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【江戸時代】琵琶湖運河、開通ス  作者: 雨宮 徹


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最終話 ヒスイの記憶、悠久の運河

 2026年、春。

 


 私は、琵琶湖のほとりに立つ「国立大日本博物館」のテラスから、眼下に広がる景色を眺めていた。視界を横切るのは、かつて先祖・義春が私財と情熱のすべてを投じて築き上げた「琵琶湖大運河」だ。江戸時代に造られたとは思えないほど堅牢な石積みは、今なお現役の物流インフラとして機能している。最新の超伝導リニア船が、音もなく閘門を抜け、日本海から太平洋へと抜けていく様は、この国が歩んできた独自の進化の象徴だ。



「やはり、ここからの眺めが一番好きだよ」



 隣で車椅子に揺られる祖父が、目を細めて呟いた。私たちの家系には、代々伝わる古い手記がある。かつて「鬼の勘定奉行」と呼ばれ、日本の運命を数百年分ショートカットさせた男、義春が遺した言葉だ。



『技術は剣よりも強く、経済は盾よりも硬い。だが、真に国を救うのは、民が抱く「誇り」という名の灯火である』



 その言葉通り、この国は変わった。史実では「黒船」の来航に怯え、不平等条約に苦しんだはずの日本。しかし、義春が起こした「文政の産業革命」は、ヨーロッパ列強を「参拝者」として彦根に跪かせた。その結果、日本は植民地化の影すら踏ませぬまま、世界第一の技術・文化大国として君臨し続けたのだ。



 私は祖父の車椅子を押し、博物館の最深部へと向かった。そこには、本日のメインイベントである「世界遺産登録記念・特別展示」が待っている。



 かつてオランダ使節団が腰を抜かしたという、あの「ヒスイのトンネル」だ。今では最新の照明技術によって管理されているが、壁に埋め込まれた数万個のヒスイは、当時と変わらぬ深緑の輝きを放っている。その滑らかな円筒形の壁面は、現在の土木技術をもってしても「神業」と称されるシールド工法の原点だ。



 そして、トンネルを抜けた先のドーム。そこには、あの恐竜の全身骨格が、今も変わらぬ覇者の風格で天を仰いでいた。



「ユネスコの調査団も言っていたよ。これほど完璧な状態で、江戸時代から保存されている博物館は世界に類を見ないとね」



 祖父が誇らしげに語る。



 今日、この「琵琶湖運河および大日本博物館群」は、人類共通の至宝として世界文化遺産への登録が正式に決定した。それは、一人の転生者が狂わせた歴史の歯車が、正しく「世界の宝」として認められた瞬間でもあった。



 ふと、ホールの隅にある義春の銅像が目に入った。



 羽織袴姿でありながら、その手には最新の設計図を握り、視線は遥か海の向こうを射抜いている。もし、彼がいなかったら。この国は、もっと小さく、もっと自信のない国になっていたのかもしれない。



 だが、彼は「知恵」という名の種を撒き、「経済」という名の水をやり、私たちが今享受しているこの豊かな森を育て上げた。



 私はポケットから、家系に伝わる小さな古い印章を取り出した。それは、義春がかつて「日本博」の招待状に押したとされるものだ。



「ご先祖様。あなたの見た夢は、今もこうして光り輝いていますよ」



 窓の外、春の陽光を反射してキラキラと輝く琵琶湖の波紋。



 運河を渡る風が、かつて義春が佐吉と語り合った時と同じように、私の頬を優しく撫でて通り過ぎていった。物語はここで一つの完成を迎えるが、彼が築いた「水の道」は、これからもずっと、この国の未来を運び続けていくのだろう。



 私は静かに目を閉じ、遥か文政の空へと思いを馳せた。そこにはきっと、不敵に笑いながら、次なる一手へと筆を走らせる、一人の若き奉行の姿があるはずだから。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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