ヒロインが原作者の物語2
「あの、お、お義父様!おはようございますっ!」
「おはよう、オルヴィナ。君はいつも元気で喜ばしい事だね」
「はい。だって元気だけが取り柄ですから!今朝も日課のジョギングがてら、この周辺の山々をぐるっと一周して来ました!ジョギングは全くお金もかからないし、健康維持に最適ですから!」
「しゅ、周辺の山々を一周……??─ああと、レディを立たせたままではいけないね。さあ、席に座って一緒に朝食を頂こうか」
「はい!」
今や毎朝の習慣となりつつある親子の朝の団欒。
ついつい恥ずかしさで毎回吃ってしまうけど、うち……あ、この世界でのうちの名前はオルヴィナね。──が、お義父様と呼んだこの男性は、レギウス・アースレッド伯爵。
まだ三十歳ちょいの落ち着いたカンジのダンディなおじ様だ。
実は彼は神に仕える神職者。元々は某伯爵家の三男だったけど、王立学園の高等科を卒業後は神職の道へ進み、その後は若くして地方の神殿を監督・補佐する役目の神儀官に就任。
そして現在はアメリア女王よりアースレッドという新たな伯爵位を賜り、特命にてうちの後見人兼養父役を務めてくれている。
つまり、聖女を見守る保護者っていうわけ。
ーー“記憶喪失で迷子の少女”。
そういう初期設定で森の中にいたうちは、運良く小飛竜にて上空を巡回中の警邏隊員よって発見され、エルドラシア王国という王制国家に保護される事となった。
しかしその後、どれだけうちの身元調査をしても、家族・親類・知人はおろか出身地すら全く以って不明。迷子や行方不明者の届け出リストにもなく、取り敢えずは孤児院行きが妥当と判断されるも、念の為に行った魔法属性検査の結果が“光”であると判明。それはもう、上から下への大変な大騒ぎとなってしまったのだ。
それは何でかって言うと、ーーー
「君が王立学園に入学してもう一ヶ月だね。学園には慣れたかい?もしも何か困った事があれば遠慮なく相談しなさい。君は大事な私の娘で、何と言っても尊い聖女様なんだからね」
そう、うちが持つ光属性は、この世界では神に遣わされた聖女と13の神竜のうちの光竜のみとされている。
というわけで、聖女のうちは国とその所有下にある神殿に手厚く保護されていて、現在は貴族の子供のみが入学できる王立学園にも通わせてもらってるんだ。
因みにうちが聖女という事は、学園では一部の人しか知らされていない。
あー、まあ。この全てのくだりが、うちが気まぐれで書いた物語のそのまま、であるわけなんだけどね…………
「ええと、はい。聖女と言われるような、そんなご立派な人間なんかじゃありませんが、私にできる事は精一杯頑張ります!」
「うん。それで構わないと思う。しかし、君は本当にいい子だね。女王からの特命といえど、君の養父となれて私は大変光栄に思う」
えっ?い、いい子!?こ、光栄っ……!?
「あ、あのっ、ありがとうございます……!」
─ぐっ。実の両親に育児放棄されて児童養護施設育ちのうちは、そんな優しい言葉をかけられ慣れてない!
養父という存在すら照れ臭いやら気後れするやらでっっっ!
「あー、あずきちゃん、照れてるぅー」
「れ、れみゅうったら!ーーあッ!」
ーーベキャッ!!ボトンッ!!
「「あっ………」」
隣に座っていた白うさぎのれみゅう(中身カンパニュラちゃん)にからかわれ、うちはうっかりスプーンを持つ力加減を誤った。
恐ろしい事にスプーンの持ち手が折れ、その下部分は掬ったじゃが芋ごとスープ皿へと落下してしまう………
「お、折っちゃった。ごめんなさい……」
「いいや、スプーンの一本や二本、全然構やしないよ!ああと、それも聖女様のお力なのだから、何も気にしないでくれたまえ。あ、あははは!」
「あ、はい。あ、あははは………」
何とも言えない乾いた笑い声が食堂中に響き渡った。
*********
「はああ……。人の倍以上の身体能力と体力、そして病気知らずの健康で頑丈なこの体。小柄で華奢な見た目を裏切って、ヒロインがめちゃくちゃチート過ぎだよ!ていうか握力が半端なくヤバい!ホント、手を動かすのに一秒も気を抜けないんですけど!?」
そんな理由から毎朝ジョギングがてら身体を慣らす練習をしているところ。でも気付いたら山一つ軽く一周しちゃってたりする……
「え。あずきちゃんが自分でそう設定したんじゃないの。ま、まあ、大丈夫。自分の身体だもん、そのうち慣れると思うわよ。でも私もそこは不思議に思ってたんだけど、最終的には魔王でも登場させてヒロインと戦わせるつもりだったの?」
「ううん。ただ何となく。ヒロインだし……」
「何となく、だったの……」
「弱い聖女って、それもどうなのかなって思ったし……」
「攻略キャラよりも強い聖女ってのも、どうなのよ……」
学園へ向かう馬車の中で、うちはこの世界に来てもはや何十回目になるか分からない反省会を開いていた。
いや、だって!書いた小説が恐れ多くも書籍化やアニメになるかもとは思ってみても、まさかその実写の世界へヒロインとして送り込まれるとは夢にも思わないじゃん!だから色々と気楽に好き放題に設定しちゃってたよ!
