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ヴァルナディア皇国神話編纂記  作者: 砂川百足
第一章 編纂篇
15/24

峭寒の競売会

「へっくしゅ!」

 僕のくしゃみが、高級馬車の静寂を破った。


 窓の外を見ると、ダフタルスクの温暖な気候が嘘のように、木々の葉が赤や黄色に色づき、冷たい風が吹き荒れている。季節は秋へと移ろおうとしていた。


 「ミズキさんたら、だらしないわね。皇帝陛下の名代が風邪引きなんて、笑えないわよ。」

 向かいの席で、オルノブが毛皮のストールを巻き直しながら呆れたように言った。彼女は揺れる馬車の中でも優雅に帳簿をチェックしている。


 「すみません……急に冷え込んできたもので。それにしても、リアンのやつ、薄情だなあ。こんな面白い旅、絶対についてくると思ったのに。」


 僕は鼻をすすりながら、不在の相棒について愚痴をこぼした。今回の旅に、リアンは同行していない。出発の間際になって、「造船所の師匠に捕まってしまいまして……どうしても外せない急ぎの図面があるんです」と、泣きつかれたのだ。


 「あんなに北部の脅威を煽っておいて、自分は暖かい港で図面引きか。あいつらしいと言えばあいつらしいけど」


 「あら。本当に、造船の仕事かしら?」


 オルノブが帳簿から目を離さず、意味ありげに呟いた。


 「え? どういう意味ですか?」


 「いいえ。ただ、あの青年には……時折、油の匂いとは違う、もっと冷たい鉄の匂いがする気がいたしますので。」


彼女はそれ以上語らず、ページをめくった。商人の勘というやつだろうか。彼女はリアンのただの技術者見習いという表の顔を、完全には信じていないようだ。


 「ここはもう、北部の入り口、ノルヴェンガ地方です。霧の渓谷は目の前です。今日中には到着できるでしょう。」

 ヴィオラが窓の外を見つめながら、静かに言った。彼女の表情は、どこか沈んでいる。


 「ノルヴェンガ……なんだか寒々しい山に囲まれていますね。」


 「皇都からは山脈を隔てた僻地です。以前、一度だけ鎮魂の儀のために訪れたことがあります。ここは……皇国で最も過酷な、土地ですから。」


 馬車が進むにつれ、景色は荒涼としたものに変わっていった。森は切り拓かれ、地面には汚れた水が流れる水路が幾筋も走っている。ここは、サリヴァ帝国から流れ込む汚染水や、北部鉱山から出る毒を含んだ排水を、魔法の力で浄化する皇国の下水処理場とも言える場所だった。


 日が傾きかけた頃、僕たちは給水のために小さな集落に立ち寄った。そこは、粗末な板張り小屋が並ぶ貧民街だった。空気には鼻をつく薬品と腐敗臭が混じったような独特の匂いが漂っている。


 「馬の脚を休ませる間、少し休憩しましょう。」

 カシムが御者台から降り、僕たちを案内してくれたのは、集落の端にある一軒の古びた家だった。ここは皇国に協力的な人物の家らしい。


 「すみません、水を一杯いただけませんか。」


 カシムが声をかけると、奥から初老の女性と、十代半ばくらいの少女が出てきた。二人の手は、薬品のせいか荒れて赤黒く変色している。


「まあ、こんな所にお客様なんて……汚い水しかありませんが。」


 女性は申し訳なさそうに、欠けたカップに水を注いでくれた。その動作は重く、長年の過酷な労働が体を蝕んでいるのが見て取れた。だが、水を差し出すその所作には、貧民街の住人とは思えない、無駄のない洗練された動きが微かに残っていた。


