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第八話 手腕


 

 既に今日の授業は全て終わっていたので、教室には誰も残っていなかった。仲里先生は最前列の椅子の一つを引き、乱暴に座るとため息を吐く。


「全く、君は一体何者なんだい? いつの間に僕が御神酒先生の生徒だったと調べたんだ?」


 仲里先生は半ば呆れたような口調で、閂先輩に質問した。確かにその点については俺も驚いている。だがそれ以上に、ここまであっさりと主導権を握った閂先輩の手腕に驚愕していた。俺一人だったら、先生に注意された時点で話を打ち切られていただろう。


「ひひひ、私はただの女子高生でございますよ……昨日、授業が無くなって時間があったものですから……その間に調べさせて頂きました……」

「昨日は自宅待機と言われていたよね? ……いや、そんなことは君にとっては関係ないのか。それで、僕に何を聞きたいんだい?」


 手段に問題はあったものの、これで仲里先生から話を聞くことが出来る。しかし、先生が今回の事件に関わっているとは限らない。全くの無駄足に終わる可能性も……


「そうですね……仲里先生は御神酒先生の死が発覚する前日、御神酒先生と一緒に学校に残っていましたね?」

「え、そうなんですか!?」

「……本当によく調べているね」


 そうか、だから閂先輩は仲里先生を疑ったんだ。一緒に学校に残った次の日に御神酒先生が亡くなったとなれば、何かあったと思われてもおかしくない。


「ただ言っておくけど、僕は何もやましいことはしていない。あの日はたまたま二人とも仕事が残っていただけだ。それにこのことは警察にも話してあるし、彼らも僕が潔白だと判断している。僕はただ学校に残っていただけだ」

「ひひひひ、そういうことをお聞きしているのではないのですよ……問題は仲里先生が御神酒先生と何らかの会話をしたかどうかです……」

「僕が御神酒先生を死に追いやるようなことを言ったとでも言うのかい?」

「いえいえ、決してそのようなことは。ただ……」


 そして閂先輩は、視線を仲里先生のポケットに向ける。


「御神酒先生から何かを渡された……」


「!!」


 閂先輩の発言を受けて、仲里先生の手がポケットを押さえる。


「……ようですね。ひひひ」

「せ、先輩?」

「先ほど何かをポケットに隠したのを見ていたのですよ……少し遅かったですねえ、ひひひ」


 確かに俺も職員室で、仲里先生がポケットに何かを隠すのを見た。だけど俺は仲里先生のプライバシーを気にして、そのことを追及出来なかった。


「……これはとある生徒の成績に関するものだ。だから君たちに見せられないだけだ」

「ウソはいけませんねぇ……生徒の成績に関するものなら、机に隠すはず。だが先生はポケットに隠しました……それはおそらく、同じ教師にも見られたくないものであるから……違いますか?」

「くっ……」

「まあ、どちらであろうとも、主導権は私が握っていることをお忘れなきよう……」


 仲里先生は苦々しい様子で眉をひそめ、観念したかのようにポケットに手を入れる。


「最近の高校生はどうなってるんだ……ほら、存分に見なさい」


 仲里先生が取り出したもの。それは小さい直方体の形状をして、片方の先端がキャップのようになっている物体。


 パソコンなどに繋ぐ、どこにでもありそうなUSBメモリーだった。


「ひひひ、そういうことですか……」


 それを見た閂先輩は、一人納得したように頷く。


「あの先輩、俺にはどういうことかわからないんですけど……」

「……御神酒先生は自殺されました。だとしたら、あるものが発見されていてもおかしくないとは思いませんか?」

「……あ!」


 そうだ、もし本当に御神酒先生が自殺したとしたら。


 誰かに宛てた『遺書』を残していてもおかしくない。


「まさかこれが……御神酒先生の遺書……?」

「……確かにこれは、御神酒先生が亡くなられる前日にご本人から預かったものだ。『私に何かあったら、これを見て欲しい』とね」

「ほう?」

「だけど中に存在するテキストファイルには、パスワードが設定されていた。これでは、これが遺書かどうかはわからない」

「ひひひ……しかし、可能性は高いでしょうねえ……」


 だけど俺には一つ疑問があった。


「でも、なぜ御神酒先生は仲里先生にこれを?」

「……もしかしたら、僕への復讐なのかもしれないね」

「え?」


 御神酒先生の……復讐?


「どうせ君たちは僕から根ほり葉ほり聞くつもりなんだろう? なら話してあげるよ」

「……何をですか?」



「御神酒先生を、あのような過酷な道に歩ませた僕の罪をだよ」



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