ヒロインが原作者の物語4
「うっわあ!おーい!みんな!すっげえキレイなお姫様が来たぞ!」
「え!ホントだあ!でも馬に乗ったお姫様!?」
「髪が苺色で肌が真っ白って、まるでショートケーキみたい!」
「ケーキぃ!?どこどこ!?どこにボクのケーキがあるの!?」
ーーあれ?ここは保育園……!?
王立学園の授業は昼過ぎまでの半日制。─なので、一旦馬車でアースレッド伯爵邸に戻って手早く昼食を摂った後、先月お義父様からプレゼントされた駿馬をかっ飛ばす事1時間半。
ようやく辿り着いたギュンスター伯爵邸の門を通り抜ければ、その先の庭では大勢のちびっこ達がわいわいと駆け回っていた。
えっと……ギュンスター伯爵家のご当主は確かまだ二十代半ばで未婚。歳の離れた妹が一人いるだけっていう設定だったけど……??
「ヴィーナ、や、やっと追い付いた。……なあ、ほんの数ヶ月で乗馬がとんでもなく上達してないか?しかも横乗りで何故そのスピードが出せる……」
「殿下、あの、すみません。お家を間違えたみたいです」
「へ?いやいや、ここはギュンスター伯爵の屋敷で合ってるだろ?」
後から追い付いて来たオルストフ王子がコテンと首を傾げる。
どうでもよくないけど、彼もうちで一緒に昼食を食べてたね………
「……あ!もしかして知らないのか?今代のギュンスター伯爵家当主は、本邸の大部分を領内の孤児達の養育施設として解放しているんだ。伯爵のご家族も、普段は王都のこじんまりとしたタウンハウスで暮らしている。まあ、運よく今日はご当主がこちらの本邸にいるみたいだけどな。無駄足になるかもと思って、来る前に確認させた」
「え?ギュンスター伯爵家の本邸が、孤児達の養育施設!?」
いやいや。そんな設定、うちは知らないよ?
実は神竜の一体であった初代アゼル・ギュンスター氏の血統から連なる魔法の超名門ギュンスター伯爵家。──その本邸が、なんで児童福祉施設になっちゃってんの!?
「ねえ、れみゅう!もしかしてこれもイレギュラーなの?」
「みゅー!みゅー!」
斜め掛けカバンに入って顔だけ出した白うさぎ姿のカンパニュラちゃんに聞くものの、彼女は人のいる場所では決して喋ってくれない。
原作の設定通りに神獣の幼体のフリを貫き通しているらしく。
うーん、真っ白でふかふかのこのほっぺを、両側から思いっきりびよーんと引っ張ってみようかな!
「みゅみゅみゅみゅーーッ!!」
ダメか。キャラ魂がハンパないな。そんな場合じゃないってのに。
何してんだ?──という呆れた表情をした殿下が補足を付け加える。
「聞いた話によれば、本人いわく“こんな大きな屋敷など無駄だし維持と管理が面倒。養育施設として貸し出せば領民に喜ばれて掃除や手入れも勝手にやってくれるしで一石二鳥”、なんだとか」
「適当ですね!ま、まあ、合理的な考え?……なのかな?」
呆然と立ち止まっていると、ちびっこ達を見守っていたローブ姿の青年がこちらへと近付いてきた。
最上位の魔法師のみが着用を許される紫紺色のローブ、それに瞳の色がギュンスター家特有の紅茶色だ。
あ、なら多分この男性がギュンスター伯爵だ。
「……へえー。何となく、今日ここに大事なお客様がやって来る予感がしていたんだが。まさか王子殿下がいらっしゃるとはね。取り敢えず、はるばるようこそ。─あ、ちびっこ達、この彼はえらーい身分の人だから、みんなできちんと挨拶しとこうか?」
「「「はーい!えらーい身分のお客様、こんにちはーー!!」」」
えらーい身分の人って………
本人の目の前で口にされ、流石の殿下もポカンとしている。
「あ、ああ……こんにちは。今日は突然訪ねて申し訳ない。ええと、サミル・ギュンスター伯爵とは秋の女王生誕パーティーでお会いしたな」
「ふむ。ああいった場は煩わしくて好きではないのだが、当家も一応はこの王国の爵位を賜っているので、王家への忠誠も兼ねて最低限の義務は果たさねばと」
「そうそう、その義務とやらの魔法幻影による爆風の花あらしのデモンストレーション、あれは会場中が度肝を抜かれていたぞ? なんというか、普通祝いのパーティーでは優美でうららかーなカンジの花吹雪きだろう?王家への適当さが実にギュンスター伯爵らしい、と義母上が苦しげにフォローしておられた……」
「おや?花あらしではダメだったのかい?ううーん、普通というのが私には一番よく分からないんだよ。あー、申し訳ない、殿下から女王陛下に謝っておいてくれる?」
わ、わあー。王家への敬意がちょっとヤバいくらい適当。
それがギュンスター伯爵家の初代からの気質というか家風というか。
けどなあ……物語ではもうちょっと知的というかクールというか、魔法の天才故の近寄り難ーい雰囲気があったんだけど??
「しかし、困ったなあ。今年のパーティーはどうしようか、もう面倒だから、私が今までに旅して集めた世界珍風景映像を………ん?」
サミルさん、今ようやく殿下の横のうちの存在に気付く。
「あの、ギュンスター伯爵様にはお初にお目にかかります。殿下の学友でして、オルヴィナ・アースレッドと申します」
「………………」
サミルさん、無言のまま何故かその場でローブを脱ぎ出した。
「は!?いきなり肌着になって、一体どうしたんだ!?」
「ええ!?なんでその脱いだローブを私に差し出すんです!?もう夏ですし、特にこれといって寒くありませんけど!?」
「いや、だってこのローブは、エルドラシア王国内最高位の魔法師が身に纏うものだから」
「意味分からん!伯爵は突然何を言ってるんだ!?」
「王子殿下、このお嬢さんは私よりも上位レベルの魔法師だ」
「「へッ!?」」
「魔力量は桁違い。魔力技能と熟練度においても、うちの遠縁のアドロス学園長を抜いてカンストしてる。へえー、ホント凄いなー。魔法だけじゃなく、戦闘パラメータもかなり数値が高い」
こ、この人!うちのパラメータが見えるんだ!?
「君、一体何なの?普通の人間じゃあないだろう?」




