3:緑の街並み
今の母の背に揺られ街なかを通る。
緑や濃い青、黄緑色のれんがで造られた煙突付きの建物が並ぶ。
建物の中にも店があるようだがその前にも露天が連なっている。
中は主に服や生活雑貨、外ではそのままの野菜や果物魚介類や加工食品小物雑貨などを売っているようだ。
アクセサリー類はどちらにもあるようで思春期の娘達が店をはしごしているのが見える。
「ku0μyipdd4¥$jgd」
ときおり母が何か私に話しかけてくる。野菜を手に取って、建物を指差して。
にこにこしながら何度も私を振り返り、よく笑いあやすように私を揺する。
何を言っているのかはまったく分からないがきっと「これがスイカよ」とか「あの建物綺麗でしょう」だとか「いいこいいこ」のようなことを言っているのだと思う。
自覚してから数週間経って、今の母にも少しは慣れた。
まだ他人の女性という気持ちの方が大きいが愛情をいっぱいくれていることは分かるから。
この女性は母には似てない。けれどときおりあの母の面影をみた気がして、懐かしさと切なさで女性の前で泣くことが多かった。
今も少し切ない気分になって、私に笑顔で話しかけるこの母の顔から目をそらすように通りを見やった。
ここはとても広い通りだ。通りの建物から建物までどれぐらいあるのであろう。
赤ん坊の目線だとどれもこれも大きく見えるので何メートルぐらいなのかはさっぱり分からないが、ただ広いということだけはわかる。少なくとも露店が4列に並んでいてもまだまだ余裕があるぐらいには。
そこにたくさんの人がひしめき合っていて縁日のようだった。
最初はここがメインストリートかと思ったのだが街のどこへ行っても変わりがなかった。
街中が賑やか、それがこの街であった。
赤れんが倉庫みたい。
赤れんが倉庫に西洋の人たちが押し寄せたらこんな風になるに違いない。
ただし、ここのれんが屋敷はどれも緑を基調としているのだけれど。
なおちゃんと行ったなぁ。あれはライブの帰りだったっけ。
泊まりで行ったから帰りは次の日。なんにも予定がないから観光でもして帰ろうってことになって。
あそこで買った皮の財布はちゃんと回収して貰えたのだろうか。
深紅の革の財布にはさりげなく「紅い靴の女の子」と彫ってありそれらしき少女の絵が横にちょこんとたたずんでいる。
かわいかったのですごく大切にしていたからきちんと私とともに葬って欲しかった。
ああ、そうか。私の体が今も回収されていない可能性だってあるのか。
葬儀なんてまだ出来なくて、必死に捜索を続けている最中かもしれない。
私は喉の中に無慈悲に入る水の感触を感じた気がした。
それは完全なる気のせいではあるのだけれど私にとっては最近起きた現実であった。
どっと汗が吹き出る。呼吸が苦しくなった気がする。
そんな私に気づいて母は慌てて近くのベンチに行き、その背から私を下ろしゆっくりとベンチに横たえた。
大きな街路樹が作る日陰が心地よい。
わたわたと慌てる母を見ながら涼しさの中呼吸を落ち着けた。
異変に気づいた街の人が数人私と母に近づく。
スーツに帽子、オシャレな杖を持った老人。淡い茶色のドレスに緑のスカーフの女性。軍服をもっと軽装にしたような服に身を包んだ男性。
女性が私の体を触り、何かを母に話しかけている。
母はそっと私を抱きかかえると街の人についてゆく。その顔はどこか泣きそうであった。
ここは昔のヨーロッパみたいなところなんだ。北欧かそのへんに似ていると思う。
外国のことはよくわからないけど、町並みからしても転生先としては本当に王道中の王道なんだな。
母の心配をよそに、駆けつけた街人の服装や街並みをぼんやりと見つめいまさらながらそんな感想を抱く。
でもここは絶対に元居た世界、地球ではない。なぜならば—―
そこまで思い私の意識は途絶えた。




