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ヴァルナディア皇国神話編纂記  作者: 砂川百足
第一章 編纂篇
14/24

振興の港より狼煙をあげよ

 「皇国神話編纂官のミズキ様!皇都でお留守番をしている私にも、きちんとわかるように説明してくださいませんか?」


 ダフタルスク港の商工舎の僕の部屋からでも、魔素通信の先、月の宮殿でゼルフィアが白く美しいコメカミに青筋を立てているのが想像できた。そんないやらしい言い方しなくたっていいじゃないか。


 「待って、ダフタルスクといえば領主のデヴィー様が治めていた土地でしょ?どうしてそこが実質的に皇帝領になったっていうのよ。」


 「それがさぁ、とんでもないものを発掘しちゃったんだよ。」



 マルティアとの外交を無事に終え、ダフタルスクに戻った僕たちは港の整地とパイプラインの調査に取り掛かった。

 とにかくパイプに沿って掘り進めた結果、地下から現れたのは直径10メートルの白いドーム。どんな工具も跳ね返す様は、まるで侵入者を拒む卵か繭のようにも見えた。とにかくとんでもない代物だ。僕はこの目で見たことをゼルフィアに伝えた。


 「……だが、カルヴァド陛下は違った。工事現場を視察した陛下が、それを前に左手をかざした瞬間――」


 白い殻は崩落して中から現れたのは巨大な地下通路だった。正直、なんでカルヴァド陛下に反応したのかわからない。陛下自体も理解できないし、困惑している様子だった。だけど、その場にいた全員が奇跡の力だと驚愕するしか無かったんだ。


 繭から出てきたものは、古代の設備のようで、なんといまだに使うことができるらしい。今は調査中だけど、超古代文明が築きあげたインフラ設備なんじゃないかって話だ。魔法の文明はずいぶんと僕たちに都合のいいものを残してくれたもんだ。



 「待って、ミズキ。今の話だけで頭が爆発しそうだわ。地下を掘ったら、古代の遺跡が見つかって、しかもそれが自然の魔法(科学)で使えるってことでいいかしら?」


 頭を追いつかせるのが難しいのもよくわかる。僕も正直何がなんだかわからない。とにかくダフタルスクの地下には、古代魔法文明と呼ばれる遺跡が眠っており、その遺物は今でも使える優れものを残してくれた。


 「(ボーア)のメンバーが会議を開いてね。ダフタルスクはこの施設をきっかけに更なる調査、そしてこの遺跡の宝物を保護するためにも、領主一族が邪魔だと結論が出た。」


 「それって......まさか、暗殺とか?」


 「シャオとスディルマンは暗殺に賛成だったけど、イリアスが法律家としてそれを止めた。今後スキャンダルとして掘り起こされたらたまったもんじゃないってことになってね。」


 ゼルフィアは、安心してため息をついたようだ。

 「陛下も随分と多種多様な部下をお持ちなのね。」


 そう、暁の法務担当のイリアスがデヴィーの命を繋ぎ止め、政治的にも権利的にも息の根を止めた。

 簡単な仕組みだ。ヴァルナディアには古代遺産回収法というものがある。これは神の御業によって作られたものは神に支えし皇帝に返せという古い言い伝えからなるものらしい。(近代法が制定されていないヴァルナディアにはこういう変な法律がたくさんあった。)


 「デヴィーが法律を守るなんて思えないのだけど。」

 ヴィオラの言う通り、作戦はこれだけではない。


 その、古代遺産回収法を使って、デヴィーからこの土地の所有権を剥奪したのち、スディルマンがいつもの債権回収ついでに、デヴィーに施設維持の負担額をふっかけて、追い討ちをかけるようにデヴィーを脅した。そこにたまたまデヴィーを訪ねたカルヴァド陛下が、領地と統治権の完全返還と皇都への移住を条件に年金契約を提示する。その額年間100万ルフだ。