 「ありがとうございます。……お母さん、その手は。」


 ヴィオラが痛ましげに尋ねると、少女が代わりに答えた。


 「母さんは、腕利きの濾化師なんです。毎日、悪い水を綺麗な水に戻しているから……これは、その名誉の証です」


 少女の声は凛としていた。粗末な服を着ているが、その瞳には強い知性の光が宿っている。彼女は片手に分厚い本を抱えていた。


 「へえ、難しい本を読んでるね。皇国法理学概論……?」


 僕が書名を読み上げると、少女は恥ずかしそうに、でも誇らしげに本を胸に抱きしめた。


 「兄さんが……皇都にいる兄さんが、送ってくれたんです。お前は頭がいいから、勉強していつかこっちに来いって」


 「お兄さんが? 皇都で働いているのかい?」


 「はい。……でも。」


 少女――サリナは、ふと表情を曇らせた。


 「兄さんは、何の仕事をしているか教えてくれないんです。たまに手紙とお金が届くだけ。……きっと、何か良くない仕事をしているんだと思います。」


 「サリナ!」


母親のカミラが、鋭い声で制した。その瞳の奥に、一瞬だけ鋭利な刃物のような光が宿ったのを僕は見逃さなかった。ただの疲れた労働者の目ではない。


 「……すみません、お客様。この子は空想癖がありまして。」


カミラはすぐに愛想笑いを浮かべたが、サリナは唇を噛んで俯いた。


 「空想なんかじゃないわ。だって母さん、私たちがこんな毒の吹き溜まりみたいな土地に引っ越してきたのだって……誰かから逃げるためだったじゃない!」


 「サリナ。それ以上喋ると、本を取り上げますよ。」


カミラの声のトーンが一段低くなる。それは、母親の叱責というより、もっと冷徹な警告の響きだった。サリナはびくりと肩を震わせ、黙り込んだ。


 (……訳あり、か)


 僕は気まずい空気を誤魔化すように、サリナに話しかけた。


 「お兄さんは、君のためを思って働いているんだよ。どんな仕事であれ、妹にこんな立派な本を送るなんて、いいお兄さんじゃないか」


 「……はい。兄さんは、優しいです。誰よりも。」

 サリナは本をギュッと抱きしめた。

 「だから私、皇都の大学に行きたいんです。法律や仕組みを学んで、兄さんを……そして母さんを、こんな場所から連れ出したいんです。」


 その言葉に、僕は胸を打たれた。 名前も知らない彼女の兄が、どんな汚れ仕事をしているのかは知らない。だが、この聡明な妹を守るために必死なのだろうということは痛いほど伝わってきた。


 「君ならきっと行けるよ。僕たちも応援する。」


 休憩を終え、家を出る際、カミラがふと僕に近づき、小声で囁いた。

 「……お客様。皇都からいらしたのなら、ご存知かもしれませんね。聖機院の方々は、今もお元気でしょうか?」


 「ええ、まあ……ラグナス様なら、お忙しくされていますが。確か調査のために国境付近にいらっしゃるとか。」

 僕が何気なく答えると、カミラは安堵したような、それでいて諦めのような、複雑な笑みを浮かべた。


 「そうですか。……あの方がご健勝なら、それで結構です。」


 彼女は深く一礼し、扉を閉ざした。  拒絶されたようなその扉の重さに、僕は首を傾げた。あんな最果ての地の濾化師が、なぜ皇族の、それも技術トップのラグナスのことを気にするのだろうか?


 馬車に戻ると、オルノブが扇子で口元を隠しながら言った。

 「あのお母さん……ただの濾化師じゃないわね。身のこなしが、まるで裏の人間よ。」


 「裏?」


 「ええ。ヤートリ商会が雇っていた用心棒たちと同じ匂いがしたわ。……過去を消して、あんな毒の土地に潜んでいる。深入りしない方が身のためよ。」


 僕は遠ざかる小さな家を振り返った。毒に蝕まれた母と、聡明な妹、そして顔も見せない兄。彼らの事情は闇の中だが、サリナの希望だけは本物だった。


 休憩を終えると、馬車は「死の川」と呼ばれる水路に沿って進んでいた。かつては清流だったというその川は、今や赤錆色に濁り、所々で不気味な泡を吹いている。北部の鉱山地帯から排出される、重金属と強酸を含んだ排水だ。


