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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
幼少期・王宮編
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私と理不尽な再戦勝負


フレイ君は私と面会が叶えば、元からルーティンの再戦をする心づもりだったようだ。

呆然とする私をなおざりに、彼が着る白のフロックコートの内ポケットからは、用意周到にもルーティンのカードセットが出てきた。

棄権による前回の不戦勝をなしにしてくれるのは有難いけれど、続けてダイスまで取り出した彼のこの手抜かりのなさは一体?


やがて、王子殿下自らの華麗な手捌きで素早くシャッフルされた後、ソファーテーブルの上に裏返しで並べられていくパネルカード。


ちなみにパネルカードの図柄の名称は以下の通り。



Ⅰ 箱庭の世界樹

Ⅱ 太陽の砂時計

Ⅲ 金の鷲獅子

Ⅳ 鳳凰

Ⅴ 一角獣

Ⅵ 月と星

Ⅶ 魔境

Ⅷ 法王の錫杖しゃくじょう

Ⅸ 草の王冠

Ⅹ 天の杯 地の匙

ⅩⅠ靫葛ウツボカヅラの卵



これら11種、それぞれ装丁が青と赤の各2色カラーで2枚ずつ。全部で44枚あるパネルカードのペアを揃えていくだけの単純なゲーム。この再戦勝負に私の王立学園編入学がかかっているのだ。

私が入学を断固として拒否すれば、彼にとって(?)何か余程マズイ事があるようで。また、全てを投げ出して他国へと亡命すれば、このエルドラシア王国の命運にかかわる何らかの不測の事態が引き起こり、更に私の命が危ないのだとも言ったのだ。


ーー本当に、意味が分からない。

けれど説明のないまま、理不尽にも再戦勝負は開始される。



「ーーではまず、どちらが先手かをお決め致しましょう。ユーフェリア姉上、先制決めのダイスをどうぞ。」


「あの、ねえ、フレイ君。本当に3ペア先に成立させた方が勝ち、という勝利条件でいいの? だって私がこの再戦で勝てば、王立学園への編入は取り止めにしてくれるのよね...? 」


それならばやっぱりIQが高い私が負ける筈はない。今までだって運よりも記憶力が勝負、と言っても過言ではないこのルーティンで、フレイ君が私に勝った試しはただの一度もないのだから。


何かやむにやまれぬ事情があるのなら、いっそ勝たない方がいいのだろうか? 私だって、そこまでして王立学園に通うのが嫌というわけではない。それなりの納得できる理由があって、派閥争い目的ではないと言うのなら。その時は譲歩してもいいと思うかもしれないのに...。などと考え込みながら、彼の手の平のダイスに手を伸ばすと。


「学園編入をあれ程に拒みながらも、そんなお言葉をおっしゃる...ユーフェリア姉上は本当にお人よしです。それ故に、僕は貴女のその無防備さが気掛かりでなりません。ですからこの僕から姉上に、“護りのご加護”を。」

「ーーっあ!」


伸ばした手を、両手でふわりと包み込まれた!

そして左手の小指の第二間接に、軽く触れるように唇を落とす。

小指にキスって!そ、その意味は、だって...!!


「な、ななななっ....!!」

「加護の魔法です。悪意のある魔法から、きっとユーフェリア姉上をお護りします。」


意表を突かれて思わず飛び跳ねる私の心臓!

ーー加護の魔法って!フレイ君から私になんで今!? しかも小指のキスは、恋人にしかしないものなんだけど!?


「不快でしたでしょうか? 不躾に申し訳ありません。姉上は無自覚のようですが、時に予想外で突拍子もない行動を起こされる節があります。僕はそんな姉上が、弟として堪らなくご心配でならないのです。」


「へっ、ううん!か、加護だなんて、突然でびっくりしたけど。あ、弟として心配か!そ、そうか。あ、ダイスを、どうも!」


な、何だい? 予想外で突拍子もない行動って??

身に覚えがあるような、ないような?ーーとにかく!小指にキスをする意味を知らないで、フレイ君はしちゃったみたいだ!

何とか慌てふためく心臓を抑えて振ったダイスの目は1、フレイ君は6。先制は彼に譲る事となる。


「では僕から参ります。天の鷲獅子の赤と...おや、ラッキーです。同じく天の鷲獅子の赤。最初からペア成立ですね。」

「え!?」


一発目からペア成立!? すごい引き運だ!