 「随分はずむじゃない。100万ルフなんて金額。デヴィーにずっと払い続ける価値があるのかしら?それに、皇都への移住って、陛下の監視下に置かれるってことでしょ?」


 ここに暁の底意地の悪さが垣間見えた。


 「いいや、そうとも言い切れない。マルティアとの同盟で経済が回れば、物価は跳ね上がる。今の100万ルフは、十年後には端金になっている計算だ。」


 これは非常にデヴィーには申し訳ないのだが、ヴァルナディアのインフレは予想されている。僕たちにできることはその波をできるだけ緩やかにしてやることだけだ。


 そして、皇都の移住。これはデヴィーも嫌がるだろうと住居の確保はしていたものの、実にあっさり承諾することになった。デヴィーには息子が一人、娘が二人いた。息子はとんだドラ息子で、皇都に集う美女軍団、月の宮殿の詩女たちの噂にまんまと引っかかってくれた。娘たちは皇帝陛下にゾッコンで、陛下のお住まいになられる皇都に是非住んでみたいと言うことだ。


 「ちょっと、気持ち悪い噂流さないでよ!月の宮殿は男子禁制よ!!それに陛下ったら、女性を誑かすなんて、最低だわ。こんな不潔な取引聞いたことなくてよ?」


 陛下も同じようなことを言って怒っていたが、暁のメンバーは安上がりだとみんなが喜んでいた。そんなわけで僕はデヴィーの像を作り、盛大な引退記念式典をプロデュースしてやった。


 実質、このお祭りは皇国と住民との結びつきを深くさせるイベントとして作ったものだ。デヴィーを立ててやったが、カルヴァドに全ての権利を渡した瞬間をドラマチックに演出した。

 ダフタルスク商工舎の夕焼けの一番美しい時間に、逆光のデヴィーの銅像の除幕式を行った。夕焼けに美しく照らし出された陛下の顔は荘厳だったはずだ。反対に、逆光の銅像は何も見えなかっただろう。


 「それじゃ、陛下の後にヴィルも歌ったの?あの子の歌声は詩女の中でも特別ですからね。」


 夕焼けが沈んだら、カルヴァドが大きな松明に火を灯し、「デヴィー卿が灯した火を、私が大火にしよう」と宣言した。その松明を広場のランプに渡らせたのち、白い詩女巫女衣装で登場した詩女のヴィオラの輝きと歌声は、住民の心に強い連帯感を抱かせたはずだ。ヴィオラの歌う歌はヴィオラが新しく作ったものを披露した。彼女はひと呼吸すると、薄くゆっくり目を開けた。キラリと、松明やランプの反射とは違う何か得体のしれない真紅の光が走った気がした。


   古きいかりは 底に眠り 錆びつく鎖は 砂となる


   新しき風 帆に受けて 進めや 進め 光の方へ


 まさに特別、奇跡だった。異様とも言えるくらいの熱狂だった。ダフタルスクの会場はヴィオラに対する歓声に支配された。正直に言うが、こんなに全員が彼女にエールを送るなんて思ってもいなかった。彼女の歌には何か、仕掛けがあるとしか思えない。詩女とは、巫女の力とは、一体なんだと疑問が湧くほどだった。一方、ヴィオラは歌い終えると小さくお辞儀をして、一仕事終えたと満足そうだった。何か企み事や、隠し事、手品の種を探ったが、そんなものは見当たらない。


 「ミズキって本当に鈍感なのね、ヴィルは天性の力を持つ巫女よ。彼女の幻惑術は術をこえているわ。本人にその気がなくても、誰だって彼女に魅入られてしまうんだから。」


 ゼルフィアは自慢げに話す。ヴィオラの幻惑術以外にも詩女たちはこんな神業ができるのだろうか?


 式典の後、カルヴァドはデヴィーの娘たちによる厄介な接待を嫌い、皇都での執務のために早々にダフタルスクを発った。あの、カルヴァド陛下の本当に嫌そうな顔は忘れられない。鉄面皮も、嫌な顔をするのだ。ゼルフィアと僕は腹を抱えて笑った。いや、通信先の彼女はそんなことはしていないだろう。でも、やっぱり、腹を抱えて笑ったに違いない。


