モノローグ
少年少女よ、大志を抱け!
親の呪縛から解き放たれよ!
夜の石神井川は、夏場というのにひんやりとしていて、不穏な空気を漂わせている。
ここまで不穏なら、河童がいてもさほどびっくりすることはないだろう。
いや、さすがにびっくりするか。びっくりぐらいしないと河童の立場も無いだろう。
今僕は、灰色のショルダーバッグを背負いながら、川の横の散歩道を逃げるように全速力で走っている。
比喩じゃなく、実際に逃げている。親という、自分にとっての最高権力を持つ、悪の帝王の魔の手から。
大変なことになった――。
この言葉が頭の中でずっとリフレインしていて、ちゃんとした思考能力も持たないまま走っていた。
親からの遺伝でもらった嬉しくないものの一つ、汗っかきのせいで、UNIQLOで買った超激安のシャツが汗で体にくっつき、気持ちの悪さこの上ない。汗で目が染みるが、拭う暇もない。
夜の町は薄暗く、闇の中からいきなり母親が追いかけて来るという訳のわからない空想のため、止まる訳にはいかなかった。
走りながらも、視界に車や自転車のライトが映るたびにびくついてしまう自分が情けない。
逃げなきゃいけない。捕まったら今回ばかりは本当に終わる。マジで。
橋を渡り、大道路に出ても走りつづけた。
今になっては、一心不乱に走りはじめてから何時間たったかすらわからない。
何かに躓き、腕から転んだ。
地面にぶつかった時、膝と肘に鈍い痛みが走った。
見てみると、膝に大きめの擦り傷が出来ていて、血がにじんでいた。
とりあえず落ち着き、立ち上がったあと、走りはじめてから初めて回りを見渡した。
気付いたら知らない町まで来ていた。
知らない町に来るといつもそうなのだが、誰かに監視されている気がする。
隣を歩いている人に観察されてる気がする。自分の一挙一動に気を向け、もし失態でもしようというなら、その町にすむ人々にどう思われるかわかったもんじゃない。
ありえないのに、そんなことで不安がよぎる。
人は意外と知らない人に気を向けない。それを僕は知っているはずなのだが、こればかりはしょうがない。治りそうにもないのだもの。
視界の右隅に自動販売機が並んでいるのが移った。
ふと、自分がとんでもなく喉が渇いているのに気がついた。喉がカラカラだったのだ。体には汗がべったりついているのに。
ジーンズのポケットの中から、小学生のころから使っているアディダスの財布を取り出す。
妙に膨らんでいる小銭入れからギザギザで銀色の小銭をみつけ、取り出してみると50円だった。
この時の虚しさには耐えられないものがあると、いつもつくづく思う。
結局何枚か取り出してみるが、全部50円という散々な結果に。誰かに打ち負かされた気がした。
とりあえず50円を三枚入れた。
悩んだ末に、ペットボトルのポカリスエットを選択した。
炭酸だと、また走るときに支障が来るし。
赤く光るボタン押し、がらんという音と共に受け口に落ちてきたペットボトルを取り出す。
ついでに残ったお釣りがないか、釣銭入れに手をいれる。もちろん小銭は、無い。ちなみに、小学生の頃からこの「ついで」をしているが、小銭があったためしは無い。
ペットボトルのキャップを開けようとするが、手が汗で滑ってキャップを上手く握れない。
服で拭こうと思ったが、当たり前のように服も汗で濡れていることに気づく。考えた末に、歯で開けた。
ポカリスエットをいっきに飲み終わると、二つのことが気になった。
今何時かということと、ここはどこだということである。前者はすぐにわかる。携帯を開けばいいだけだ。
ポケットからストラップも何もついていない真っ暗の携帯を取り出す。
そういえばこの携帯も――――。
感慨に耽りながら携帯を開く。
画面にはとっくの昔に別れた彼女と行った湘南の海の写真の待受の下に、「8/16 Fri 8:19」という文字が写っている。となると、家を飛び出してから2時間以上走ってたことになる。
部活でもこんな長く走ってたことはない。それに全速力で。人間、死ぬ気になれば何でもできるんだとつくづく思う。
さて、ここはどこだ?回りの景色に目をやる。
どうやらどこかの駅前みたいだ。
車の交通量も多く、人工的な明かりで周りは照らされていた。
ファミレスやコンビニが複数あり、人の数も少なくなく、向こうの方にはデパートらしき建物も見える。バスターミナルが何個もあり、タクシーが何台も泊まっている。無論、このタクシーで家まで帰る気は毛頭ない。
なんでかって?
理由は簡単、僕は家出をしたのだから。
もうこれ以上、あの家に住んでいく自信がない。
落ち着ける場所なんて何処にも無い。ストレスが溜まりすぎて息苦しいを超えて窒息死しそうになる。ちなみに、僕はストレスが溜まるという言葉を小二の時に覚えた。親に「二度とそんな言葉を使うな」と、怒られた記憶が残っている。
そして今日、そのストレスが大爆発した。
江戸時代の阿蘇山より大爆発した。よくぞ今日の日まで我慢してきたと、自分を讃えたい。ノーベル賞をあげてもまだ足りないくらいだ。この場合、何のノーベル賞になるのかわからないが。
バス停の看板に、「王子駅」と書いてあるのを発見した。
………王子ってどこだ?
近くの人を呼び止めて、「ここはどこですか?」と聞こうとしたが、頭がおかしいんじゃないかと疑われると思ったのでやめた。
少し考えて、携帯でインターネットを開き、地図で「王子」を検索した。
ヒット。見てみると、東京都北区と書いてある。
…………北区?
頭の中に東京23区の地図を描いてみたが、北区なんて頭の中に浮かんで来ないし、そもそも出てくるのも、昔住んでいた杉並区と、今住んでいる練馬区と、板橋区と中野区と新宿区と大田区と港区と葛飾区しか頭に出て来ない。どうでもいいが、葛飾区はある漫画の影響で覚えてしまった。何の漫画かは、言わない。
まあ位置はともかく、23区にいることは確かだ。
いや…
まだ始まったばかりなのにこんなあとがきを書かせてもらえるとは…
どうも作者です。
まだまだほんと駆け出しの僕ですが、社会にのまれながらこの小説を続けていきたいと思っています。
何卒、これからもよろしくお願いします。
さて、本文のほうになりますが、この本はまだ始まったばかりです。
親からの厳しい規律に耐えかねた少年が、ある夏の夜に家を飛び出し、いつの間にか知らない町に来てしまい、いつのまにかホームレスと共同生活をするお話です!
ぜひ次も読んでください!
また、読んでくれた皆さんにお願いなんですが、ひどかったらひどかっただけ、文に指摘がほしいです!
待ってます!
作者より