1:生まれ変わった
今のところ思いつきで書いておりますのでこの先どうなるのか私にもわかりません。
まずはこのサイトの機能を理解しようと思っています。
ふと、目の前の母親が見知った母親ではない事に気がついた。
—ああ、もうあの母の少し味の濃いそれでいて体に馴染む肉じゃがは食べられなんだなぁ。
頭をよぎった思いは父の葬式の時の思いと似通っていた。
ああ、それでも死んだのはあの母の方ではないのだ。
じわりとした水が目の前の茶色の天井を歪ませた感触は今でも目元を離れない。
私はせきを切ったように泣き出した。目の前で慌てふためく今の母が想像もしていない理由で。
私が転生を自覚したのは首が据わった頃だった。
それまでは「生きる」ということで頭がいっぱいでそれ以外は何も考えることなど出来なかった気がする。
あれは人間の根本的な生存本能だったのだろう、どの生き物も等しく持っている無意識の欲求。肉体の意識とでも呼べばいいのか。
人間の「個人」は肉体の意識ではなく理性の意識。
だから私が本当にこの世界に転生したのは首が据わった頃。
肉体が生まれてから3ヶ月ほど経った頃である。
転生を自覚してからはそれまでとは違い頭はこれからのことでいっぱいだった。
悪い意味で。
転生して前世の記憶持ちといえばゲームや漫画なんかでは特別な力をもった人物で、特別なことをするのだ。
魔王を倒す勇者に祭り上げられたり、逆に魔王になったり。
はたまた前世の記憶を駆使して転生先の世界ではありえないものを作り出したりして、神童と呼ばれたり。
本人に自覚がなくても何かしら周りを驚かせることをしでかしてしまうのが「転生者」だ。
あげく、「これから何かあって1人で生きていかなければいけなくなった時の事を考えて、1人で生きる術を考えておこう」とか言い出して魔法の実験を小さい頃からやって魔力を上げるとか、剣術を学んでおいて騎士になる道をつくっておくとか、前世の料理を教えて自分で店を作り十代にもならないのに個人収入で安定を図ったりする。
一般人が転生したってそんな事できません。そこまで前向きに生きる事なんて出来ません。
いくら精神年齢が20歳とかだとしてもそんなこと思いつきもしないし、思いついても実行になんて移しません。
未来のためにいろんな手を考えておこうなんて将棋の棋士かなにかですか?
毎日少しずつ努力して計画を成功させて何食わぬ顔で周りの羨望を集めて行くなんて、皆さん鋼の精神があるんでしょうか?
大人の精神は実はそんなにタフではありません。
やる前から結果を考え勝手に未来を決めて諦める、それが本当の大人というものです。
20歳そこそこの精神で幼い頃から綿密な計画をこなしてゆける人間は、前世の世界でも計画を上手く実行し人々の上に立つもともと自信と根気のある人物だったとしか考えられない。
だって酸いも甘いも味わってしまった大人という生き物の記憶を持つ人間は、未来を夢見るまっさらな子どもよりもずっと行動力がないものだから。
惰性で生きてきた者が次の未来では本気を出すなんて事は無理に決まっている。
やり直したいと思ったって「理性の意識」である個人の根本「魂」は何も変わってはいないのだから。
だから私は未来のために何かしようとかはまったく思わない。やる前からもう面倒くさいのだ。
もし私が先に書いたように選ばれた特別な主人公のような者でなかったならばそれでよい。何事もなく普通に生きれば良いのだろう。
けれどもまた最初から人生をやり直さなければいけないという事実は変わらないわけで……
もともとが面倒くさがりだった前世の記憶は生後3ヶ月の時から新しい肉体に「惰性」を刻み込んでいた。