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スカートめくり feat. ピンクのしましまパンツ  作者: 齊藤パンティ
第二段階 彼女のスカートをそっと優しく掴む
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ほころび

 触られて、それで驚いて、つい声が出てしまった。

 さらには、こういう言い方は少ししたくないけれど、どこか楽しむような感じで弄ばれた。

 いや、やっぱり彼に失礼。彼はそんな人じゃない。


 そんな彼に触られたお尻が熱くなっていく気がした。

 そしてその熱が広がって、私を深いところから侵食するような、いや表面から覆われて包まれるような。


 そんな苦しくて、重くて、熱くて、どうしようもない何かが私の中に入ってくる。

 それは、体の至る所を締め付け、蹂躙しながら、私をのぼってくる。

 内臓が重くなって、吐き気か何かがせり上がってくるような。

 何かに包まれるように重い心臓はなぜだか大げさに跳ねるようで、思わず服の上から胸を押さえたくなる。

 脳は締め付けられるように、痛む。

 血が溜まって圧迫しているようで。


 そして視界がぶれる。

 目の前の段ボールがふやける。

 そしてその湿った茶色を背景に、セピア色の、サイレントの、映画が上映するように、何かが、人影が、掠れるように、動き出す。

 同時に私はどこかふわふわと漂うように立ち上がり浮かび上がる。


 そして目の前のその影のあやふやだった輪郭が鮮明となり、息を呑む。

 知らない顔、いや知ってる、知らない、知っている、し、ない

 こちらに微笑んでくる、幼く丸い顔。

 目が大きく、可愛らしい。

 その顔を見て、思い出したかのように、息を吸う。

 おもいだす。

 目を見開いて、その無邪気に笑う少女の影を思わず追ってしまう。

 そしてその少女がおもむろに声を伴わないで口を開く。

 読唇術のように、その口の動きを追って、言葉を読み取る。

 どうにか解読して、たじろぐ。

 え。

 声が出ない。

 空気と共に喉に詰まってしまい、忙しなくあうあうと口が開閉するだけ。

 対して少女が嬉しそうに再度口を開く。

 今度は、薄く、声が聞こえた。

 その声に体が勝手に反応して、右足が一歩踏み出る。

 震える両手をその少女に向けて中途半端に伸ばす。

 そして左足を持ち上げた時、後ろから強い風が吹いた。

 背中を押すように。

 しかし踏みとどまってしまう。

 それと同時に、止まってしまった私に代わるように、風と共に、新たな影が私をすり抜けて、その少女へと走り出した。

 なぜだか見覚えのある小さな背中。

 少女よりも一回り大きいその影は、途中で走るのを止めてゆっくりと歩き出す。

 それに対して今度は少女がその遅い新たな影に向かって走り出した。

 大きく、楽しそうに、笑いながら。

 大きく、腕を振って。

 大きく、口を動かして、その背中を向ける少女に向かって、無邪気に呼びかけながら。

 おねぇちゃん。

 それと同時に色が付き始める。

 眩しいほどに。

 眩むほどに。

 目を閉じて、やり過ごす。

 しかし赤い瞼の裏にも、何かが映るような気がした。

 さっきまでの少女よりも、少しだけ成長した影。

 なぜだか見たくないと思ってしまう。

 弱弱しく伸ばしていた両腕をぎこちなく引き寄せて、しかし拳は強く握ってしまう。

 爪が食い込んで痛い。

 その痛みでもっても、当然少女たちの楽し気な声は消えるはずもない。

 耳鳴りを抜けて、幼い笑い声が届く。

 硬く握った手をゆっくりと開いて、思わず耳を覆ってしまう。

 それでも消えることはない。

 どこか奥で、深いところで、響いているよう。

 目をさらに強く瞑っても影も声も消えることはなかった。

 その強く閉じた瞼の隙間から涙が零れる。

 その涙と同時に、また違った大きさの影が動き出す。

 しかしどう見ても、それは同一人物。

 その少女たちの、思い出が再生される。

 そしてずっとこちらに背中を向けながら動いていた影が、小さい方の影を追うようにして、その顔を見せる。

 瞬間、目を見開く。

 同時に少女の顔も消えた。

 しかし涙で歪む視界には、少女たちの残滓が漂う。

 瞬きをすると、その渣滓が涙に溶けていくようだった。

 息を細く、長く吐きだす。

 だけどこれで少し落ち着くと思ったのも束の間、胸が、脳が、締め付けられる。

 知識、言葉、風景、幸福、悲痛、容面、思い出、記憶、経験、笑顔、声音、感触、涙液、嬉笑、快笑、赧然、解顔、喜笑。

 彼女が、私の中に、入ってくる。

 私を形作る、一部に、なる。

 欠けていたところが、埋まるような。

 それどころか、抱えきれない。

 脳内を巡るそれは、収まりきらないで、溢れる。

 耳鳴りの向こうで心臓がうるさく、呼吸も荒く、呼吸音もまた鬱陶しい。

 いろんなところが、押されて、圧迫されて。

 苦しく、辛い。

 涙も汗も溢れ、何から、なにを、どう対処して、どうすれば、いいのか、分からない。


 なぜこれほどまでに大事で、大切で、幸せなこと、彼女の事を忘れてしまっていたのだろうかと、悔やみ、責める。

 今まで、のうのうと生きていた自分を殺したい。

 自分の首を絞めたいが、腕が動かない。

 舌を噛み切ろうとしても、口はみっともなく開いたまま。


 それでも涙は止まらない。

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