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スカートめくり feat. ピンクのしましまパンツ  作者: 齊藤パンティ
第二段階 彼女のスカートをそっと優しく掴む
10/19

俺が、彼女の腕を見て安堵した理由

そんな瓜生野さんから嘲るような目を頂戴した。

胸も揉んで、あまつさえパンツもずらしてしまえと言わんばかりに思える。しかし俺はそんな目を見なかった振りをして視線を牧之さんに戻した。

そして再び両手が彼女のスカートを目指す。

ごくりを唾を飲み込んで、息を潜めて。彼女に決して気づかれないように、全神経を注ぐ勢いで。


 しかしスカートまであと十数センチというところだった。


 スカートと自分の手しか収まっていなかった俺の視界に、突如としてそれが進入してきた。

 驚き、つい腕を引っ込める。


 それは牧之さんの麗しい右手だった。それはお尻を、スカートを抑えるように回された。


 これは…防御?

 いや、まさか俺の存在に気づき、そして俺がぶちかまそうとしていることを察知したというのか?そしてそれとなく、牽制、防御姿勢となったということなのか?


 いや、ありえない。彼女はその腕以外にそんな素振りは見せていないはずだ。

 それをもう一度確認するためにその腕を辿るように顔を上げる。


 ここで一つ、ああよかった、と安堵した。


 彼女のその美しく細い腕にはもう傷跡なんて残っていなかった。本当に良かった。

 これは今年の体育祭の前日の事、つまり体育祭の準備日の事だった。

 牧之さんは体育祭ではいわゆる用具係であった。ちなみに俺も。そして全学年全クラスの用具係という用具係が生徒用玄関の下のピロティに集合していた。このピロティに隣接する器具庫から、明日使う用具をみんなで頑張ってグラウンドまで運ぼうという事だった。という事で五人も必要ないんじゃないと誰かに指摘されるその前に、棒倒しで使う太い棒を五人でえっちらおっちらする。その後、何に使うか分からない机と椅子をえっちらおっちら、その他もろもろもえっちらおっちらした。そしてとりあえずそれらはグラウンドの中央に並べて置かれた。そんな感じの数十分間のえっちらおっちらで器具庫が空になり、そして暇になった人達もなんとなくそのグラウンドの中央に集まって、担当の先生が来るのを待っていた。駄弁っている人に、持ってきた用具で遊ぶ者いた。

 そんな中、玉入れの籠を立てて、エアー玉入れをしている三人がいた。


 しかしその籠が傾く。


 その傾倒の先には牧之さん。


「あぶない!」


 誰かの声が響く。

 俺は咄嗟に地面を蹴っていた。

 彼女のその背中を押すのと同時に、彼女の前に回り込む。

 そして彼女を抱きかかえるように地面へと背中を打ち付けた。

 痛かった。痛かったが、彼女の胸に埋もれてそれどこじゃなかった。

 そしてついでとばかりに右足にも鈍痛が走る。籠が当たったのだろう。痛かった。痛かったが幸せだった。そして息が苦しいけれどいい匂いで柔らかい。うははは!ほんともう最高だぜ!


「あ、だ、大丈夫ですか?本立野さん?生きてますか!?私が誰だかわかりますか?自分が誰だかわかりますか?ここがどこだかわかりますか?私が誰だかわかりますか?牧之ですよ?わかりますか?牧之ですよ。ま、き、の!わかります?まきのです!牧之!」


 そう慌てたようにおっぱいが離れていって、そしてまた揺れながら近づいた。ぐふふ。俺はそれをほほえましく思いながら手を伸ばしたい衝動をどうにか堪える振りをして、ついでに引き始めた痛みも堪えて応答する。


「いっつ…だ、大丈夫、大丈夫。俺本立野修善、君牧之、ここ学校」


 記憶に異常がないことを証明したあと起き上がろうとすると、先ほど痛みの走った右足がまた重い電流が走った。そして思わず声を出す。


「あだっ」

「大丈夫ですか!?どこが痛むんですか!?牧之ですよ!」

「あ、いや大したことないよ、それより牧之さんに怪我はない?」


 こんな時でも俺は出来た男。牧之さんを全力で気遣いに行く振りをする。


「いえ、牧之は大丈夫です。とりあえず保健室いきましょう。立てますか?歩けますか?牧之ですよ!」

「あぁうん大丈夫だよ、ありがとう牧之さん」


 再びの電流を警戒しながら、右足を気遣ってどうにか立ち上がる。その時、誰かから謝られた。さっきのエアー玉入れのやつらだろう。適当にあしらって俺は保健室を目指す。格好悪くびっこをひきながら。


「本立野さん!牧之です!頼りないかもしれませんが、この牧之の肩を使ってください」


 そう言いながら俺の返事も待たずに、俺の右腕を持ち上げて、自分の肩に回した。それから左の脇に腕を回してきて、少しくすぐったかった。

 それと同時に彼女が少し咳き込んだ。そして鼻もすすり、若干呼吸も荒くなり、なんだか苦しそうに見える。

 しかしそれはすぐに止み、そうこうして、彼女の肩を借りながら保健室を目指す。

 彼女の肩は思っていた以上に細く、彼女の言葉以上に頼りないものだった。それでも少しばかり体重を預ける。別に牧之さんにより近づいて、牧之さんの匂いをもっと嗅いでやろう、だとか、もっと体を密着させ、その柔らかさをより感じたいとか、そういう邪なことは全く思っていなく、単に足がとてつもなく痛むだけであって、髪の毛がこそばゆいとか、案外おっぱいが近いだとか、その胸元がなんだかとってもぐふふだとか、全然どぎまぎなんてしない。


