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【江戸時代】琵琶湖運河、開通ス  作者: 雨宮 徹


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第35話 国難を力に変えて

 文政12年(西暦1829年)。



 日本経済大国への「ゲーム」は、いきなり暗礁に乗り上げた。江戸で大火が起きた。経済大国への道どころか、国難のために財政が苦しい。



「とんでもない時期にで勘定奉行の頭になっちまったな……」

「義春殿、災難ですな」



 佐吉は、俺の右腕として活躍してくれているが、彼一人では限界がある。すでに、目の下には幾重にもくまができている。これ以上働けば、間違いなく過労死する。シーボルト事件で幕臣たちが刷新されたとはいえ、新任ばかりで慌てるのみ。上はあてにならない。貧乏くじを引いたと言わざるを得ない。



「まずは、支援物資の輸送だな」



 今はまだ、伊勢湾ルートは開通していない。工事真っ只中だ。つまり、資材を運ぶのは難しい。それ以外で役立ちそうなのは、情報と金くらいだ。いや、そのほかにもあるじゃないか。とっておきが。彦根付近には飛脚を集中させて「運河通信所」を作っている。日本のど真ん中という地形を活かすしかない。



「ただちに、彦根を起点に竜骨――つまり、恐竜の骨を集めよ! 小さくて構わない!」

「はっ」





「しかし、竜骨を集めても復興に役立つようには思えませんが……。木材などのほうがいいのでは?」



 珍しく、佐吉が異を唱える。



「すぐの復興が目的じゃない。まずは、民の心を落ち着かせるのが第一。竜骨は薬として効果がある。万能薬ではないが、民は安心するはず」



 そう、俺はここ数年で人心掌握というスキルを手に入れた。チートではなく、努力で。



「次の一手として――」





 震災から数日。竜骨の力――というより、権威によって、国民の暴動は起きなかった。恐竜の骨は学術的にも、薬学的にも役に立つ。ただ、未来の学者が聞いたら、間違いなく拳が飛んでくる。「貴重な骨をすりつぶすな」と。





「次の一手として――江戸の復興は、単なる再建ではない」



 俺は、佐吉と向き合った。その机上には、焼失した江戸の地図が広げられている。



「佐吉様。この大火は、江戸の構造的な欠陥を露呈させた。密集した町人地、狭い道路、そして防火用の空間の不足だ。同じ過ちを繰り返すわけにはいかない」

「しかし、再建だけで幕府の財政は火の車です。区画整理など、大規模な改革は、民の抵抗も招くし、予算も出せない」



 佐吉は眉間に皺を寄せた。



「費用は、運河の利益で賄う。そして、民の抵抗は、永遠に火災の恐怖から解放される、という希望で抑え込む」



 俺は、地図上の広小路や大通りに、朱色の線を引いた。



「まず、火除地の確保だ。大規模な空き地と、広幅の幹線道路を碁盤の目状に作る。そして、各区画に防火壁の設置を義務付ける。これは、都市の再設計であり、防災都市への転換だ」



 佐吉は納得した様子だ。



「そして、もう一つ。佐吉様。この大火で、家財を失い、途方に暮れている者が多すぎる。幕府の支援だけでは限界がある」

「それが、最も悩ましい。幕府に米蔵はあれど、彼らが生活を再建する資金は出せない」

「では、保険の仕組みを導入する」

「保険? 何を言っている、義春殿」



 佐吉は、聞きなれないワードに首を傾ける。



「正確には、火災相互扶助制度だ。再建支援を希望する商人が、少額の掛け金を共通の基金に積み立てる。そして、もし火災に遭った者がいれば、その基金から再建費用を融資する仕組みだ。当然、運河事業の利益から、初期資金を拠出する」



 佐吉の目が、驚愕に見開かれた。



「少額の負担で、万が一の時に全財産を失う恐怖から解放される……。それは、民の心意気を守り、商売の意欲を途切れさせない画期的な策だ! しかし、そんな複雑な制度、すぐに実行できるのか?」

「心配ご無用。彦根から来た信頼できる帳簿奉行と、最新の運河通信をを使って、江戸と主要都市の資金管理と情報伝達を統括する。さあ、佐吉様。日本経済大国への道を、この大火という絶望的な危機から、一気に巻き返しましょう」 



 大火は、俺にとって「日本の経済システムそのものを変革する」ための、最高の舞台となったのだ。

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