ヒロインが原作者の物語5
普通の人間じゃあないだろう、─って………
彼、サミルさんの言葉にうちは大きな引っかかりを感じた。
や、うーん、どうなんだろう?
そもそもうちはこの世界に来る前に一度死んでいて、そしてこの世界の原作者でヒロインをやっている。容姿も別人のように変わってるし、そういう意味では確かに“普通”、なんかじゃあないよね……
ん?違うな……引っかかったのはそこじゃない。
ええと、サミルさんは、他人のスペックを確認できる手段、もしくは何らかの特殊固有スキルを持っていて、それで確認したうちのレベルが自分よりも上位だ、パラメータの数値が桁違い、カンストしている、だから普通の人間じゃあない、って事を指摘してきた。
“レベル”、“カンスト”……………
ッええ!?サミルさんって、まさかの……!?
「あの!もしか」「俺の大事な友人に、失礼な事を言うな」
不意に、隣のオルストフ殿下が地を這うような声を出した。
あ、あれれ?じわじわと、ただならぬ怒りのオーラを感じる。
「みゅみゅー!?」
カバンのカンパニュラちゃんもビキッと両耳が立ってしまっている。
あ、これはなんか面白い、──なんて言ってる場合じゃないや!
「ギュンスター伯爵。富や名声や身分やらに無頓着で、権力などにも決して安易に遜らない貴殿の自由な気質を、義母上も俺個人も好ましくは思っている。だがな、自由と無遠慮は紙一重。その縛られぬ自由奔放な発言が時として相手に思わぬ最悪な事態を招くという事を、初代より異常に飛び抜けて高い魔法資質を受け継ぐ一族の貴殿ならば、痛いほど身に染みて知っている筈ではないのか?」
「最悪の事態を招く……?」
お、怒ってる……!
隣の殿下、何故かめっちゃくちゃ怒ってるよぉ!?
「あと、これだけは言っておこう。こちらのオルヴィナ嬢については、義母上…このエルドラシア王国のトップ、アメリア女王陛下自身が後見人となっている。そして彼女の生活保護者は、使命を全うすべくあえて還俗された敬虔深き信徒のレギウス元神儀官だ」
「女王陛下が後見人?神儀官が、保護者に……あっ、君は、聖っ……!?」
叫びそうになった口を、サミルさんは咄嗟に自らの両手で塞ぐ。
神儀官という神職者の中でもそこそこ重要職の人が、その地位を返上してまで保護しなければならない事情の少女……うん、流石に察してくれたみたいで。
というか、相手のスペックを見る事ができちゃうんなら、うちの魔法属性がこの世界ではまず有り得ない光属性、─って事も確認できなかったのかな?
「……今、事情を理解した。その、オルヴィナ嬢。失礼な事を言って申し訳なかったね。どうか許してくれるだろうか?」
「ギュンスター伯爵。彼女に対して謝らねばならないのは、その点だけではないと俺は思うのだが?」
わ、わあー。殿下の怒りは未だに収まらない。
オルストフ殿下を本気で怒らせると大変な事態になっちゃうんだね。覚えておこう。うち、ちょっとサミルさんが気の毒になってきた……
「……あ、ああ。断りもなく勝手に君のパラメータを覗き見て、本当に申し訳なかった。なんというか……これは言い訳になってしまうのだが、君を一目見た瞬間に不思議と強く惹きつけられる感覚がしてね。何かの違法な魔法効果だろうかと、それで警戒して思わず確認してしまったんだ。悪かった」
あ、もしかしてそれ、ヒロイン補正かも………
「ええと、あの、ギュンスター伯爵様、私は貴方の謝罪を受け入れます。それにあの程度の暴言には昔から慣れていますので、特に気にしていません」
「ヴィーナ、そんなものには決して慣れるな。俺は嫌だ、看過できない」
「え。だけど……」
「あのな、ヴィーナだとて、大事な身内や友人が心ない誰かに暴言を吐かれてたら、それに慣れてなどいたら、哀しいし悔しいし怒りを感じるだろう?」
でも、うちは親に見捨てられた児童養護施設育ちで、だから小さい頃から差別や偏見による暴言には慣れてて……
「……そう、ですね、殿下は、気にしてくれたんですね」
「オルフ、だ」
「うん、怒ってくれてありがとうございます、オルストフ殿下」
「む。やっぱり聞き入れてくれないのか!ちくしょう!」
あはは。だってそれとこれとは別ですもん。
だけど、こんな風に誰かに真剣に庇われた経験がなかったから、ちょっとドキッとしちゃったけどね……
──さあて。なんだか脱線してしまった上にサミルさんには個人的に聞きたい事ができちゃったけど、まずはここに来た当初の目的を果たさなきゃだね。
と思ったら、ちょうど目当ての人物の方から声をかけられる。
「こらーッ!そこのショートケーキのお姉ちゃん!?よく分からないけど、さっきからもしかしてサミル君をイジメてるの!?だったら許さないぞ!このボクが相手になるぞー!」
「は?サミル君?─うわわっ、このちびっこはなんだ!?」
「むきぃー!はーちゃんはちびっこなんかじゃないもん!」
「ああと、違うよ、はーちゃん。私の方が彼女に無礼な事を言ってしまったんだ。それで頭を下げていたってわけ」
「むむ?サミル君、そうなの?」
一人称がボクだけど、元気で可愛い女の子が割り込んできた。
蒼い髪に大きな金色の瞳と特徴的なオレンジ色の唇。頭のてっぺんにポニーテールをしてて、動く度にビョンビョンと飛び跳ねている。
そうそう、うちはこの娘に会うのが目的だったんだ。ギュンスター伯爵家に縁のある人物だけど、今日はたまたま(?)本邸に遊びに来ていたみたいだね。
「初めまして、はーちゃん。私はオルヴィナというの、よろしくね」
「うん?えっと、ボクの名はハーシェンヌではーちゃん。サミル君をイジメてないならどうぞよろしくだね!そっちのカバンの白うさぎちゃんも、喧嘩しに来たんじゃないならよろしくね!まあ、喧嘩でも喜んで受けて立っちゃうけどね!」
「みゅみゅみゅみゅみゅッ!!」
カンパニュラちゃんはぶるぶると激しく首を振る。
まあ、うん。このボクっ娘のはーちゃん、実はめっちゃ強いもんね。
───世界最強の神竜と呼ばれる覇王竜ハーシェンヌ。
13の神竜のうちの1体が、この目の前の小さな女の子だったりする。




