鬼ヶ島合戦と日本海軍
今日、日本海軍には二つのまったくことなる組織が存在する。
それは誰もが知る通り、連合艦隊と外界艦隊の事である。
今の連合艦隊の基となったのは1944年に外界において惨敗し、アメリカからの技術導入によって外界での戦争に勝利した瀬戸内派遣艦隊の存在であった。
古くから夜戦を得意とした海軍だったが、外界で対峙した鬼は人間の視力を遥かに凌駕しており惨敗を喫することになった。
当時、陸軍が満州において馬人族に大打撃を被ったあとであったため、海軍は隠蔽を図るものの、陸軍が事実を暴露したために広く知られることとなる。
ただ、暴露された後は権力の失墜もあり、精神論に逃げ込むことも出来ず、議会や世論の沸騰を抑えるためにも冷静な分析がなされることとなった。
敵である鬼は電波通信を持たないため、外界では無線封止の必要性がなく、根強い反対のあった電探の導入がすんなり決まるが、日本においてはその時点で水上探知を行える実用電探が無く、アメリカから外界鉱物の代金としてレーダー装置の提供を受けることになり、1945年にはその効果もあって劣勢を跳ね返すことが出来るまでになった。
更に、外界においては魚雷攻撃は不可能であったため、派遣する艦艇からは魚雷が撤去され、その替わりとして軽く防御力の高い外界鉱物のミスリルが装甲としてはりつけられる事となった。
このミスリルは比較的生産量があり、加工も難しくはないが、もうひとつの外界鉱物であるオリハルコンに対する防御力は非常に高いものの、地球の鉱物と比較してその生産量は少なく、地球製兵器への対処には地球製装甲材で十分な能力を発揮出来ることもあり、広範に普及するには至っていない。
ミスリル装甲は主に日米露の外界対処部隊によって使用され、生産量が少なく加工も難しいオリハルコンに至っては、旧ソ連以外、地球の紛争で使用した国はない。オリハルコンを用いずとも、タングステンや劣化ウラン、マルエーシング鋼等の高硬度鋼によって十分な威力を発揮できることもあり、生産量が少いオリハルコンは対ミスリル装甲対策が必要な日露、ドラゴン対策が必須の米国でしか使用されていない。
閑話休題
日本海軍は緒戦で、損傷した比叡、霧島の代艦として、当時建造中であった超甲巡を充てることとしたが、レーダーの搭載、ミスリル装甲の採用等のために設計から見直されることになった。
更に、アメリカからアラスカ級大型巡洋艦に次ぐ、新たな大型巡洋艦用に開発されていた12インチ自動装填機構が提供されるに至り、急遽、各地の要塞砲となっていた旧式砲をかき集めることになる。
新設計の31センチ砲を使用しなかったのは、その発射速度と砲座機構の耐久性にあった。
新設計の50口径31センチ砲は初速の高い砲であるため、自動装填機構による毎分4発の発射速度の恩恵に預かるだけの耐久性や信頼性を砲座に持たせることが難しかった。
その為、砲座への負担が軽い旧式の45口径30.5センチ砲を使う事とした。
更に、三連装では強度が不足することを恐れて連装砲塔となり、一番艦、蔵王は連装、3基6門として完成している。
船体設計からやり直して4基8門となった二番艦石鎚を別艦種として、蔵王型、石鎚型とするのが一般的である。
蔵王型、石鎚型が加わった1946年には圧倒的火力で鬼の艦隊を各地で撃破することに成功し、1947年の休戦に至る。
日本海軍は外界での海戦によりレーダーの有効性を痛感し、以後、連合艦隊へも積極的に採用していく。
1950年に外界において休戦が破られた際に、日本は再度、空母部隊を投入するが、やはり鬼族による迎撃は激しく、有効打を与えることが出来なかった。このため外界への空母部隊投入は以後行われなくなる。
このとき活躍したのが31センチ砲を搭載した外界専用設計の戦艦、甲斐型であった。
甲斐型戦艦は地球における遠距離砲戦戦術を前提にせず、鬼族の使うバリスタの射程である10キロ前後での砲戦を前提として、舷側、砲塔正面を256ミリのミスリル装甲(通常装甲換算では400ミリ以上)とし、35ノットの高速を特徴とした。
艦橋も石鎚型までの塔型艦橋ではなく、巡洋艦型となり、かなり低く抑えられている。これも近距離砲戦に割り切ったために行われた措置である。
これ以後、地球においては空母部隊による航空戦力が推進されるが、外界においては旧来型の水上打撃戦力が維持されることになる。
1980年代には、甲斐型戦艦の退役が迫り、後継を模索するなかで、甲斐型より更に発射速度の高い、毎分6発まで高めた砲座が開発され、砲もそれにあわせ強度を増した31センチ砲の開発が行われることとなる。
既にミサイルの時代に巨砲を新規に開発するなど日本以外でなら狂気の沙汰だったが、外界では有効であるため、この様な事態となったのである。
艦形についても発射速度が向上したため、単装4基、あるいは連装2基とする案も出されたが、様々な検討と議論の末、連装4基が維持されることになり、瑞穂型戦艦として就役している。
1999年に勃発した鬼族との戦争ではミサイル主戦論を唱える総理や国防大臣によって連合艦隊の艦艇が外界に投入されたが、発射したミサイルの大半が撃墜されマトモな戦果を挙げることが出来ず内閣の責任問題となり、内閣は退陣、新内閣では従来通り砲戦へと回帰している。
20年にわたり活躍した瑞穂型戦艦の後継問題が起きた2010年には、日米共同開発のレールガンの採用が推進された。
レールガンは初速が速く、ドラゴンでも回避は難しく、砲口径を減じる事も可能になる。対ドラゴン対策としてドームの内外に複数の巨砲を据えていた米国には朗報であった。
日本でも戦艦の後継を小型化出来ると期待したが、必要電力量の多さと「一艦あたり毎分40発の維持」という条件を満たすために、瑞穂型戦艦と同等の全長を持ち、4基のレールガンが搭載されることが決まっている。
そのため建造費は空母に匹敵し、発電能力は驚異の142メガワットが予定されており、如何にレールガンが電力を必要とするかが伺える。ただ、艦種は戦艦ではなく、巡洋艦となることが既に決まっている。確かに8インチ以上の巨砲を備えた艦艇ではなくなるが、地球とは違い、ステルス性を意識しない堂々たる偉容、空母に匹敵する費用、巨砲と大差ない威力を鑑みれば、戦艦の称号こそが相応しい様に思える。