自殺志願者は
突発的に思いついた小説です
俺は自殺志願者。けど死ねない。なんで死ねないのかは俺にも分からない。
……何回死のうとしても、死ねないんだ。今だって今度こそと、首に縄をかけて死のうとしてる。
「……次、こそは。ちゃんと死ねるよな?」
誰かにそんな質問を飛ばしてみるけど、そりゃ誰も居ないわけだから誰からも返事なんて返ってこないわけで。
慣れたものだ。死ぬ準備をするのも。そして俺は心構えなんて必要なく、そのまの乗っていた台を蹴飛ばした。キュ、と首が締まる。あ、これ一瞬だけ気持ちいいけど、すぐ死ねねぇやつだ。今度から首吊りは無しにしよう。……今度、から。
「かはっ……ぅ…あ……」
さぁあとは目を閉じて俺が望んでいた死を待つだけ。
ここまでは良いんだ。そう、ここまでは。
俺はバクバクとうるさい心臓の音を聞きながら目を閉じた。
◆
ところがどうだろう。俺はいつものようにベッドにいるのだ。こうやって俺が死ぬのを何かが邪魔する。と言っても、俺の家には俺以外誰もいない。おかしな話だ。一周回って気持ち悪い。
「…くそっ」
これじゃあただ俺が苦しいだけじゃないか。無駄な痛みばかり味わって、死のうとしたらはい朝ですって。ふざけんな。
……あぁ、今日はごみ出しの日だっけ。体もダルいし、後でも良いや。そんなに溜まってねぇし。
部屋を見ると中心には昨日使った縄が輪になってぶら下がっていた。これで死んだはずなんだ。
前は確か……そうだ、包丁で首を切ったんだった。その時だって、目が覚めたらベッド。その前も、その前も、その前もその前も。何回死んだか分からない。
「なんで死のうと思ったんだっけ」
沢山死のうとしすぎて、何で死のうと思ったのかすら分からなくなってきた。
親に虐待?そんなことされてない。いじめ?それもない。人間関係で嫌になったことなんてない。
何で死のうと思ったのか分からず、何となく机に置いてある沢山の封筒を全部持ってきて中を開く。ちなみに封筒には「遺書」と書いてある。わざわざ死のうとする度に遺書を書くなんて、誰もここに居ないくせによく書くもんだ。自分で書いた沢山の遺書を見ながら笑ってしまった。
遺書の中身は大体似たようなものだった。
「俺には皆さんが言う良い人ではないので、死のうと思います。」
そんな感じの内容だった。何言ってんだと思うかもしれない。実際、読み返した俺がそう思った。
まぁでも、そうっちゃそうだ。
親からは「良い人になりなさい」。友達や同僚には「良い人だな」。でも人間、そんな良い人にはなれない。
俺を叱ってくれた人などいただろうか。ミスや失敗で叱られたりすることはあった。でも、俺を性格で叱ってくれた人はいただろうか。ただ上っ面で「良い人」を演じていた俺の中身を知っている人はいただろうか。
そんな思いが遺書を読んでいるうちに、涙と一緒に溢れてきた。
自殺をすることは、ただの現実逃避。俺だって分かってる。でも、こうやって俺を何かが死なせないのは、逃げるなってことなんだろうか。
だけど、俺はきっとこれからも死のうとするし、「良い人」になんかなれない。演じ方だって忘れてる。
「……そういえば」
部屋の片隅にある日本地図と世界地図を見た。小さい頃、日本と世界を旅するのが俺の夢だったっけ。
今さら、そんなことを考えていた。どうしたら死ねるか考えていたはずなのに。あぁ。俺死ねないんだった。
どうせ、どうせ死ぬことが出来ないのなら。
「よし…」
お金は昔から貯金してた。と言っても、ちょこちょこだからそんなには貯まってない。けど旅行する分ぐらいならある。稼ぎながらいけば何の問題もない。
リュックと二つの地図を取って準備をする。今度は死ぬ準備じゃない。
準備は一時間ちょっとで終わった。
沢山の開けられた封筒と紙を見る。
「…………」
紙とペン、封筒をだし椅子に座る。
◆
遺書
お母さん、お父さん。今まで育ててくれてありがとう。
俺はお母さんやお父さんが言う「良い人」にはなれなかった。ごめん。沢山の遺書を見てびっくりするだろうね。
けど、この遺書は少し違うんだ。
お母さん、お父さん。あなたたちより先に―――
死にたがりなのに死ねない主人公が夢を見つけた話でした。