武漢ドーム2
1945年には中国における内戦は一応の終息を見せていた。
中国大陸を二分した中華人民共和国と中華連邦はそれぞれの支援国からの援助を元手に復興への歩みを進めていた。
ただ、荒れ果てた農地からは食料を得られない。
戦場となって荒れた華北平原を領土とする北中国では武漢ドームの向こう側に活路を見出だそうとした。
もちろん、ドーム自体を奪う事は物理的に難しい。なにせ、中華民国はドームの向こうを主な領土とする国なので、武漢の防衛は容易かった。
その為、北中国が求めたものは、力による相手の打倒ではなく、商取引による食料確保だった。
その交易の中身が21世紀では信じられないのだが、北中国からは人間が輸出され、換わりに豚面、いわゆるオークを輸入していた。
オークは豚肉と変わらない食感であったから、彼らは外界で狩られたオークを率先して輸入していたのである。
武漢側からすれば豚面や犬面などが徘徊する森を切り開くには兎に角人手が、それも、死んでも構わない人手が必要だった。北中国は反抗的な人々は統治の邪魔でしかないため、口減らしと反政府思想の排除の為に政治犯をドームに追放するのはメリットがあった。
こうしてある種の奴隷貿易が成立していたのである。
一方、中華連邦はというと、食料には困っていなかったし、華北平原ほどの人口集中もなかった。
ただ、中華連邦は北中国や武漢勢力よりも経済についてはめざとかった。
そう、奴隷貿易を取り仕切っていたのは他でもない、南中国の人々だったのである。
こうした状態の中で北中国の食料事情の改善で奴隷貿易が行き詰まると新たな形の活路を見いだすのである。
地球で普遍的に拡がる英雄物語やおとぎはなしをモチーフにした「冒険紹介」である。
今では武漢ドームでの活動をモチーフにしたゲームや映画、小説なども多数存在するが、その中で「冒険者ギルド」として描かれる組織は、南中国に本拠を置く武漢ドーム内最大手のコンダクターがモデルとなっている。
実際、現在でも中華民国では合法的に豚面や犬面をハンティングすることが可能であるため、多くの「冒険者」が夢を求めて世界各地から訪れている。
その中には、北中国による組織的なハンティング集団が存在し、常に成績上位に名を連ねている。
武漢ドームの向こう側に広がる森では様々な生物が生息し、地球の条約や法律が適用困難なため、象牙や毛皮の代替商品としてかなり高額で取引されている。
それらのドーム外へ持ち出す関税が中華民国の財政を支え、持ち出された角や毛皮の取引が北中国の経済を支えている。南中国はそうした人や物の移動を請け負う事で恩恵を受けている。
昔、三国時代という中国の歴史が知られているが、今やその天下三分の計が見事に結実していると言えないだろうか。