小豆澤雛の回想4
よし!物語の続きを書こう!
心の整理はついた。もうつまらない事でキレたり変にこだわりったりはしない。ないものはない、なれないものはどうしようもない、手に入らないものは時に潔くキッパリと諦め、それよりも今あるささやかな幸せを大事にしよう。
悲しくも世界は不平等に出来ていて、他人とうちは違ってて当たり前。生れつき持ってるもの、その後与えられるものが天と地ほど違っていても、そこは仕方がないんだ。
そこで腐らず、精一杯努力してその違いをものともしない、自分にとって唯一で、かけがえのないと思えるものを手に入れればいい。
それはただ無為に与えられるものなんかよりも、ずっとはるかに価値があるものになると思うんだ。
ーーあれから、もう2年。
自分勝手な都合ですごく間が空いてしまった。
カンパニュラちゃんはもう夢の中に出てきてくれないかもしれない。けど、それでもいいんだ。例え誰にも読まれなくても最後まで書き上げる。それがうちにとって、とても大事な事だから。
あ、─けどその前に、どうしてもやっておきたい事が。
「転校生のあの子に手紙を書きたい。大嫌いと言ってしまった事、彼女自身を拒絶してしまった事を、ちゃんと謝っておきたい」
面と向かって“友達になって”って言うの、すごく勇気がいる事だったろうし、そこで相手に逃げられちゃうのもすごくショックだったと思う。
あの子の気持ちを、うちはあまり考えていなかった。
何もかも恵まれた人はそんな事では傷付かないと、うち程度の人間に拒否されても別に何でもないだろうと、そう思ってしまっていた。
浅慮で自分勝手、意地悪な考えだったと思う。だから今更だけど、ちゃんとあの子に謝ろう……!
ええと、でも書いた手紙はどこに送ればいいのかな?
当時の担任の先生なら彼女の転移先の住所を知っているかも?
それとも聞いた噂によれば、彼女のお母さんが京都にある国際的な医療研究機関で働いているらしく。
そこに手紙を送れば、お母さん経由で彼女に届くだろうか?
まあ届くか届かないかは別として、まずは手紙を書かなきゃだね。
ーーうん!よし!早速今から便箋を買いに行くぞ!
うちは思い立つとすぐに街へ出た。
入学式を明日に控えたその日、街はすでに春一色。
昔からのお気に入りスポット、美しい桜並木が長く続く通りを歩いていたら、ふと頭にアイデアが浮かんだ。
「そうだ。花を咲かせる神竜っていいかも。果実が大好きで、あまねく大地を豊潤に満ち足す神竜がいるんなら、花が大好きで、蝕まれた大地を花で浄化する神竜がいても、─うん。いいよね!」
ちょっと強引だけど、ファンタジーだからアリでしょ。
「光竜、闇竜、魔竜、覇王竜、森羅竜、響竜、天眼竜、花竜……ええと、13も神竜がいると設定付けが大変だ。ああ、でも。これでやっと全部の神竜が揃ったよ。あと残りの神竜は……」
神竜の種類を指折り数えながら交差点に差し掛かると、目の前から一組の親子がこちらに向かって来るのが見えた。
保育園児くらいの男の子とそのお母さんらしき二人連れ。
きっと散歩がてら、こちら側の桜を見に来たんだろう。
何気に微笑ましく見ていると、わんぱくそうな男の子が母親の手を振り払って、一人で横断歩道に向かって足を踏み出した。
ーーけれど、次の瞬間。
そこへ、猛スピードの大型トラックが迫って来て、ーーー
「何で!何で死んでるのッ!あずきちゃーーーんッ!!」
カンパニュラちゃんが泣いていた。
久しぶりに会えて嬉しいカンパニュラちゃんだけど、可憐で美しい顔がぐちゃぐちゃだ。けど美少女って、ぐちゃぐちゃになってもやっぱり美少女なんだなあ。
アクション映画のヒロインとか一流モデルさんとかがそうだよね。爆炎や爆風、時に寝起きで髪がボッサボサでも、
「あずきちゃん!そこはいい!そこは今どうでもいい!そんなのんきモード、今ここでやってる場合じゃないでしょ!うわあああーーーんっ、あのね!貴女死んじゃったのよ!ご臨終よ!お陀仏なのよ!─いい!?もうここはいつもの夢の中じゃなくって、あの世で死後の世界ってやつなのよぉぉぉ!!」
死後……?ええと??
「ああ!油断してたわ!だってまさかのまさか!聖女の素質を持った子が、その若さで死ぬ運命だったなんて!おのれッ!この世界の神を一発ぶん殴ってきてやるッッッ!!」
カ、カンパニュラちゃん、ちょっと落ち着こう?
あー、そっか。うちはあの男の子をかばって、それで代わりにトラックに撥ねられて死んじゃったんだね。
そこで記憶がプッツンしてるから、多分即死だったんだね。派手に歩道側に突き飛ばしちゃった男の子は助かったのかな??
ーーああ、うん。確かに場所もいつものあの草原じゃなくて、無色透明で何もない酷く寂しげな空間。
「でもおかしいな。こんなにも呆気なく自分が死んじゃったってのに、特に何の感情も湧いてこないや……?」
「あ、そうね。そうだったわね。あの世に来ちゃうとみんなそうなるの。現世での強いしがらみや執着心、自分という個の感情や記憶が段々と薄れ、しまいには無に返るの。そして来世に向けて深い眠りに就くわけだけど……」
「眠りに……うん、何かすごく、眠い、や……」
「寝ちゃダメぇぇぇ!!どりゃあ!!」
「痛ッ!あたたッ!」
ーー頭突きか!頭突きときたか!まあ、バッチリ目が覚めたけど!
でも他に方法があったんじゃあなかろうかと、さすがのうちでも思うんだけど!?
「よおッし!成仏一歩手前で何とか留まった!」
「………………」
カンパニュラちゃんの頭突きは痛かったけど、どうやらうちはうっかり成仏せずに済んだみたい。
「あれ?いやいや。死んだんだから成仏しなきゃだよ?」
「ううん。ダメよ、あずきちゃん。貴女にはまだ死んでもらっては困るの。というか、世界の原作者が創作途中で死んだらいけないわ。はあ……。おかげで色々と予定不調和が起きてしまっているの。うわあ。ザッと見てもイレギュラーがいくつも………」
「は?世界の原作者?」
「そう。あずきちゃんが世界の原作者なのよ。あ、えーと、あずきちゃんが産まれた地球、という星とは別の星の世界のね」
「???」
あの……意味が、さっぱり分からない。
だけども、何かとんでもない事を言ってるような………
「カ、カンパニュラちゃん、世界の原作者って、それは何?まさか神様じゃあないんだよね?」
「神は世界そのものを創世するの。けれど世界の原作者は、その世界の主軸となる基本設定と大まかな運命、そしてそこで暮らす人々の物語を創作する人。とっても重要な人物なのよ」
「……………」
いつの間にか涙が引っ込んでいたカンパニュラちゃんは、そこでにっこりと笑い、恐ろしくとんでもない事を口にした。
「あずきちゃん、物語を書いていたでしょ?あのね、実は私、貴女の書いた物語がものすごぉーーーく気に入ってたの。描かれた世界観も設定も登場人物も私好み。だから貴女に、私の創造した世界の原作者になってもらったの。ふふっ。とってもナイスなアイデアでしょう?」
ーーへ!? ふぇえッ!?
「ちょっと待って。カンパニュラちゃん、神様だったのかいッ!?」




