瀬戸内ドーム 3
日本海軍がアメリカに協力を求めた頃、ちょうどアメリカは国難の真っ只中であった。
オリハルコンの輸入先は数年前まで禁輸を考えていた相手と言うのは何の因果だろうか。
ドラゴンを倒すにはオリハルコンが最適だと気付いたのも、異形と戦った日本であった。
日本としたら半ば単なるセールストークだったのだが、実際にこの2年後に見事にオリハルコン弾によってドラゴンを倒すのだから、間違ってはいなかった。
さて、セールストークに飛び付いたアメリカだったがその代金支払いに困っていた。
もしかしたら食い潰されるかもしれないアメリカドルでの支払いには信用がなく、かといって、他国通貨で支払うには限度がある。
そんなときに日本海軍からレーダー提供の要請が来たのだから飛び付かないわけがない。直ぐ様オリハルコンの代金をレーダー装置や技術提供という物納で賄う交渉が行われて、多数の水上レーダーが日本に引き渡される事になった。
それらの装置は早くも12月には装備した艦が外界に向かう様になる。
そして、夜襲で損傷した戦艦は修理ではなく、廃艦が決まる。替わりに当時、この戦艦の代艦として建造中だった艦の設計が大きく変更を受けて外界艦隊専用艦として就役するのだが、それはまだ1年半ほど先の話。
それまでは残された2隻の戦艦と増産された巡洋艦で乗りきることになる。この頃から修理や定期整備に入った巡洋艦の魚雷が撤去されていくことになる。
駆逐艦も魚雷を撤去し、艦橋にミスリル装甲を貼り付けた専用艦が配備されている。
こうして外界専用艦隊となり、地球とは違う戦術を採用した。1945年4月の攻勢では夜襲を控えて昼間戦闘を主として行うことで優位を確保することに成功する。
ただ、日本艦隊は数が少なく、局地戦で勝利できてもそれで戦争が終わる事はなく、多くの戦場を駆け回る事になった。この年は戦場を駆け巡るうちに過ぎ去ってしまう。
翌年、アメリカからレーダーだけでなく、自動装填装置まで提供を受けて完成させた新型艦が戦列に加わってようやく余裕が生まれる事になる。
新型艦はそれだけに留まらず、軽巡洋艦と駆逐艦の間の子みたいな外界専用艦や魚雷を捨て去り、1から砲撃に特化した装甲駆逐艦なども加わり、日本艦隊は敵を完全に圧倒するようになる。
そして、1947年2月に獣人と敵対していた鬼族との間に休戦が成立するのだが、僅か3年で破られたのを皮切りに、その後も幾度か戦争になり、最近では1999年から2002年まで行われていた。
そして現在、先の戦争にミサイルを投入したところ、鬼族は連弩の様な兵器でミサイルを撃ち落としてしまった為、巨砲に替わる新時代の艦砲としてアメリカと共同開発したレールガンを積んだ新型艦の建造が行われている。
この艦が就役すればようやく日本でも戦艦が艦籍から消えることになる。
ちなみに、獣人の住む群島にはミスリル鉱山やオリハルコン鉱山もあり、日本はハルビンより安全に異世界鉱物を取得出来るようになったのだが、獣人の群島に住むドワーフ族が少ないため、生産量はハルビンドームには及ばない。
鉱石から精錬するにはドワーフ族の魔法が必要なので、工業化が出来ない事が足枷となっている。
さて、少し話は変わるが、日本各地には鬼や鬼退治の伝承が残る。特に、瀬戸内沿岸の岡山や香川では瀬戸内ドームが過去にも出現して、その時に鬼族が日本各地に進出したと言うのが半ば常識として語られている。
桃太郎伝説の犬、猿は獣人で説明が付くし、雉も今は群島には居ないが、ハルビンドームの向こうには翼を持つ獣人も確認されており、以前もハルビンドームと瀬戸内ドームが同時期に出現していた可能性が考えられている。