 「……酷い匂いだ。」

 僕はハンカチで鼻を覆った。硫黄と、鉄が腐ったような臭気。


 「ここはノルヴェンガの中でも沈殿地区と呼ばれる最下流です。」


 ヴィオラが沈痛な面持ちで教えてくれた。


「皇国の法律では、濾化師フィルターは公務員として任命され、癒着や不正を防ぐために二、三年で任地を変える決まりになっています。ですが……」


 「この地域に赴任したがる人間なんて、一人もいないわよ。」

 オルノブが冷たく言い放った。

 「鉱山の毒は強力すぎる。正規の濾化師が使う浄化杖を使っても、身体にかかる負荷は相当なものよ。だから、この地域の領主に賄賂を使って安全な都市部へ異動し、ここには誰も来なくなる。」


 「じゃあ、誰がこの毒を処理しているんです?」


 「モグリよ。」


 オルノブは、窓の外で川に浸かりながら作業する人影を顎でしゃくった。


 「正規の資格を持たない、魔素適合者たち。食い詰めた農民や、スラムの住人が、日銭のために身を削って毒を消しているの。経歴に傷がある人も多いわ。……彼らには、防護服も、高性能な浄化杖も支給されない」


 休憩のために立ち寄ったサリナの家で、僕はその「モグリ」の現実を目の当たりにした。


 サリナの母親、カミラの手は、単に荒れているだけではなかった。指先から肘にかけて、皮膚が黒ずみ、所々が金属のような光沢を帯びて硬質化していた。あれが彼らの現実なのだ。


 「そんな……! これは皇国の怠慢です!」

 ヴィオラが悲痛な声を上げた。

 「本来、民を守るべき公務員が逃げ出し、民に犠牲を強いるなんて……!」


 「そうね。でもヴィオラさん、貴女はこの地で暮らせて?」

 オルノブが厳しい現実を突きつける。

 「私はノルヴェンガを逃れる者の気持ちもわかります。それから賄賂を受け取る領主の気持ちも。この地は産業もなければ食糧生産も厳しいのです。民を食わせていくのにも、自分の領地をこれ以上汚染させないためにもこの形態は続くでしょうね。」


 僕もヴィオラも何も言いかえすことができなかった。単純に悪を打ち倒すことで解決する問題の方が少ない。複雑に絡み合った複合的な問題をどうにかする方法も、どうにかできるだけの資本も無い。それがこの国の現実だ。マリサ女王の腐った国というのはこれの事なのかもしれない。


 日が沈む前に僕らは霧の渓谷と言われる場所についた。ただ、想像していた場所とは少々違う。ごく小規模な歓楽街という雰囲気だ。200メートルほどの道にカジノと娼館が立ち並ぶ。昼間の暗さを吹き飛ばす不夜城の明かりは、思った以上に毒々しい。ヴィオラが僕の腕にギュッとしがみつく。