ぐふふ。あー足痛いなーすごく痛いなー。とんだ災難だなー。


「す、すみません、本立野さん。私のせいで…」

「いや、牧之さんのせいじゃないよ、悪いのはあの三人」


 俺が心の目でグラウンドの中央にいるであろう三人を睨みつけるような振りをしながら口を開く。しかしそれを少しばかり遮るように、彼女の首が横に振られた。


「いえ、私がしっかりと周囲に注意を払っていたら、本立野さんが怪我することはありませんでした…」

「いや、まあこのくらいで済んでよかったよ。そして何より、牧之さんに怪我がなくてよかった」

「…はい」


 そうこうして保健室へ到着。校舎一階の中央あたり。外側のドアから失礼する。


「あら、どうしました?怪我ですか?」

「えぇああ、右の足首当たりに玉入れの籠が、こうズドンと」

「あらあらまあまあ、取り敢えず固定して、冷やしながらベッドに寝ましょうか。足を高くしてね」


 処置はそういうことらしいので、言われるがままなされるがまま受けた。固定される時は痛かったし、氷が冷たい。


「はい、君は、あとはベッドに寝ててね。足高くねー。はい、次はあなたね。腕出しなさい」

「腕?」


 俺の処置を終えた先生が牧之さんに柔く命令する。しかし牧之さんは可愛らしく首を傾けてきょとんとした。


「あら、その傷はいいの?手当しなくて」

「え、傷?」


 牧之さんはそれを受けて左右の腕を見回す。するとそれはすぐにあった。右の前腕から痛々しく血が流れ、あるところはもうすでに血が少し固まっている。


「あら、気づいてなかったの?痛くはなかったの?」

「え、ええ、そうですね。気づきませんでした。痛いですね」

「痛みを忘れるほどの何かがあったの?言っておくけど彼はそれほど酷くないわよ?」


 俺は彼女達の会話を聞かない振りをしながら、なぜ彼女の怪我に気づけなかったのかと自分を恥じる振りをしてみた。

 それから牧之さんの治療を終えた先生はなにやら用事があるという事で保健室から出ていった。そうしてこの保健室に彼女と二人きりになる。すると彼女は俺のそばまで来て、そのベッドの端に腰掛けた。


「明日の体育祭、出られそうですか?」

「うーん、どうだろう。まあもともと体育祭には乗り気じゃなかったしね」

「本当にすみません」


 彼女は髪を少しいじりながら再度謝罪を重ねる。


「だから悪いのは牧之さんじゃないって。それより牧之さんの方の怪我は大丈夫なの?」

「ええ、ただの掠り傷です。本立野さんのおかげで大きな怪我では…まあ本立野は大きな怪我になってしまいましたが…」

「うん、もう大丈夫だからっ」


 うーん、牧之さんは口を開けば謝ってばかりだ。何か話題でも変えようかとあれやこれやと考える振りをする。


「あ、そういえば聞いていい?さっき倒れた時、やたら意識というか記憶の確認をしていたけど、足しかぶつけてないし、まあ倒れた時に多少は頭打ったけど、それほどの衝撃じゃなかったし、なんであそこまでーと思って」


 牧之さんは自分の髪をいじっていた手を止めて、膝の上に置く。そして一つ大きく深呼吸をすると、どこか遠くを見始めた。残念ながらその目を追ってもベッドを囲むカーテンしかない。


「…そうですね…本立野さんになら…」


 俺はごくりとやたら固い唾を飲み込む振りをして彼女の言葉を待つ。


「…私…記憶障害があるんです。…この間の文化祭の準備の時です。あの時、本立野さんには私には兄弟がいないと言いましたが、実は妹がいるらしいのです…そうですね、ちょうどあの日に思い出しまして…それから病院に検査しに行ったんです。先生が言うには精神的な原因だろうって。何かきっかけがあれば全部思い出すだろう、と仰ってまして…まあそういう訳で少しばかり記憶には敏感というか神経質というか…それで本立野さんが倒れてしまった時に、みっともなく取り乱してしまいました…」

「…そうなんだ…なんか、こんな事、聞いてごめん…」

「あ、いえ、大丈夫です。私もそのきっかけを探していて、…なんだか本立野さんが、頼りになるというか、頼もしいというか、きっかけ探しの手伝いを頼まれてほしいというか…」


 後半はなにやらごにゃごにゃと口を開いていて聞き取れなかった振りをした。そしてこの話題を続けてもいいものかと考える振りをしながら、それでも俺は彼女に聞く。


「…答えたくないならほんと、別に答えなくても構わないんだけど…その…ご両親についての記憶は正しいの?」


 あの文化祭の準備の際に聞いた話に、誤りというか記憶違いがあるのならば、あの時言っていたご両親についてももしかしたら、と思う振りをして聞いてみた。


「…えぇ…そうですね…どうやら両親はもう少し長く生きていた、らしい…かもしれないです…」

「…そっか…無責任には言えないけど…まあ力になれることがあったらなんでも…」

「ええ、期待しています」


 そんな感じで次の日は、日差しと包帯とを鬱陶しく感じながら、心の籠っていない応援をしたりしなかったり、誰かの揺れるおっぱいにくぎ付けになったり、俺の身を未だ心配してくれて何度も牧之さんに声を掛けられたり、あの子は何色のパンツを穿いているのだろうかと一考したり、牧之さんは今何色のパンツを穿いているのだろうと熟考したり、女子だけスカートを穿いて競技を行ってくれねぇかなと儚い夢を描いたりして、無事体育祭を終えた。怪我しちゃったけど。


 そんなわけで、俺が押し倒してしまった(意味深)せいで怪我を負わせてしまい、少しばかり負い目を感じていたその傷は、もうその痕さえ彼女のその麗しい右腕には残っていなかったのであった。本当に良かった。

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