 「ああ、おかしいわ。陛下の嫌がるお顔を見てみたい。そんなことより、ミズキ、マルティアはどうだったの?」


 僕はヴィオラにマルティアでの特別スリリングな交渉の話をした。もちろん、僕がマリサ女王に誘惑されたことは伏せておいた。潔癖症のゼルフィアに聞かせたら、何を言われるかたまったもんじゃない。それから彼女が興味を持ったのは十年前の留学中にカルヴァド陛下が、マリサ女王と親密な仲であったことだ。本人から聞いた話はすこーし薄めておいた。陛下のことを不潔呼ばわりするようになっては困るし、きっと僕しか知り得ないことも多いだろう。月の宮殿で噂話が広まっては困る。


 「じゃあ、陛下はお兄様の訃報を聞いてマリサ女王からの求婚を断って、本国に帰らなければならなくなってしまったの?それは......さぞ、お辛かったでしょうね......。」


 思いの外、カルヴァド陛下には同情的だった。僕の思い違いかもしれないけれど、ゼルフィアは宿命によって別れを余儀なくされた恋人たちを自分の境遇と重ねているようにも感じられた。君は、一体どんな少女なのだろうか。

 僕は彼女のことを、何も知らない。


 「そういえば、君が僕に発注した侍女がお姫様を守る物語を書き上げたよ。カルヴァド陛下に預けたよ。そのうち君の元に届くはず。」


 そう伝えると、ヴィオラは上機嫌になってくれた。


 「ふふふ、ミズキってば怖れ知らずなんだから。皇帝陛下を運搬に使うなんてね。」


 全くその通りだ。僕らは腹を抱えて笑い合った。


***


 それから三ヶ月、僕はカルヴァドに提言したある任務に勤しんでいた。ダフタルスクの一角、かつて倉庫だった建物を改装した場所から、リズミカルな機械音が響く。


 「よし、刷り上がりだ! インクの乗りも完璧ですよ、ミズキさん!」


 インクで頬を汚したリアンが、刷り上がったばかりの紙の束を掲げて見せた。

 彼は造船技術を学ぶ傍ら、僕の相棒として隔週での新聞発行業務を手伝ってくれている。彼の手先の器用さと、新しいもの好きの性格は、印刷技術の習得とそれを広めるのにうってつけだった。彼は植字作業を商家の娘たちにレクチャーし、彼女たちも短い間にそれを習得することができた。


 僕たちが手にしているのは、ヴァルナディア初のタブロイド紙、ダフタル・ニューズだ。


 「カームさんのおかげだよ。彼が資金を出してくれなきゃ、この輪転機も紙も用意できなかった。」


 僕が視線を向けた先には、ふくよかで柔和な顔をした男、カームが満足そうに頷いていた。彼は「ボーア」のメンバーであり、新興事業への投資を専門とする起業家。そして僕らの会社、ライズ社のオーナーだった。


 「いやいや、私は情報に投資しただけですとも。正しい情報が早く伝われば、商売のリスクは減り、チャンスが増える。この新聞は、ダフタルスクの血管のようなものですから。」


 カームの支援で設立された出版社は、活気に満ちていた。

 毎週発行の新聞を作るというアイディアを継続させるのはなかなか至難の技だった。まずは記者がいなけりゃ始まらない。そんな時に法律家のイリアスが連れてきたのがバーツだった。


 彼はサイズの合わないボロボロの礼服を着た、ひょろりとした青年だった。イリアスは縮こまった青年を前に押し出した。


 「彼はバーツ。先日、私が破産管財人を務めた某伯爵家の三男だ。家督争いの煽りで一文無しになったが、その教養と事務能力を路傍で腐らせるには惜しい」


「は、初めまして……バーツと申します……」

 青年は蚊の鳴くような声で挨拶し、見事な礼儀作法で一礼した。その手には、タコができるほどペンを握りしめていた痕がある。


 イリアスは咳払いをして付け加えた。

 

「彼は、私が作成した膨大な遺産整理書類を、たった一晩で、しかも誤字一つなく清書してみせた男だ。君の始める新聞事業には、こういう実直な手が必要だろう?」


 僕は即座に採用した。


 リアンが元僧侶の、今はごろつきになりかけたガボを記者にと連れてきた時は驚いたし、ダフタルスクで歌を披露してからヴィオラをストーキングしていた、ダランという男が自ら仕事を求めて会社に突撃した時はもっと驚かされた。今では優秀な記者だ。ガボはシィヴァ教の腐敗や事件や事故のネタを得意として集めるし、ダランは芸能ゴシップを掴んでは、かなり盛って記事を書く。


