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暗殺計画

作者: 藤城一

初心者です。

よろしくおねがいします。

 某ビルの八階、倉庫のようなところ。男は目を閉じて壁にもたれかかっていた。

 突然、拍手が聞こえてきた。男は静かに目を開け、そばに置いているセミオートのスナイパーライフルを手にとって立ち上がり、窓際に立った。

ビルのそばの平和記念公園に黒い車が入ってきた。公園内には真っ白な舞台があり、今日皇后がここで演説をすることになっている。男の任務は皇后を暗殺すること。

 彼の家は金持ちだった。だが、不景気の上、不正が発覚したせいで父の会社が倒産し、父は自殺。破産したにもかかわらず借金取りは毎日取り立てにやってくる。夜逃げも失敗。幸せを取り戻すためには裏の社会で稼ぐしか方法はない。そう考えた男は暗殺を引き受ける会社に入り、少しの間教習を受けてこの初任務にやっとこぎつくことができた。

 男は女王がどんな状況の国の、どんな人なのかまったく知らない。ただ指定されたこの場所に来て、殺すだけでたんまりと金が手に入る。今ある借金の半分以上も、だ。こんなにおいしい話はない。やはり裏の世界だ。

 黒い車は公園を進んでいき、舞台の前まで来ると停まった。そして、ドアが開いて出てきたのは、

おばあちゃん

 男は一瞬たじろいだ。きれいな白髪、輝いている目、笑みのこぼれている口。破産する前に死んだおばあちゃんにそっくりだ。

 確認のために彼女の跡に車から出てくる人を目で追ったが、用心棒以外他には出てこなかった。やはり、あの老婦人が皇后なのだ。

 殺す?

 おばあちゃんは男をとてもかわいがってくれた。一人しか孫がいないからだろうが、彼にとっておばあちゃんは両親よりも特別な存在にあった。老人の一人暮らしは危ないと一緒の家に住んでいて、両親が外出中のときはおばあちゃんはいつもどこか楽しいところへ連れて行ってくれた。

 そして、いつも笑っていてくれた。

 皇后が演説し始めた。計画では、この演説中に殺すことになっている。慌てて男は窓の万力にライフルを固定した。そして照準をあわせる。

 でも、それ以上先には進めない。後は引き金を引くだけ。たいした作業じゃない。子供にだって出来る。それに、皇后はおばあちゃんじゃない。

 でも、それ以上先には進めない。なぜだろう。人を殺す、と決意したあの日の痛みよりも強い痛みが心に染みる。

 それでも、引き金を引かなければ母が苦しむ。今まで育ててくれた母の苦しむ姿が浮かんできた。また痛む。

 演説が終わった。広げていた原稿をたたみ、拍手に包まれている皇后は微笑んでいた。もう時間がない。強く目をつむり、男は顔を伏せた。

 銃声が響く。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。鎌女の文芸部の副部長です(笑 私はこういったタイプの物語はあまり読んだ事がなかったのですが、いい物語だと思いました。ただ、最後にもう少し余韻が欲しいな、と思います。 図々しくて…
2007/09/30 21:10 COLORS   芽衣
[一言] 短いけれどその分ととのっていて面白い文章ですね。 『そらいろ』と語り口が似ているというか、藤城さんの文章は特徴的?な気がします。
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