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アルデンヌドーム

まず出現したのは、アルデンヌドームだった。

それは、まやかしの戦争が終わり、ドイツによる本格的な戦争が開始された直後の1940年5月の出来事だった。


当時、ドイツは防衛線の薄いアルデンヌの森を抜けてフランスへと侵攻する作戦を実施したのだが、ベルギーの海岸線から侵攻する部隊は数日でフランス国境に迫ったのだが、アルデンヌの森を侵攻する複数の部隊との通信が突如として途絶した。

ドイツはフランスによる反撃を疑い、更なる兵力を投入したのだが、それらも全て消えてしまった。

一週間もするとフランス侵攻作戦が失敗したのは明らかだったが、不思議なことに消えたはずの部隊から伝令が現れたのである。


そして、ドイツ軍の前線司令部は耳を疑う報告を受けた。

その伝令曰く、通信が途絶したが敵拠点らしきものを見つけたので攻め落として、前進を続けたがまったくフランスに入らないどころか、現在交戦している相手はローマかギリシアの軍勢みたいな連中で、おとぎ話の様な魔法を使うと言うのだった。

戦場で気でも狂ったのだろうと取り合わなかったが、更に2名、同じ様な話をする伝令がアルデンヌの森から現れたことで、前線司令部はベルリンへそれを報告することにした。

既にベルリンには空軍からそれと似た報告が上がったおり、空軍のおとぎ話に信憑性が生まれることになる。

空軍では、初日から想定以上の未帰還や戦果判定不能な報告が行われていた。

三日もすると消えたはずの部隊を支援したと称する攻撃隊まで現れて、空軍には困惑が拡がっていた。もちろん、フランス軍への攻撃効果など、彼らはまったく得ていないのだから、一体どこを攻撃しているのか、誰もが疑問に思うのだった。しかし、攻撃隊の面々は至って普通に戦果を報告し、また出撃するのだから、謎がなぞを呼んでいた。

一週間して陸空の報告が同じものを指し示した時、ベルリンでは一部の幹部がアルデンヌの森を詳しく調査するように命じる事になった。


英仏側はどうだったかというと、こちらでも、とうとう始まったドイツ軍の攻勢に対し、第一次大戦の教訓から相応の体制で望むことは、実は出来ていなかった。

しかし、いざ侵攻してきたドイツ軍の少なさに拍子抜けしていた節がある。

まさかとアルデンヌの森からの侵攻を警戒したが、そんな様子もなかった。

侵攻開始から一週間が過ぎるとドイツ軍の様子が明かにおかしくなった。

なぜか攻勢を停止したのである。


この頃、英仏側もアルデンヌの森上空で複数の偵察機が消息を絶っているが、撃墜されたと判断し、それ以上の詮索はしていない。

しかし、アルデンヌの森へ向かった攻撃隊がなんの通信もなく全て消息を絶ってしまう事態に違和感が芽生えていた。

更に数日するとより不思議な事態が起こる。

ドイツ軍と同じ様な報告が英仏軍でも行われるようになったのである。


そして、英仏軍でもアルデンヌの森へと部隊を差し向けてみることになった。

すると、部隊はある地点から通信が途絶したが、10分もすると回復した。ただし、その報告には耳を疑うしかなかった。

森に入ったはずが、行きなり山岳地帯に出たと言うのである。

司令部は差し向けた部隊が何を言っているのか解らなかった。

確かに、それなりに急峻な地形もあるが、部隊の位置にはその様な地形は無い筈だった。

そして、更に不思議なことに、僅かに通信兵から離れた小道を戻った部隊は、通信兵から数キロ離れた位置に出現することになってしまったと言うのである。

その報告を受けた司令部では、ドイツ軍の隙を見つけたのだから、そこから攻め込めば良いという意見が出る。実際、小規模な偵察隊では状況把握が難しい事から、威力偵察のためにまとまった部隊を送ることになった。しかも、先の偵察隊と同様に、通信が途絶した地点に連絡部隊を残して行くという作戦が立てられ、すぐさま実行されたが、それによって更なる報告が司令部に寄せられる事となった。

山岳地帯を抜けると平原があり、山からの出口を塞ぐように城か神殿がそびえていると言うものだった。

帰還した部隊の撮影した写真にもそれらは写っていた。

偵察機を飛ばしてみると、山岳地帯の向こうにはかなり広い平野があり、はるか遠くに海が見えるというものだった。もちろん、ドイツの向こうはロシア平野があり、南はアルプス山脈がある。そこがドイツでないことは明らかだった。


ドイツ側も侵攻開始から二週間もするとその事に気付いていた。

どんなに偵察機を飛ばしてもパリは見えないし、海はあってもドーバー海峡が見つからなかった。


この5月の出来事を後に不思議な戦争と呼ばれることになる。

何せ、勢いよく侵攻を開始したドイツ軍の攻勢は一週間で止り、当初反攻に転じたはずの英仏軍でも数日するとベルギー奪回を忘れたように進攻を止め、アルデンヌの森を目指したのである。

そして、6月に入ると戦争が行われているのかどうかすら怪しくなる。

しかし、ドイツも英仏も、部隊を送り出し続け、物資を送り続けているのだった。しかし、ベルギーの戦線もマジノ戦線も、一切の交戦が行われていなかった。


そこに極東からの報が届くことになる。





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