 僕は編集顧問として都合のいい立場を大いに利用した。大枠のレイアウトや方針を決めて、バーツに指示し、カームの人脈でダフタル・ニューズのスポンサーを探してもらい、広告したい文句を振興の港中から集めた。


 記事が見つからない場合にも暁のメンバーにコラムを書いてもらうように頼み込んだ。商業や事業の専門家だったので都合も良かった。

 

 「暁のメンバーも、最初は渋ってましたけど、今じゃ原稿の締め切りを競ってますからね。」

 

 リアンが笑う。

 「知識をひけらかす場所ができて、みんな嬉しいんですよ。」


 このダフタル・ニューズは、単なる広報誌を超え、市民に新しい知識と価値観を植え付ける教科書に進化させるつもりだ。スラム出身のこどもたちは小遣い稼ぎのために精力的に新聞を巻いてくれる。発行部数は既に数千部に届く勢いだ。


 午後は次号の取材のため、リアンを連れて郊外の高台へ向かった。

 そこには、デヴィー領主の投資(という名の徴収金)で建設された集合住宅群、通称デヴィー・ハイツが完成していた。堅牢な石造りのアパートは、旧市街の住民たちの新しい安住の地となっていた。


 その一角にあるオルノブの実験学校を訪れると、ちょうど特別授業の最中だった。


 「……というわけで、この歌は、古くからこの港で歌われてきた、嵐除けの祈りなのです。」


 教壇に立っているのは、民族衣装風のドレスを着たヴィオラだ。彼女はオルノブからのオファーを受け、地域の伝統文化を教える特別講師を務めていた。

 子供たちや労働者たちは、ヴィオラの透き通るような歌声に聴き入っている。


 その横で、オルノブが黒板に歌詞を書き出しながら解説を加える。

 「この歌詞に出てくる風の道という表現は、実は季節風の吹く方角を正確に示しています。昔の人々は、歌を通して気象学を伝えていたのですね。」


 ヴィオラの文化と、オルノブの分析。

 二人の女性は、対立するのではなく、お互いを補完し合う見事なパートナーシップを発揮していた。


 はじめはマルティアの商人が開いた学校だということで、警戒する人も大勢いた。しかし、機転の利くオルノブはそんな事はお構いなしで、天気のいい日は校舎の外でどんな人でも参加できる公開授業を開いた。


 僕もサクラとして授業を受けていたが、だんだんと参加する人数が増えていき、今では老若男女問わず、多くの生徒が詰め寄せる人気の学校へとなり始めた。


 今はオルノブだけでは手が足りず、暁月のメンバーや、ヴィオラも授業を手伝っている。


 「いい絵だ……」

 僕はその光景をスケッチしながら、次のニュースの一面はこの学校にしようと決めた。


 授業のあと、僕たちはヴィオラとオルノブを誘って港を一望できるレンガ造りのレストランのテラス席にいた。

 ダフタルスクの急速な発展に合わせて開店したこの店は、マルティア風の味付けを取り入れた海鮮料理が評判だ。香草とバターでソテーされた白身魚を口に運びながら、僕は向かいに座るオルノブに切り出した。


 「オルノブさん、次号のダフタル・ニューズの一面で、あの学校のことを特集させてください。未来を作る教室……そんな見出しで、学ぶことの楽しさとメリットを強調したいんです。」


 オルノブは優雅にワイングラスを揺らしながら、満足げに頷いた。


 「ええ、構いませんわ。ちょうど私も、追加の教員募集の広告を出したいと思っていたところですの。」


 「教員募集? 暁のメンバーやヴィオラの手伝いだけじゃ足りないんですか?」


 「ええ。生徒が予想以上に増えましたから。それに……」

 

 オルノブは悪戯っぽく微笑んだ。


 「商売の基本は『市場の開拓』でしょう? 読み書きができる人間が増えれば、それだけ契約書を理解できる顧客が増える。計算ができれば、より複雑な金融商品も売れるようになる。教育とは、未来の優良顧客を育てるための、最も確実な先行投資なのです。」


