アルデンヌドーム 2
6月下旬、極東から衝撃のニュースが欧州を駆け巡った。
満州に現れた異形生物により日本軍が駆逐されたというのである。
事態は更に広範囲に拡大していた。
ドイツも英仏も、極東に耳目が向いた今しかないと考えた。
既に秘密裏に交渉を重ね、戦争をしている振りをしながらアルデンヌの森に現れた不思議なドームの中へと軍を差し向けていたのである。
そして、今や粗方の地域を占領し終えていた。
国民にも既に怪しまれていた各国は、極東での異形生物騒ぎの隙を衝いて停戦を発表した。そして、アルデンヌの森を中立の緩衝地帯という名目でベルギーから切り離し、英仏独の管理する地域としてしまった。
裏切られた形のベルギーや共に英仏へと宣戦布告していたイタリアは反発したが、彼らはどうする力も持ち合わせてはいなかった。
こうして3国は共にドームの向こうへと侵攻を続けることになる。
ドイツは9月には海に突き当たるが、既に有望な資源を発見していた。
イギリスも9月に海に突き当たる。こちらはこの時点では何もないが、調査をすれば何かありそうな感触を持っていたらしい。
2か国よりも遅く、11月まで掛かったフランスも海を見ることになった。
既に調査でそこが巨大な島、つまりは大陸であることは判っていた。そして、航空機で探索可能な大陸から千キロ以内に他の大陸や有望な列島が無いことに落胆しながらも、大陸の面積が北アメリカと同程度で、その大半が亜熱帯から温帯に当たる気候温暖な事には満足していた。
都合が良いことに、アルデンヌドームは山脈の中に出現しており、ドイツが侵攻した地域と英仏が侵攻した地域は真反対に広がる別の地域であった。
ドイツは欧州平野を思わせるような温帯の平野を手にし、振り向いた山脈に鉄鉱石を見つけた。さらに海岸沿いに程近い丘陵地帯では、軽質油が自然に沸き出す泉を数十キロにわたって発見していた。
イギリスはどうかと言うと、こちらはグランドキャニオンの様な浸食地形に鉄鉱石らしき鉱物を見つけ、周囲には更なる資源の可能性が期待できる事に小躍りしていた。
フランスの場合、イギリスとは大河を挟んだ対岸を突き進んだ訳だが、流域ではめぼしい物が見つからなかった。海岸沿いにも一見、何もなかった。
確かに大地は肥沃で農業には向いていた。既に外界人が広大な開墾を行ない農業を行っていたが、発展の余地はまだ残されていた。
この頃はそれに甘んじるしかなかったが、後に砂丘の下には地球では考えられない規模と純度で稀少金属や希土類の鉱床を見つけることになる。
彼らは資源共同体を作り、外界の資源を元手に欧州を束ねていくことになる。