「それにうち、男性に守ってもらった経験がないんだもん。どっちかっていうと、ホウキ振り回して施設回りをうろつく不審者からちびっこ達を守っていた方。だからか弱い女の子ってのはどうもね」
「あずきちゃん、健気だけど、女子力低いね……」
「だから!ヒロインなんてムリなんだってば……」
「そうかなー」
「そうだよー」
うーん。育ててもらった児童養護施設には、たまたまうちよりも歳が上の男性がいなかったんだ。施設長も職員らもみんな女性だった。
だから男性に頼るとかかばわれるとかよりも、一緒になって戦う方がうちには合ってるかな?物語もそんなカンジで進んでいくしね。
──と思ったところで、馬車の外から騎馬を駆る音が聞こえてきた。
あ、今日も来たね。多分全員暇なんだね。
「ヴィーナ!おはよう!良かったら一緒に学園へ行かないか!?」
「うん!オルストフ殿下、おはようございます!」
うちは馬車を止めてもらうよう合図を送った。
窓から外を確認すると、合計三頭の騎馬がこの馬車に並走せんとやって来ていて、その騎馬には三人の攻略対象者達がいた。
その中で、今のところ一番気が合ってて仲がいいのは……
「ヴィーナはいつも元気がいいな。なあ、また俺の馬に乗ってけよ。今日は全速力で走らせてやるからさ!」
「え。殿下の全速力は半端なく恐そうです……」
気楽で親しみやすい口調だけど、この男の子は何と王子様。
肩先までのキラキラな金髪と濃いアメジストの瞳を持つ元気な少年で、エルドラシア王国の王位継承権一位であるオルストフ王子殿下だ。
「殿下。そう何度も特定の女性を同乗させては問題になります。今日のところは、私の馬に同乗させるのが賢明です。オルヴィーナ嬢、こちらへどうぞ」
「はあ!?いや、すでに決まった婚約者のいるアルと同乗する方が大問題じゃないのか?」
横から口を挟んだのが王子の友人、アルフェル・レストワール。
上位貴族のレストワール公爵家の嫡男で、ストレートな黒色の長髪にブルーベリー色の瞳のクールな貴公子。
彼は何においても四角四面で生真面目、つまり、時に天然でズレてて朴念仁なところがある。
「その点、未だ相手の決まらない俺なんかは自由なんだぞー」
「何をおっしゃっているのです。決まった婚約者がいるからこそ間違いが起こりようもなく、問題がないのではありませんか」
「アル……あのな、おまえは理論的過ぎるぞ?」
「そうですよ!せっかくですけど、アルフェル様と同乗なんて、婚約者のクレメイア様に後で絶対に説教されちゃいます。私は身体は丈夫ですけど、凍らされるのはちょっとカンベンです!」
「そうそう。クレア姉は氷の女王様だからなー」
クレメイア様というのはオルストフ王子の母親違いの姉君で、この国の第一王女殿下。下にもう一人、ミュゼット王女殿下がいる。
クレメイア様は「氷の女王様」、ミュゼット様は「妖精姫」と世間では呼ばれていて、どちらも大変美しいお姫様なんだけど、ちょっと色々とわけありだったりする。
さて。どちらに同乗しようか?それとも馬車のままで行こうかな?
と悩んでいたところへ、三人目がようやく口を開いた。
「あ、あの!ぼ、僕が馬車に乗って行って、オ、オルヴィナ嬢が単騎で僕の馬に乗る!──ってのは!ど、どどどうかな!?」
「「「え!そう来たか!!」」」
「ひゃうっ!へ、変な事行って、ごご、ごめんなさい!」
盛大に吃ってるこの少年はエフレム・セヴォワ。
色味の薄い金髪に金色の瞳。まるでビスクドールのような美しい容貌の少年で、レストワール公爵家と双璧をなすセヴォワ公爵家の嫡男だ。
けど見ての通り、極度の対人恐怖症だったりする。
…………表向きは。