 「こういう場所は、十分に用心をしてくださいね。」


 オークションが行われるという豪華なホテルの前で馬車から降りる。オルノブが黒い招待状をボーイに渡すと、恭しい態度で奥へと通された。

 通されたのは、VIPルーム――というよりは、スイートルームの中に隠された「特別な区画」だった。


 「さすがオルノブさん。こんな豪華な部屋、僕には縁遠い生活ですよ。」

 僕がふかふかの絨毯に感動していると、オルノブが冷ややかに指差した。


 「勘違いしないで。私とヴィオラ様はこちらの寝室よ。ミズキさんとカシムさんは……コッチ」


 彼女が指差したのは、使用人用の六畳ほどの狭い小部屋だった。シングルベッドが二つ、窮屈そうに並んでいる。


 「えっ」


 「私の秘書なんでしょう? 護衛のカシムさんと仲良く見張りを頼むわね」

 オルノブは悪戯っぽくウィンクすると、申し訳なさそうな顔をしたヴィオラを連れて豪華な寝室へと消えていった。


 「……まあ、野宿よりはマシか」

 「ですな」


 僕とカシムは顔を見合わせ、苦笑いした。


***


 夜も更けた頃、僕はドアをノックする音で目が覚めた。扉を薄く開くと外套で身を包んだオルノブが立っていた。


 「こんな夜更けにどうされました?」


 オルノブはシィと指を唇に当てて、「付いてきていただきたいの」と僕を連れて不夜城に連れ出す。カジノが併設された小さな酒場だった。


 「あなたのお友達から連絡が来たわ。あの子、本当に隙がないわね。」


 「お友達って……」


 オルノブが顎を上げるとそこには見た顔が立っていた。リアンだ!僕がどうしてというまもなく、彼は笑顔で僕らの腰掛けたテーブルに座る。


 「オルノブさんにはバレてるだろうなって思ってました。」


 オルノブは鋭い目つきでリアンを睨んだまま、一枚の紙を差し出す。オークション目録の詳細らしい。


 「私に何を買わせるつもりかしら?」


 僕がわけがわからずにポカンとしていると、リアンが僕の方に笑顔を向けてから、オルノブを睨みつける。


 「何でミズキさんを連れてきたんですか?お一人でいらっしゃると思いました。」


 「淑女が一人でこんな場所に来ると、思っていて?それに、私はマルティアの商人、彼は神話編纂官です。皇帝の名代ですわ。皇国の行く末を決めるのは私の仕事ではなくてよ。」


 リアンが目録の項目を指差す。そこには実験体の文字があった。


 「これは皇国各地から攫われた子どもたちです。皇帝陛下の命令で長い間、影たちが調査しておりました。僕らはこの子達の回収が主な任務です。それ以外の全てを購入していただきたい。」


 オルノブの眉毛が吊り上がる。

 「大きく出たわね。それ以外の全部を買えって言われても、私の資本も限りがありましてよ。」


 リアンは口元を釣り上げて、オルノブの顔を睨み返す。


 「ノルヴェンガに隠したあなたの荷運び隊の数なら、この目録の商品を全て運んでも余裕があるでしょ?元々全部購入する気で来ていたはず。貴方なら何も買えなかったサリヴァに売りつける品物も用意していたんじゃありませんか?」


 「え?どういうことですか、オルノブさん。」


 僕はオルノブとリアンの顔を交互に見返した。リアンがオルノブを睨みつけながら話し出す。


 「今、サリヴァ帝国は膨らみすぎた軍事費用で逼迫して、食料自給もままならない。だから、兵器以上に喉から手が出るほど食べ物が欲しいはずだ。彼らはデセリオンの科学者に攫った子どもたち売りつけた金で、ここで売られる兵器とオルノブさんの持ってくる小麦が欲しくてたまらないのさ。」


 オルノブもリアンから目を離さずに話し出す。これは喧嘩だ。


 「ふふ、影どもは私の商会の荷物もよく調べているんですね。私もサリヴァとの取引を開始するにあたって、そんなお金がどこから出ているのか気になりましたので調べておりましたの。」


 オルノブも分厚い手帳から一枚の紙を取り出す。オルノブがヴァルナディア領主に貸した金の返済を示した記録だ。ヴァルナディア領主なのにも関わらず、サリヴァ流通通貨で返金されている。


 「ヴァルナディアの西の要塞都市クエタ領主、ガランド伯爵。隣接もしていない領主とサリヴァとの取引が多いことが不審に思っておりましたけれど。まさか人身売買だったなんて思いもしませんでしたわ。」


「……人身売買、ですか。」


 僕は息を呑んだ。サリヴァの兵器購入資金の出処が、まさかヴァルナディアの子どもたちだったなんて。  リアンは腕を組み、不敵な笑みを浮かべてオルノブを見据える。


 「ヤートリ商会がその汚れた金を受け取っていたことには変わりない。だけど、貴方は賢いお人です。人攫いの片棒を担ぐリスクと、ガランドを出し抜いてサリヴァと直接貿易する利益、どっちが大きいか計算できるはず。」