 「……さすがです。慈善事業に見せかけた、完璧な事業戦略だ。」

 僕は舌を巻いた。彼女にとって学校は、人材育成工場であり、同時にヤートリ商会のブランド価値を高める巨大な広告塔なのだ。


 「それに、優秀な人材は早めに囲っておきたいですからね。ねえ、リアン君?」


 不意に、オルノブの鋭い視線が隣でモグモグとパンを頬張っていたリアンに向けられた。


 「は、はい? なんでしょう?」


 リアンがとぼけた顔で顔を上げる。


 「貴方、以前どこかでお会いしませんでしたか? ウルバーラの社交界か、あるいは商工会のパーティーで。」


 ドキリとした。


 リアンは「影の月」の諜報員だ。マルティアに潜伏中、貴族や商人の懐に入り込むために様々なパーティーに潜入していたはずだ。オルノブのような目敏い商人の記憶に引っかかっていてもおかしくない。


 だが、リアンは表情一つ変えずに、困ったように眉を下げてみせた。


 「まさか! 僕はしがない貧乏学生でしたよ。造船所と下宿を往復する毎日で、オルノブ様がいくようなパーティーなんて夢のまた夢です。あ、でも……」


 彼はポンと手を打った。

 「ヤートリ商会の倉庫で、荷運びのバイトをしたことはあります。その時に、視察に来られたオルノブ様をお見かけしたのかもしれません。あの時の貴女は、女神のように輝いていましたから!」


 「あら、お上手ね。」


 オルノブはフフッと笑ったが、その目はまだ完全に疑いを晴らしていないようだった。「荷運びにしては、指先が綺麗すぎるけれど?」と言いたげな視線だ。


 リアンはその視線をサラリと受け流すと、話題を変えるようにナプキンで口を拭った。


 「ところでオルノブ様。商機といえば……北の方で、面白い市場が開かれるという噂、耳にしていませんか?」


 「北……?」


 「ええ。サリヴァ帝国との国境付近、霧の渓谷です。そこで近々、表には出せない品物を扱うオークションが開かれるとか。」


 リアンが声を潜める。場の空気が一瞬で変わった。

 ヴィオラが不安そうにフォークを置く。


 「それって、まさか……」


 「ええ、いわゆる死の商人たちの見本市です。」

 リアンは懐から、黒い封筒を取り出しテーブルに滑らせた。


「出品リストの噂を聞きました。サリヴァ帝国から流出した魔導兵器の失敗作、禁忌とされる毒物、そして……ダフタルスクの地下で見つかったような古代の遺物も含まれているそうです。」


 「古代の遺物……」


 僕が呟くと、オルノブの目の色が変わった。教育者の顔から、冷徹な商人の顔へ。


 「……なるほど。商売敵が、妙な技術を独占しようとしている動きは察知していましたが、そこでしたか。」


 「ミズキさん。」


 リアンが僕に向き直る。その目は、お調子者の助手ではなく、冷徹な諜報員の光を帯びていた。


 「このオークションには、サリヴァ帝国のスパイや、シィヴァ教の過激派も買い付けに来る可能性があります。もし、強力な古代兵器が彼らの手に渡れば、皇国の防衛にとって致命的です。あなたの鑑定眼で、出品物の正体を見極めてほしいんです。」


 「僕に、スパイの真似事をしろって?」


 「取材、ですよ。編集顧問。」リアンはニカっと笑った。

 「『北の闇に潜む脅威』……次号のダフタルスク・ニューズの一面を飾るには、最高のネタだと思いませんか?」


 断れる雰囲気じゃない。それに、僕自身もその「古代の遺物」には興味があった。この世界の歪な技術体系の謎を解く鍵があるかもしれない。


 「……招待状はあるのかい?」


 「入手ルートは確保してありますが、身元保証人が必要でしてね。」


 リアンがチラリとオルノブを見る。彼女は優雅にワインを飲み干し、不敵に微笑んだ。


 「いいでしょう。ヤートリ商会の特別顧問とその秘書としてなら、私が会場に入れてあげますわ。……ただし、めぼしいお宝があったら、私が競り落としますけれどね。」


 「交渉成立ですね。」


 こうして、僕たちは新聞社の仕事をバーツに丸投げし、北の国境へ向かうことになった。美味しい魚料理の味は、いつの間にか硝煙と陰謀の味に変わっていた。

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