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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
正規ヒロイン編
105/119

ヒロインが原作者の物語1



 森の中で少女が一人、途方に暮れた様子で立ち尽くしていた。

 歳は成人前の、まだ14、5歳くらいだろうか。

 ふわふわと腰まで流れるルビー色の髪に、透明度の高いローズクォーツの大きな瞳。顔や手足のパーツが小さく華奢で、それはそれは可憐で美しい少女だった。

 


「ここはどこ……?私はどうして森の中にいるの?それに髪が変。染めた覚えもないのに髪の色が変わってる……?」


 そう呟きながら、少女は髪を一房手に取ってみる。

 試しに強く引っ張ってみてもビクともしない。エクステやウィッグの類いではなく、それは確かに彼女自身の髪の毛だったのだ。


 それに、と少女は首を傾げる。

 押し寄せる違和感はそれだけではなかった。己自身の体中に、何とも言い知れぬ不思議な力の流れを感じるのだ。

 それはまるで、内側からぽかぽかと暖かい太陽の光が満ち溢れてくるような……


「この光は、もしかして、魔法?──あっ!」


ーー魔法と、そう口にした直後。

 少女の脳裏にはその魔法に関する記憶が流れ込んできた。


 “光”、聖女が扱える、光の魔法を授けられた記憶。到底信じられないような、己の身に起きた不思議な体験を。


「私は、私は、そうだ。真っ白な、夢みたいな空間で、」

「うん。そう、君はそこで、神様に会ったんだよね?」

「!?」


 不意に足元から聞こえた声に、少女はビクリと後ずさる。

 有り得ない。先ほどまで、少女の周囲には確かに誰もいなかった筈。けれど今、そこに何者かがいて、しかもそれは、───


「れ、れみゅう……!?」


 少女の足元にいたのは小さな白うさぎだった。

 

 ふさふさの長いお耳とぬいぐるみのように愛らしいまん丸いお顔。

 おまけに服も着ている。だぶっとした大きめのフード付きポンチョコート。首元はベルベット素材の青リボンできゅっと結び、両耳の間にはミニサイズの青のベレー帽がちょこんと乗っかっている。

 

 それは少女が知るところの、まさに“れみゅう”そのもの。

 

ーー説明しよう。

 この“れみゅう”とは少女の大好きなアニメに登場するキャラクター名である。日本の少女向けアニメにありがちなマスコットキャラ。ヒロインの少女と一つ屋根の下で一緒に暮らし、親友もしくは寄り添う家族的な存在であり、ヒロインを正しく導くサポートキャラでもあるーー

 

 そう。架空上のキャラクターである筈のそのれみゅうが、まさに今、少女の目の前に立っていたのだ。これはファンならば感極まるところ。ファンでなくば卒倒ものの異常な光景だった。

 幸いにして、少女は前者であったようで……


「れみゅう!?─えっ!れみゅうが動いて喋ってる!まさか!生きているホンモノのれみゅうなの!?」

「うーん。そうとも言えるし、そうでもないとも言えるね。ああ、僕の呼び名はその“れみゅう”、で構わないよ。元々君が死んだ時にその手に持っていたこの“れみゅう”を、僕は器にしたわけだし」

「な!私が、死んだ…!?」


 とても信じられないような事をサラリと言われた。

 けれどもそれが冗談でも嘘でもないと、れみゅうの真剣な目が如実に物語っている。


「残念だけど、君は今日、学校からの帰宅途中に呆気なく死んでしまった。─ねえ、思い出さないかい?死んだ君の魂は、あの世で神と契約を結んだんだ。その為に君は新しい身体を与えられ、この世界に送られた。僕はその契約履行をサポートする役目を仰せつかった神の遣い、つまり神獣なんだよ。そういう話だったよね?」

「!!」



ーーそうだ、そういう話だった。私は、だって………


 

 神獣のれみゅうに促され、少女は自分が死に至った出来事を、そしてその後に起きた摩訶不思議な体験を思い出した。


 それは当たり前の日常になる筈だった今日の日の記憶。

 学校帰りの定められた帰宅経路をいつも通りに歩いていただけ。けれど今日は、その通い慣れた道の先に何故かよちよち歩きの男の子が一人でいて、そこへトラックが入り込んで来た。スマホらしきものを操作していたトラックの運転手は、その男の子に全く気付いておらず、ーーー


ーー危ない!

 咄嗟に少女の身体が動いた。


 

 そこで少女の現世での記憶は途切れている。

 大泣きするも男の子は無傷で助かったけれど、かばった少女は運悪く路面に後頭部を強打して即死したのだった。

 しかし、問題なのはその後。

 死んであの世に逝った少女の魂は、神という超常的な存在と遭遇して、その神とある重大な契約を結ぶ事となった、

 

 それはこの世界の命運を左右する契約。

 そう、少女は、君は、ーーー


 

 

 

*********





「君はこの世界を救う使命がある。そういう契約を神と交わした筈だよ。思い出したかい?ねえ、小豆澤雛、あずきちゃ……」

「いやああああああッ!!!」

「え?あ、あずきちゃん!?」


 うちはその場で膝を突いて崩れ落ちていた。

 白うさぎのれみゅうは耳をピンと逆立て(あ、元からそうか)、その奇っ怪な行動に目をまん丸くする。


「やめて!お願いだからもうやめて!何たる羞恥なの!自分が書いた拙い物語のオープニングを!実際にその役で体験するっていたたまれなさ過ぎる!自分で書いておいて何だけど!色々とおかしくて目を覆いたくなるんですけど!?」


 まずはこの髪の色だ。

 ファンタジーヒロインだからと何気にピンク系に設定してしまった安直な自分自身を盛大に殴りたい!こんなかき氷の苺頭、リアルでなってみると落ち着かないし違和感ありまくり!そしてヒロインの姿が変わる必要がどこにあるの!?─あ、いや、それを言ったらアニメの美少女戦士ものは全て変身する必要がなくなるけど!


 あ、あとこのれみゅう!

 ヒロインの少女が学校帰りに立ち寄った書店で、アニメ会社が主催するクジを引いて当てた一等賞のキャラぬいぐるみだけど!(因みにそのくだりは数話先で事細かに説明される)でも、このれみゅうって……!!


「あの、カンパニュラちゃん……だよね?」

「わあー。すっごーい。うん!大正解だよ!」


 男の子口調だったれみゅうがあっさりと崩壊していた。

 うん。このお気楽なカンジは間違いなくカンパニュラちゃんだね。実は天使とかではなく、神様というすごい存在だったカンパニュラちゃん……

  

 中身カンパニュラちゃんで、でも外見は白うさぎのれみゅう。その彼女(彼?)はにっこりと笑った。

 

「さあて。世界の原作者であり、同時に物語のヒロインでもあるあずきちゃん!何はともあれ、私の創造したこの世界へようこそ!物語は未完成であれこれと不具合が生じているみたいだけど。原作者がヒロインなら無事にハッピーエンドを迎えれる筈だよね?うん!さあ、一緒に頑張ろう!」

「……………………」

  


 思わずうちは天を仰ぎたくなった。




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