 リアンはテーブルの上のオークション目録を指先で叩いた。


 「取引ですよ、オルノブさん。明日のオークション、僕らは子どもたちを回収する。それ以外の商品をすべて貴方に買い占めていただきたいんです。」


 「……」


 「サリヴァ帝国が本当に欲しいのは金じゃない。あんたが持っている食料と物流ルートだ。ガランド伯爵なんていう仲介役を通さず、あんたが小麦という現物を対価にすれば、兵器だろうが美術品だろうが、奴らは喜んであんたに売る。」


 オルノブは扇子で口元を隠し、目を細めた。彼女の瞳の中で、商人の計算機が高速で弾かれているのが分かる。


 「なるほど……。ガランド伯爵はサリヴァへの支払いに困っている。そこで私が彼に代わってサリヴァが欲しがる物資を提供すると持ちかければ、サリヴァは私を新たな主要取引先として歓迎するでしょうね。」


 彼女はパチンと扇子を閉じた。その顔には、獲物を見つけた捕食者の笑みが浮かんでいた。


 「いい商談ですわ、影の坊や。ガランドという中抜き業者を排除し、サリヴァの兵器市場を私が独占できる。おまけに人身売買という汚い案件に関わらずに済む。」


 「話が早くて助かるよ。」


 「成立ね。明日のオークション、私が派手に買い物を楽しみましょう。兵器も、横流しの物資も、根こそぎ私の商会のものにして差し上げます。……ただし!」


 オルノブは身を乗り出し、僕とリアンを交互に見つめた。


 「私が安く買い叩けるよう……うまく立ち回ってくださいますわね?出品リストにある商品が消えれば、会場は何が起こるかわかりません。」


 「もちろん。会場中が大騒ぎになるようなショーを見せるつもりですよ。」


 リアンがニヤリと笑うと、オルノブも満足げに頷いた。


 「交渉成立ですわ。では、ミズキさん。皇帝の名代として、この新しい商流の承認、お願いできますわね? ガランド伯爵の領地で押収される資産の優先買取権も合わせて。」


 ちゃっかりとした要求に僕は苦笑するしかなかったが、強力な味方を得たことは間違いない。


 「……分かりました。約束します。」


 「ふふ、良いお返事ですこと。では、詳しい作戦を詰めましょうか。」


***


 二時間ほどの作戦会議ブリーフィングは、僕が今まで知らなかった情報の洪水だった。ヴァルナディア内の敵は思った以上に多い。軍事拡大に協力的なシィヴァ教司祭だけでなく、国内の領主もまた各国からの工作に加担している状況のようだ。それを手引きするのに商談や競売などの場所が選ばれている。霧の渓谷のこの場所もまた、それで発展した地域の一つ。領地の汚染と貧困を嘲るように輝くこの場所が、象徴しているようだった。


 「最後にリアン君、君に言いたいことがあるのだけれど。」


 オルノブがリアンに鋭い眼差しを向ける。テーブルには、一輪のバラの花と、熱い愛のメッセージカードが突き返されていた。さきほどリアンがどさくさに紛れて渡したものだ。そのギョッとするような内容に、僕はびっくりしてしまった。


 「他の人にどう接するかはご自由ですけれど、私にあなたのお得意な懐柔工作(ハニートラップ)はかけなくてもよろしくてよ。商人として契約は守りますし、私、安っぽい男には興味ありませんの。」


 「オルノブさんって、ほんとお堅い人なんだから」


 リアンはメッセージカードをマッチで燃やし、痕跡を消す。炎を見つめるその横顔は、悪戯っ子のようであり、冷徹な工作員のようでもある。こいつ、本当に何者なんだろう。僕の相棒は得体の知れない闇の住人の少年らしい。正直、ついていけないよ。

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