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4:白い魔術士

コツコツと床に足音を響かせている1人の男がいた。

男はまだとても若く見え、高く見積もっても20歳に届くか届かないかといった頃合いだ。

普段は柔和なその顔も少し歪んで見え、ブラウンの髪もばらつき少々息も切れている。

もともと急いでいた足音もどんどん早くなっていた。


「おまたせしました!」


男は大広間に駆け込むや否や勢い良く大きく声を上げた。

その声に大広間に集まっていた4人が男の方を振り返った。


「遅いぞ」


入口に一番近い場所に居た老人が男に話しかける。その顔には深く皺が刻まれ、鋭い眼光は今は入って来たばかりの男をに向けられている。


「申し訳ありません、資料をまとめるのに少々手間取ってしまいまして」


謝ってはいるが老人の苛立った雰囲気など気にした風もなく、息を整えながら男はヘラリと笑った。まじめそうに見えて案外のんきな性格をしている。


「もう少し早く来られませんの。この美しい広間にあんな汚らしい音を響かせないでくれないかしら」


薄桃色の髪をなびかせ老人の隣に居た女性が大きく腕を広げた。

女性はこの大広間に魅せられ、1日の内の半分以上をここで過ごしている。


確かに大広間は美しい。薄緑色を基調とし、凝った装飾などはないとてもシンプルな造りをしている。

しかしまったくの平素なものではなくシンプルながらも上品な美しさからが端々に垣間みられる。素材も決して安いものなどではない。

大広間はこの国に取って重要な場所である。代々の王が生まれた場所であるなどと言う噂が街に広がっている。

実際はここで生まれるわけでは無いが間違っているとも言えない。なぜならば王が生まれる過程で重要な役割をする場所であるからだ。

それほど神聖な場所であり、決して彼女の個人部屋ではない。


大広間に集まったのは男も入れて計5人。

どの人物も真っ白いローブを身にまとい、腕には金色の腕輪をはめている。

ツタをモチーフにしたもの、鳥をあしらったもの、幾何学的な模様が彫られているもの、なんの装飾もないシンプルなもの、本人が常に大好きだと口にする花の模様をしたもの。

全て特注で創られたもので、それぞれ持ち主の性格を良く表した個性あふれる形をしている。

しかし、全ての腕輪にはひとつだけ共通点があった。どの腕輪にも美しい青い石が埋め込まれているのだ。


真っ白いローブにブルーサファイアをはめ込んだ金色の腕輪、それこそがこの国の位の高い魔術士の証である。


青と黄色を混ぜればこの国を象徴するエメラルド色になる。ゆえにこの国の位の高い者は大抵この2色を持ちたがる。

街は緑の色で溢れかえり、一般人も普通に緑の色やエメラルド色を身につける。国の色であるからだ。

それならば位の高い者はより一層国の色であるエメラルドや緑色を身につけたがるのではないのだろうかと考える人も多いかも知れないが現実は真逆である。

位が高い者ほど恐れ多いエメラルドや緑の色を極力身につけようとはしない。エメラルドは王族のためだけの色であると考えるからである。

別に『エメラルド又は緑色は王族以外が身につけてはならない』と言う決まりがある訳ではない。

しかし位が高くなり王族と接する機会が多くなると王族が偶像ではないとはっきりと理解するようになる。

王族に近くなればなるほどその大きさを感じ、恐れと畏怖そして敬意を深く持つようになる。

ゆえに自然とエメラルド色を身につけなくなるのだ。

とはいうものの、少しでも王族に近づきたいという気持ちはあるのだ。だから自然とエメラルド色を創り上げる青と黄色を好むようになる。

自分たちが王族を支え、エメラルドの国を創り上げる一部になるという思いも込めて。


つまり青と黄色の組み合わせは逆に考えれば高い位の者の象徴とも言える。

げんに上記の理由と関係があるのかは定かではないが、国に高位の魔術士と認められたものには王から直々にブルーサファイアが送られる習慣がある。

ブルーサファイア自体は珍しいものではないが、王から送られるこの石は王族だけが行ける場所で採れる特別なものだ。

今その石を持つものはこの国にはわずか十数名しかいない。その中の5人が、現在大広間に集まっている者たちである。


「2分遅れになりましたがそろそろ始めましょう。アルヴァー、資料を」


装飾のないシンプルな腕輪の主がブラウン髪の男に言う。歳は30後半といったところだろうか。キリリとした目が印象的な金髪の男だ。


「こちらです」


アルヴァーと呼ばれた男は持っていた資料をスッと宙に浮かせた。

資料は踊るように5人の周りを囲む。大広間の一番中央が資料で花が咲いたように賑やかになった。


「前回は良い所までいったと思ったのですがやはり失敗でした。集めていた魂は全て飛ばされてしまいました」


浮かぶ資料に目を向ける4人にアルヴァーはそう告げる。


「過去の記録と比べても別に問題は無かったはずなんだがなぁ」


一番古い資料を掴みながら老人がそう言った。手の中では資料が必死に逃げようとしている。


「というか過去の儀式も半分は失敗ではないの。儀式のやり方事態に問題があるのではないのかしら」

「アグネッタ、それは儀式の形式がもともと欠陥であるということですか?」

「そういうことです」


アグネッタが凛とした声で言う。


「じゃあ儀式の形式を変えてみるか!端の方から少しずつ変えていったらいいんだろう」


鳥の腕輪を付けたガタイの良い男が良いアイディアとばかりに指をならす。

男の心を表すようにパチンと大広間に響いた。


「そんなてきとうで良い訳ないでしょう!失敗でもしたら目も当てられない。次期王の魂を呼ぶのですからもっと慎重になってください」


金髪の男は呆れたようにガタイの良い男に言う。その刺々しい物言いに言われた相手は肩を落とした。


「はぁ。俺は形式とか苦手だからなぁ。力は貸せても知恵は貸せねえや」


そう言いながら男はくるりと踵を返す。


「おい、ユッシ!貴様どこへゆくつもりなんだ」


老人が男を止める。


「自室で寝るよ。方針が決まったら声をかけてくれや」


咎める声も気にせずにユッシは大広間を後にした。


「まったくユッシときたらいつもあんな調子なんだから。それでいて城下のご婦人達に人気なんて世の中ずるいわよね」


ユッシが去った方を見ながらアグネッタが頬を膨らませる。

金髪の男がため息をついた。


「ではここからは4人で考えましょうか。儀式の形式、術式を変えるか、変えるならばどこをどのように変えるのか。それとも別の原因を探ってみるか。まだ形式のせいだと決めつけるのは早いですから色々な角度からせめて行きたいですね」

「特別な魂の絶対数が少ないのが原因のひとつかもしれん。捕まえても他で呼び出されてしまえばそちらにいってしまうだろう。特別な魂はやはり少ないだろうから」

「魂の方に原因が?それならば魂に魔法を解く力があるのかもしれませんわ。術式は合っていても解かれてしまえば意味がありませんもの」


次期王になるための魂を捕らえておく方法について3人はそれぞれ思ったことを口に出して行く。

しかしアルヴァーだけは一切の発言もせず、腕の青い宝石を見つめながら別のことを考えていた。


前回集めた魂たちは一体何処へ行ってしまったのだろうと。


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