丘のうえにのぞむ
もしも、自分という存在が誰かの救いとなれるならば。
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凍花の子ども 1
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昼食前にこの丘をのぼることは、ほぼ日課になりつつあった。
なだらかな斜面を歩くことは苦ではない。ただ、その先にいる人がまた嫌そうな表情をするんだろうなぁ、という予想が気分を落ち込ませるだけである。だからと言って、この歩みをやめることはしない。それでなければ、何のためにここまで来たのかわからない。この、『楽園』と呼ばれる場所に。
望む人影を見つけ、目を細める。自然と口元に笑みが浮かんでいることを彼はまだ自覚していなかった。
「ヒスイ」
名を呼ぶ。銀糸の髪が滝のように地面を流れていた。緑に映えるその色彩をきれいだなぁ、と思いながらすくい上げて指にからめる。
「ヒースーイー。お昼の時間ですよー。ルエラが待ってる」
かすかに眉がしかめられた。起きている証拠である。狸寝入りされることはしょっちゅうなので、ため息を小さくつくだけにとどめた。
「いつまでもこうしてたって意味ないよ。とりあえず起きて。文句ならいくらでも受け付けるから」
二呼吸ほどの沈黙。
そして、瞼の奥から予想通りの紫の瞳が姿を現した。もちろん、不機嫌そうなのをかくしもせずに。
「・・・クロエ」
「なにかな」
「元いた世界に帰れ」
早速文句を言うことにしたようだ。元気なのはよいことである。しかし、その文句を聞き入れることはしないが。
「それはできない相談だよ。だって、俺はもう決めたから」
「・・・一応きこう。何を」
「君のそばにいるってね」
にっこり笑って言ったといのヒスイの表情をいったら本当に見物だった。そのことを後に言うと、しこたま怒られることになるのだが、それはまだ今の段階では想像もできない未来のはなしである。
とりあえず、はじめてみました。