第49話 最初の観客と野望の輪郭
「大日本博物館」の工事も中盤に差し掛かった時のことだ。基礎が固まり、巨大な梁が組まれ、建物の輪郭が琵琶湖のほとりに浮かび上がりつつある現場を眺めていた時、ふと、佐吉が横で疑問を口にした。
「義春殿、この『日本博』……一体、どこの国を最初に招待するおつもりなのですか?」
その問いに、俺は迷うことなく即答した。視線の先には、博物館の入り口となる、ヒスイを散りばめたシールドトンネルの掘削現場がある。
「オランダだ。あそこは鎖国中の長きにわたり、出島を通じて唯一、日本と貿易を続けてきた。だからこそ、奴らが一番の『実験台』にふさわしい」
「実験台……ですか?」
怪訝そうな顔をする佐吉に、俺は不敵な笑みを向けて続けた。
「そうだ。連中は今までの、古き良き『極東の島国』としての日本を知りすぎている。その彼らが、この博物館で蒸気機関を学び、恐竜の骨を見、耐震技術の粋を目の当たりにしたらどうなる? これまで上から目線で品定めしていた自分たちの認識が、いかに時代遅れであったかを思い知らされることになる」
事実、今、国内では異国人を排除せんとする攘夷の気運がじわじわと高まっている。その不穏な空気を察知してか、オランダ側も新たに人を派遣したり、投資を拡大したりすることに躊躇を見せ始めていた。
「奴らの躊躇を逆手に取るのさ。危険な国だと思わせておくのは損だ。むしろ『日本は未知の技術と富に溢れた、逆らってはならない強国だ』という認識を、最初にオランダの脳裏に焼き付ける。奴らの口を通じて、その衝撃はやがて欧州全土へと伝播するはずだ」
俺の説明を聞き終えると、佐吉は憑き物が落ちたような顔で「なるほど……」と深く頷き、安堵の息を漏らした。
「左様でございますな。我らが造り上げた変貌ぶりに、かの国の者たちが腰を抜かす姿が目に浮かびます」
「まあ、それを成し遂げるには、この博物館が無事に建たねば話にならない。さあ、佐吉。もはや止まることは許されない。この大きな夢に向かって、一気に突き進もうじゃないか」
現場に響き渡る木槌の音と、職人たちの威勢のいい掛け声。
日本は今、確実に、そして猛烈な速度で前進していた。世界を驚愕させ、既存の秩序を根底から塗り替えるという、俺の――いや、俺たちの野望に向かって。




