俺が彼女の太ももが素晴らしいということを知っている理由
どこか通じ合うように、お互いにうなずき合った後、俺は柏久保くんから目を離し、さらに姿勢を低くした。そして次にその視界を埋めたのは、彼女の麗しきその太ももだった。ニーソに若干圧迫され、そのニーソの履き口から出る少し隆起した太ももがなんとも魅力的だった。
あれはそう、一昨年の春、つまり入学から数週間後の事だった。だんだんと高校生活にも慣れ、皆に余裕が生まれ始めたころだった。もちろんの事、部活に励む姿も眩しく、帰宅部の俺はグラウンドに響く掛け声やなんかを聞きながら帰路に就く毎日を送っていた。
そしてそのグラウンドに見目麗しい二人がいるのを俺は見逃さなかった。
二人とも同じクラスで名前も知っているが、わざわざ声を掛けるような関係ではまだなかった。…確かそんな感じの関係だったはずだ。…もしかしたら違っていたかもしれない。しかしいずれにせよ、俺は彼女達には声を掛けなかった。
それでも俺は彼女たち、いや牧之さんから目を離せないでいた。ついでに言うと、その二人の向こう側にぎらつく眼も印象的であった。
彼女達二人は陸上部に所属している。
つまり、スポーツ用スパッツがもうピッチピチのぱっつんぱっつん。
細すぎず、かといって太すぎず。それでいて適量過ぎて申し分なさすぎるほどの筋肉。
それはもう素晴らしい脚だった。
加えてスパッツそのものもよかった。
スパッツ。
それはパンツとは似て非なるもの。
パンツは見ることのできないものだ。だからこそ、妄想ぐふふな訳で、そこが魅力的であって、俺はパンツが大好きなのだ。
その点、スパッツという代物はパンツのように隠れなんてしていない。むしろオープン。これは「見えないからこその妄想」の余地が全くもってなく、妄想の可能性という観点についてパンツと比べようならば、R指定の二次元世界にでも行かない限り、不可能というものだ。
しかし、スパッツにはパンツにはない魅力がある。
それはその密着性。
これでもかというほどにその人の脚に纏わり、そしてその脚の形、凹凸をより強調させる。
しかし誰かが言うかもしれない。「布で覆われているのだから、生足よりその起伏が漠然になってしまう。スパッツなんて滅んでしまえ!生足ぺろぺろー!」と。
確かにそういう意見も分からないわけでもない。俺も舐めたい。しかしその誰かは何もわかっていないのだ。
スパッツの魅力を。
スパッツの魅力を語るにはまず脳の適当さ、いい加減さ、そしてそれによって生じる脳内補完を語らねばならないだろう。
有名な話で、人は、最初と最後が正しくその中間の文字の順番が異なっている単語で構成されている文でも簡単に読めてしまうというのだ。こんちには みさなん おんげき ですか?ってやつだ。残念ながら文字数が足りないため、パソツもスーカトもスッパツもこの例に挙げることはできない。非常に残念だ。
そしてさらにまた違った話で、人は三つの点を見るとそれが顔に見えるという。これは簡単な顔文字を想像してもらえればいい。(・.・)こんな感じで、うん、顔に見えてしまう。
また異なる話で、彫刻にまつわる話がある。ミケランジェロじゃなくって、あの両腕がない彫刻のーみけー…あの…女神だかの…女神…あ!ミロのヴィーナスだ。両腕のないあの彫刻。あれは存在しない腕を、その彫刻を見た人が想像し補完するからこそ美しいのだ、と誰かが言っていた。
加えて最後にある一つの、いやある種類の画像を挙げたい。このような画像が大好きでたまらないという人も沢山いることだろう。そう水玉コラの画像だ。これはもう説明不要で、ぐふふだ。
ここまで何個か話を挙げたが、分かっていただけただろうか。脳の粗雑さ、そしてその脳の特性を。そう、脳はどうしようもなくてきとーなのだ。
そしてここでその脳の雑さ、これをスパッツを履いた脚に対してここぞとばかりに発揮していただきたい。
スパッツによって曖昧になったその足の起伏、細さ太さを、妄想想像が補完、いやそれ以上のものにするのだ。さらにはスパッツを脱いだ時に解放されるその足の柔らかさ、もっと言えば匂いさえもその想像、妄想の対象であって、暴走するのだ。
という事でスパッツも最高。ここだけの話、ぶっちゃけタイツ、ニーソも斯くの如し。
ここで妄想、想像が魅力を加速させるという点でパンツと似ているかもしれないが、スパッツの魅力はあくまで脚であって、パンツはパンツ自体が対象となる。
やっぱりパンツとスパッツは似て非なるものなのだ。
しかしスパッツはパンツのその魅力をどうしようもなく掻き立ててくれる。
つまり何が言いたいのかというと、その密着性だ。
スパッツを履く人は、その下に何も穿かない人とそうじゃない人に分かれるらしい。
俺が好きなのは断然後者。
そしてスパッツのそのとてつもない密着力によってそれが、その夢が浮かび上がるのだ。
そうパンツが。
スパッツはパンツをどうしようもなく影向させるのだ。
それはそれこそ神、仏に向けての礼拝のように、手を合わせたくなるほどの尊さが溢れる。
普段ならスカートを捲る、もしくは覗かない限り、パンツはスカートやら何かで見えることなんてあるはずもなく、ましてやその形すら拝むことができない。
しかしスパッツはそれを可能にするのだ。
スパッツはパンツを、虚無的存在から確固たる存在へと昇華させる。
つまりだ。
つまりスパッツが開発されたその時が、パンツの存在への価値観における革命、パラダイムシフトだったのだ。
結論を言おう。
彼女のスパッツ姿に心奪われたのであった。
ということで彼女の太ももも素晴らしいのだ。
そんな太ももを舐めまわすように見つめながら俺は完全に片膝立ちとなった。
こうして、晴れて、誰にも、いや彼にだけ気づかれてしまったが、彼を除いて誰にも気づかれることなく、彼女の真後ろで静かに佇むことに成功したのであった。
静かに固い唾を飲み込んで、強く握っていた手汗の気持ち悪く滲む両手を、換気でもさせるかのようにゆっくりと開閉させる。
高鳴る心臓の音が妙にうるさく感じ、彼女の耳まで届いてしまっているのではないかと思ってしまう。
それをどうにか抑えようと、目を閉じる。そして右手を胸に当て、深呼吸をその呼吸音にも気を配りながらゆっくりと繰り返す。
そうやって数回肺を換気すると、若干鼓動が収まった。
その落ち着いた心臓から手を静かに離し、目を見開く。
よし。
第一段階は無事終了だ。




