫なんて断固拒否!!その役は某童話の中のお姫様だけで充分です!!
あと、気になる重要なイレギュラーがもう一つ。
原作設定と違って過去にアゼルさんのもとに一度は帰って来たというヒースクリフさん。…ええと、それで多分、遺言の開封条件に食い違いが発生していたわけだけど、その彼が何故うちの事を知っているのか?
今のメッセージを聞く限り、まるでこの先の未来で起こる出来事を知っているかのようで………
!!、──いや、絶対そんなわけないけど!
ヒースクリフさんは今現在もこの世界のどこかを放浪中で、何らかの理由で未来を改編しようとしている……!?
あれこれと脳内大会議中のうちだけど、追求の声は容赦なく続く。
「ねえ、あの完全無欠のヒースクリフに期待を背負わされた“眠り姫”さん。黙ったままだけど、僕の質問には答えてもらえないのかな?」
「─っ私の名は“眠り姫”なんかじゃありません!何者かと問われているようですが、僭越ながらこちらのエルドラシア王国現王太子、オルストフ殿下のただの学友でただの伯爵令嬢のオルヴィナです!」
「え?婚約者じゃないの?だって君、王妃にな、──あ、」
おおお王妃ぃ!?王妃って、今この人言いかけた!?
確かに王子ルートに入って順調に進めば最終的には王妃エンドだけど!でもそんなエンディングはこれっぽっちも望んでません!転生(?)しても変わらずうちのポリシーは分相応!身の丈!ヒロインの使命さえ果たせば、その後は是非とも慎ましく生きるノーマルエンドを希望してますから!
そんな場合じゃないのに思わず顔が引き攣りそうになったところで、突然横から肩をガシッと捕まれた!
「いいえ、おっしゃる通り、彼女は俺の婚約者です。ああ、名乗り遅れましたが俺はオルストフ・フォン・エルドラシア。一応このエルドラシア王国十一代目国王となる予定の者です。解放戦争の立役者であるアゼル閣下にこうしてお会いできて、誠に光栄に存じます」
─ちょっと!言うに事欠いて何を言い出すかッ!?
「いたッ!!普通、王子の足を蹴るか!?」
「笑えない冗談を言うからでしょ!ちょっといいですか、殿下!?いくら破天荒でやんちゃで大の悪戯好きな殿下といえど、悪ふざけには時と場合を考えて下さい!そもそもこちらのアゼルさんには、今の殿下の発言が冗談だと分からないじゃないですか!意味がありませんし、ちっとも笑えません!」
本気でイラッときた。
こっちは真剣に万事休す的な状況なのに、なんでそんなふざけた冗談を言うのか!ホントは全然平凡なうちが王子様の婚約者、それも後々王妃になるだなんて絶対有り得ない!
「あ、有り得ない、か。聖女という身の上ならば十分に王子の婚約者候補になり得るんだが……。しかし、まさかここまで対象外だったとは(本気で俺は凹んだぞ)……」
「え?」
な?あ、あれ?──うちは今、声なんて出して……
「本当は一人称が“私”ではなく、“うち”なんだな?へえ、なんかヴィーナらしい。ところでノーマルエンドって何だ?」
「!!?─…読まれっ…!頭の中を読まれてる!?うそ!!なんで!?い、一体いつから!?」
「天地神明に誓ってこの今のこの時だけだ。すまない、ヴィーナ。今まで隠していたが、実は俺は秘宝のⅦ番の“魔境”を所有している」
「えっ、うぇ?……はああぁあッ!?」
「これはエルドラシア国王となる者に現在も受け継がれている秘宝の一つで、ヴィーナは知っているかもしれないが他人の思考を読み取る力がある。女王陛下からの勅命と共に既に俺が継承していた。─突然現れた“聖女”と目される少女が本物であるかどうか、またどのような人柄であるかを見極めよ、というのが俺に課せられた役目だったんだ」
「Ⅶ番の“魔境”を、殿下がすでに所有……!?」
衝撃の告白と共に殿下の手に掲げられたのは、一枚のパネルカード。
暗雲とした薄暗い空と荒んだ荒野が描かれたそのカードは、間違いなくルーティンパネルカードのⅦ番の“魔境”で、───
「あれ?そのカードからボクの神力を感じる。なんで??」
「ゑ∑∑★〓ゞ£~~~ッッ!!?」
もはやパニックだった。
けれど思考が筒抜け状態の今はこの方が寧ろ都合が良かったと、後々冷静になった時に思う事となる………
「何だか面白い展開になってるみたいだね。あのね、はーちゃん。以前、僕に虹色の葡萄がモチーフになったペンダントをくれたのを覚えてる?」
「うん?……あ、もしかして!ダーリンの大好物の虹色の葡萄がどうしても見つけられなくって、その変わりに渡したアクセサリーの事??」
「そうそれ。そのアクセサリーだけど、お守り代わりにはーちゃん、こっそり自分の神力を篭めてくれてたでしょ?ヒースクリフはその君の神力を元にして、秘宝のⅦ番目にあたるルーティンパネルカードを作ったんだ」
秘宝のⅦ番が当時の覇王竜の神力で作られた…!?
それもまた、原作設定と違っている。設定では、──と!今は何も考えちゃダメだったああああーーー!!
「というわけでアゼル閣下。彼女が何者かという問いには俺が代わりにお答えしましょう。彼女、オルヴィナ・アースレッドは孫う事なき天から遣わされた聖女です。神秘的な力をその身に秘め、常人の想像もつかない不思議な知恵と知識を持っていますが、私欲も権威欲もない、真っさらで心清らかな乙女である事を俺が保証します。また、この先の世界の命運を握る大事な鍵、でもあるのです」
で、殿下がさっきから王子らしいセリフを言っている……!
「そう。その言葉を言う為に君は嫌われるのも厭わずと、自身が秘密裏に所有する秘宝の存在を明かしたんだ。─分かった。ならば、僕も彼女を信じよう」
そこでようやく抱き締めたままのはーちゃんからそっと手を離し、アゼルさんはうちの方へと歩み寄る。
そして淡く光り出した彼の右手には、───
「新たなる秘宝のルーティンパネルカード、XⅡ番目の“弦月と星河の魔杖”。僕が死ぬ直前に、それまで温存していた残りの神力を篭めて作成したものだよ。─聖女オルヴィナさん、君にこれを托すから、どうか未来にいるヒースクリフをよろしくね」
原作には存在しない、ⅩⅡ番目のパネルカードが掲げられていた。




