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【江戸時代】琵琶湖運河、開通ス  作者: 雨宮 徹


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第48話 未来の設計図と、眼前の大運河

「大日本博物館」の工事が始まって数日が経った。現場には木材や石材が積み上がり、土を穿つ音が絶え間なく響いているが、まだ建物の形を成してはいない。しかし、俺の脳内には、既に完成したその荘厳な姿が立体的に見えていた。



 作業員たちの休憩所には、渡辺崋山に依頼して描いてもらった精緻な完成予想図が掲げられている。



「よし。あの絵の通りに進めてくれ」



 現場の班長が図面を指差し、指示を飛ばす。全員の頭に、共通の「未来図」がある。これが、大規模な共同作業を成功させるための鉄則だ。前提となる青写真が違っていては、必ず後から致命的な手戻りが発生する。現代のプロジェクトマネジメントの基本を、俺はこの江戸の現場に徹底させていた。



「義春殿、少し肩の力を抜いてはどうです? 彦根で博物館の骨組みを組んでいる間に、一度、琵琶湖運河の現状を視察されるのはいかがでしょうか」



 背後から声をかけてきたのは、佐吉だった。



「確かに、計画を立て、指示を出して以降、忙殺されていて現地をゆっくり見られていなかったな。その提案はありがたい」

「では、早速、案内の者と馬を手配いたしましょう!」



 佐吉はそう言うと、鼻歌を歌わんばかりの足取りで去っていった。自分の提案が通ったのが、よほど嬉しいのだろう。彼の提案はいつも時期が良く、的外れだったことは一度もない。この時代において、最も信頼できる右腕の一人だ。





 数刻後、俺たちは馬を走らせ、琵琶湖の南岸へと向かった。



「しかし、運河を造る提案をした張本人が、開通後に初めて視察に赴くとはな」

「まあ、義春殿はお忙しいですから、無理もありません。彦根藩のみならず、今や日の本全体の経済を支えるお方なのですから」

「あまり持ち上げても、何も出ないぞ、佐吉」

「ふふ、分かっております。単なる事実を述べたまでです」



 俺と佐吉は顔を見合わせて笑い合った。湖面を渡ってきた涼やかな風が、俺たちの頬を撫でていく。



「問題は、展示室に散りばめるヒスイの量が足りるかだが、目処は立っているか?」

「ええ、伝蔵殿からの報告では、信濃から運び込まれる分だけで十分に賄えるとのこと。問題ありません」

「それを聞いて安心した。大胆な提案をしておきながら、細かい供給量まで詰めるのを失念していた」

「義春殿にも、そういう隙があるのですね。さあ、見えてきましたぞ。琵琶湖運河の入り口です!」



 視界が開けた瞬間、俺は息を呑んだ。



 目の前に広がっていたのは、俺の想像を遥かに超える、圧倒的なスケールを誇る人工の河川だった。



 堂々たる川幅。そこには、俺と長英が考案した「可倒式マスト」を備えた船が、帆を畳んで次々と吸い込まれていく。巨大な石造りの閘門が規則正しく開閉し、水位を調整しながら船を送り出している。



 これは、単なる水路ではない。俺が描いた「青写真」が、数万人の民の汗と知恵によって、現実の物理法則を捻じ伏せて具現化した姿なのだ。



「なあ、佐吉。今回の大日本博物館の工事はもちろん、この運河を起点にした『日本博』を成功させて、ヨーロッパ諸国を徹底的に驚かせてやろう」

「ええ、もちろんです。彼らがこの光景を見れば、腰を抜かすだけでは済みますまい」



 古都の山々にこだまする船頭たちの活気ある声。ヨーロッパがこの東洋の奇跡に驚愕する日は、もう、指の隙間から零れ落ちそうなほど近くまで迫っていた。

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