でもさすがに次は法王の錫杖の青と、一角獣の青でペアは不成立。

パネルカードの位置と図柄を記憶して、次は私のターン。


「ええと。草の王冠の青と、もう1枚は、」

「ああ、その草の王冠ですが、姉上がいたく好まれているこのソファーのデザインが、それですね。」

「へ!? このお気に入りのカウチソファーの模様が? 」


手で指し示めされ、思わず後ろを振り返って確認する。

ーーあ!確かに布張り部分が月桂樹のような模様だ。


「ええ。何でもこのエルドラシア初代国王ヒースクリフが、公式行事や祭典での公の場において、その草の王冠を好んで被っておられたそうなのです。当時、圧制を敷いていた大国からの独立戦争の際に、ふと立ち寄った貧しい村の少女が彼の戦勝を祈願して手作りの草冠を贈ったのがその所以と言われています。そしてその時代、草の王冠のデザインはエルドラシア王国のシンボルデザインとして王宮内の家具や備品の装飾に数多く起用されたそうです。」


「え!じゃあもしかして、このルーティンパネルの図柄はエルドラシア王国の歴史に関係しているの!?」


「はい。実はこのルーティンカードの神秘的な各図柄は、初代エルドラシア国王に縁あるものがデザインされているという諸説があるのです。」


「へえー。初代エルドラシア国王様の!知らなかったわ。」


そんな文献や資料は王宮図書館では見たことがなかった!

ただこのエルドラシア国王の貴族間に古くから伝わっているゲーム、だとしか思っていなかった。初代エルドラシア国王といえば、魔法にも武力にも長けた勇猛な鷲獅子じゅじし王として有名だけど...。あ、その鷲獅子もパネルカードの図柄にある!


「ね、フレイ君。それはどの文献に記述されているの? 是非ともそれ、読んでみたいわ!ーーああと。いけない、パネルカードを引かなきゃ。箱庭の世界樹の赤...ペアは不成立ね。」


「王立学園の初等科の図書館にその資料があります。閲覧にはとある特種な条件を満たさねばならぬ必要がありますので、お読みになりたければまずは当学園生になって下さい。」


そんな!一応は王女殿下である私でも閲覧できないって事!?

そう聞いちゃうと、すっごく気になるんだけど!このルーティンパネルに、思いもよらぬ秘密が眠ってそう...!


「ーーさて。次は僕の番ですね。草の王冠の青。これはまた、ラッキーです。先ほど姉上が引いたそちら側のカードと偶然にも同じ。」

「え!? またもペア成立!? 」


これでフレイ君はあっという間に2ペア成立!

立て続けに、こんな...!いくら何でもおかしいのでは!?


「ああ、ユーフェリア姉上。先にご忠告申し上げます。万が一、イカサマと勝負相手を訴える場合は、ゲーム内においてその場でそれを直接見破る事ができなければ、それは有効とはなりません。ーーご存知ですよね?」

「!? 」


そ、それは暗に、自分がイカサマをしていると仄めかしている!?

難癖付けるんなら、それを見破ってみろと!

ああ!きっと一番最初から成立したペアは、彼がパネルカードをシャッフルした時にあらかじめ仕込んでいたんだ!今の草の王冠も、私がカウチソファーに視線を移した隙を突いて、隠し持っていたパネルカードと取り替えでもしたのかも!だとしたら!なんて姑息な手を...!


「フレイ君、勝負は正々堂々とするものよ!」


「いいえ。勝負だからこそ、確実に勝てるようあらゆる計略を立てて臨むものなのです。ユーフェリア姉上、世の戦は正面からただ攻め込むだけで、それで勝つ事ができますか? 回り込まれて包囲された敵軍相手に、ただ反撃するだけで生き延びれましょうか? 姉上は頭脳は高けれども、潔癖でどうしようもなく甘くていらっしゃる。この僕の事にしても、貴女にいつも好意的なのが単に謙虚で優しい性格だからだと、ましてや決して傲慢でも利己的でもないと。ーー愚かにも貴女は思い違いをなさっておられる。」


「なっ、何が言いたいの!ーーひっ!」


あ、あれ? 何これ? 何なの?

可愛らしいフレイ君が、急に別人に見える...!

ーーちょっと!ビスクドールのように可愛らしい筈の美少年が!テーブルに両手をついて迫ってきてるんだけど!な、何この事態!?牙を剥いた狼みたいなそのギラギラした目は、いや!まさかの冗談でしょ!?



「ユーフェ、」

「ひぃああッ!」


ーーみ、耳元で喋んないでぇ!ももももう、ムリ!!


「箱庭の世界樹の赤、です。」


私の耳元に限界まで顔を寄せ、乗り上げたテーブルの上から彼が無造作に引いたパネルカードはまたしても...!


「これはまた、偶然にもユーフェリア姉上が引かれたそちら側のパネルカードと同じ図柄とカラーです。ーーこれで3ペア成立。この勝負、僕の、」


「!!ーーな!フレイ王子殿下!?」

「何これ。2人って、そういう仲だった...んですか?」



いけしゃあしゃあと勝利宣言を告げるフレイ君を遮ったのは、彼の取り巻きの友人達。キットソン候爵子息とギュンスター伯爵子息の2人が、いつの間にか私とフレイ君の背後にいて。


「これは...見られてしまいましたか。アルバートにエルディアス、おまえ達にこうして知られた以上は、もはや包み隠さずと正直に告白しよう。」



ーーおい!フレイ君、待て!何を言う気だッッッ!あ!これがもしかして、彼の本当の狙い!?




「僕とユーフェリア殿下は、以前から秘密の恋仲なのだ。」





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