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9:ぬいぐるみ

バグってはないですので安心してお読みください。

もぐもぐと口を動かし含んだものをむさぼる。噛み切れないしおいしくもない。

けれどもその行為を止めることなく続ける。

口の中にあるピンクのうさぎの耳がだんだんと重みを帯びてくる。ぬいぐるみを落とさないようにしっかりと両手で握りしめ固定する。


このところ歯茎がむずむずしてしょうがない。だから、何かを噛んで紛らわせないと気が済まないのだ。

首が据わったり、はいはいが出来るようになったり、この身体の成長を感じられることはたくさんあった。

しかし流れるように過ごす時の中ではそんな変化も、繋がっている成長の中では見慣れた人の顔に皺が少しずつ増えるのと同じぐらいさりげないものに感じた。

そんな中もっとも目に見える成長、それが今回の変化。


歯が生えたのだ。


真っ白く半透明な小さな小さな歯が下の歯肉に二本、ころんとしてまだ米粒のようである。

それでも徐々に見えてくる真っ白いものは私に「目に見える」変化を教えてくれた。

大人になったばかりだった私が子どもになり、また大人になってゆくという不思議。前回は分からなかった、赤ん坊の感覚。


本当に不思議だなぁ。

ゆっくりゆっくりと過ぎている日も振り返ってみればほんの一瞬だった。

しかししばらくは赤子時代が続くんだな。


キッチンで野菜を切る母の背を、隣のリビングのベビーチェアの上で見つめる。もちろん口のウサギはもう手に染みるぐらいしっとりしている。もう感触なぞ気にする過程は過ぎているのだ。


ふわんと届くおいしそうな香りは朝食の完成が間近であることを私に教える。

まだまだ離乳食で食感が受け付けないものもたくさんあるが、やはり「食べる」ことは楽しみでならない。無意識に片手を振り、母を急かす。


「またkhuiortanな」

突然横から声がする。ぬいぐるみの耳がぽろりと口から離れる。

なんだか前にも似たようなことがあった気がした。

驚いて振り向くとそこにはいつぞやの紅色の瞳の少年が居た。いったいいつの間に入って、来ていつの間に横に来たのだろう。

しっかりと椅子に座りテーブルに腕を乗せまたその上に顎を乗せ、こっちを向いて少年はニヤリと笑った。


そういえば、結局前回はこの少年が何者かも分からなかった。本当に誰なんだ、また今日もいじわるをされるのだろうか。

いつでも敵が仕掛けて来てもいいように身構え、じっと睨みつけていると少年の手がこちらに伸びた。


「あらリクハルドくん、いらっしゃい。yeodkc1人?」

母が鍋をかき回す手を止め、親しげに彼に話しかける。母も今、少年の存在に気づいたようだ。

「ううん、yupewもoteriw!」

「あらじゃあguyokpは?」

「今日はuioppkkremにgyuroioと行ってるよ」

伸ばしていた手を引っ込めるかと思ったが、そのまま私の頭にぽんっと置き思いっきり撫でながら少年は母に返事をする。

めちゃめちゃに頭を揺さぶられ目が回る。正直言って止めて欲しかったが、その意思表示をするどころでは無いくらいふらふらになる。


そんな私の状態にも気づかず少年と話す母の声には、暖かなものがある。というか、兄弟でじゃれているような状況をほほえましそうに見ているんだろう。

私からするとそんな母ののんきな態度もいい迷惑だと言いたい。笑ってないで助けてよ。そして、早く鍋のかき混ぜを再開してくれ。

ふわわんとしたおいしそうな香りに陰りが出始め、いっそう私の苛立ちを強める。

手の中のうさぎもぶるぶると震えているようだった。


もういっそ泣いてやろうか。そうひとり心の中を修羅場にしていると、ぴたりと手が止まる。

「おいおい、そのへんにしておいてあげてくれ」

半分笑いながら父が少年にそう言ったのだ。

ああ助かった。未だにぐわんぐわんとする頭を支えながら、颯爽と現れた救世主を見た。


深緑色の目にプラチナブロンドの髪、少し痩せ形だが適度にがっちりとして背が高いやさしそうな青年。それが私の今の父の容姿である。

それが二人?

いや、一方はもう少し薄い緑の目で、もう少し高い背で、もう少し筋肉がついていて、もう少し老けていた。

一瞬の見た目はそっくりで、目が慣れるまではどちらが父なのか気づかなかった。

おそらくはこの男性は父の親類で、多分父の兄……だろう。父に兄が居るとは知らなかった。


ということはこの少年、おそらくリクハルドと言う名の者は私の従兄にあたる人物の可能性が高い。

前にどこかで見たことがあると思ったがこう見ると私の今の父に似ていたからか。


「へへ、gyuipo可愛くhuiop」

「可愛がってhuoupのは嬉しいがrtokyngyにしておいてくれよ」

そうリクハルドに言って、そのまま父は私と母に「おはよう」と声をかけた。前半以外いつもの朝の光景だ。

そのまましばらく4人は軽快に話し始めた。おそらく、お互いの子の話しや最近の出来事などその程度のものであろう。

しかし前の記憶から推測すると、親戚同士の談義は少し長くなる。

お腹がキュウと鳴ったのは空耳だと思うことにし、私は覚悟を決めたのだった。


ようやく料理が出来ると5にんそろってベージュのテーブルに着いた。

私の横に母が、母の前に父が、父の横に叔父?が、父の兄の斜め前私からも斜め前の位置にリクハルドが座り、少し遅くなってしまった朝食をとった。

今日の朝ご飯は母の得意料理のシチューとコッペパンだった。これならば多少のペーストも許せる。

味は、良かった。ぎりぎり焦げる寸前だったようだ。


「そういえば、さっきnyuiu魔術をhiuopeei?」

食べていると突然叔父が切り出した。

「いいや、誰も魔術なんてhiuobtyioopeu。」

「uiokrm…、リクハルド uyo 違うか?」

「ううん、yiurは何もしてないよ。」

「おかしいなぁ。さっきbyropwだが魔術のgyuirprがurvvpopti。」


魔術がどうしたのだろう。断片的な言葉から会話の内容を推測するのは難しい。

よく聞くような言葉はなんとなく分かるようになったが、普段周りで使わない言葉は未だ分からないのだ。

だから、言葉以外にも相手の雰囲気や仕草で話している内容を把握するように無意識に脳が働いている。

おそらくは先ほど魔術を誰かが使ったような気がした、ということだろうか。


「シルヴァンyioない?」


いきなり自分の名前を呼ばれ、私が話題に引っ張り出されたことを知る。

先ほどの話の続きなのだとしたら私が魔術を使ったとでも思われたのだろうか。

いやいや、10ヶ月近く生きてみた中で魔術の片鱗さえも私から感じることも出来なかったし、両親が魔術を使う所でさえほとんど見た事が無い。きっとあまり得意ではないのだ。

なので私が魔術を使える可能性もほとんどないだろう。なにか選ばれし痣とかも身体についていなかったし。

そもそもまだ赤ん坊なのに魔術なんて使えるのかな。


思ったことは私と一緒だったのだろう、父も母も苦笑しながらその仮説を否定する。

その仕草からもやっぱり魔術の才は限りなく低いんだと思わされる。


「そうか、まあいい。きっとnuiuopだろう」

「wewerufo byirp。今日はどうしてここに?」


いつの間にか話題は別のものに変わっていた。

片手で持つ湿ったウサギがさっきよりも少し渇いたように感じた。


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