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第6話 フルムーンに、ブルームーン(紫のバラ)を


 満月の夜、それも十二時きっかりに、無敵怪盗ジェラルディンは、ミンフィユ王国のストロベリーシティに出没する。

 ジェラルディンが出没する晩は、必ず突風が吹きすさぶ。


 大胆不敵で予測不能、絶対無敵の怪盗だ。

 夜風も星々も、闇でさえ少女の味方、盗めないものは何もない。

 雲一つない星空に現れて、易々と月を盗むのだ。


 「ねえ、ジェラルディン、今夜も楽勝ね。警察ほど役立たずの組織って、他にないわ。そう思わない?」


 シルバー文鳥が、満月の傍で、くすくす笑った。

 青みがかった美しい羽は、月光に照らされてキラキラ輝いている。


「別に、どうでもいい。私は、好きでも嫌いでもないから」


 いつもの素っ気ない瞳の色は、シルバーピンクだ。

 腰まで伸びる波打つ髪は、赤みを帯びた銀色で、羽もないのに、自由自在に空を舞う。

 ジェラルディンは、満月の真上に舞い降りた。


「今夜は、急がなきゃ。寄る所が二か所もある。最初は、お盆の森ね」


 黒いマントを胸ポケットから、するすると引っ張り出して両端を握った。

 その時、よく知った声が、真正面から聞こえた。


「久しぶりだね、ジェラルディン」


 突然現れた美丈夫は、185cmの体格に大太刀おおたちを背負っていた。

 切り揃えたブロンドは、ジェラルディンと違って癖がなく、さらさらだ。

 生き血のように赤い羽は、満月に照らされて、普段より赤く見える。


十羽とわ!!あなた、どうしたの!?どうして、白いタキシードなんか着て、白いシルクハットまでかぶってるの?頭でも打った?」


 不躾な問い掛けをしたのは、文鳥のセーシュで、ジェラルディンは何も言わなかった。

 

「今夜、森の土を分けて貰えないかなあ」


 これが、森の土を貰いに来た、最初の晩だった。

 その後も来るので、その度に、図々しいと腹を立てるのは、セーシュである。


 初めて現れた時、子供のような無邪気な笑みで、とんでもないお願いをしてきた妖怪を見て、セーシュは、顔をしかめた。


「厚かましい子ね。満月の行く先を、知らないわけでもないのに」


「うん、ごめんね。でも、頼まれちゃったんだ」


 十羽の大きな瞳は、二重のゴールドブルーで、ジェラルディンの前では、いつもいたずらっぽく輝いている。

 しかし、その晩は、様子が違っていた。


さいが、奉公屋の子供たちに頼まれて、引き受けちゃったんだ。祭は、優しいから。悪知恵の働く子供たちだよ。祭の頼みは、断れない。森の土を分けて欲しいんだ。ダメかな?」


「なるほど、そういうわけね」


 いつになく真剣な顔つきの理由が分かって、セーシュが、ジェラルディンに目を遣った。


「あげるの?ジェラルディン」


 十羽は、色白で細身だが、実際は驚くほど怪力だ。 

 有り得ない話ではあるが、喧嘩になれば、勝敗は一夜で決まらないだろう。

 おそらく、持ち越しになる。忙しい夜に迷惑な話だ。


 「断れば、どうする?」


 ジェラルディンは、いつもと同じで素気ないが、十羽が気にするふうはない。


「やっぱりダメかあ。それじゃ、仕方ないよね」


 十羽が動いた時、セーシュは身構えたが、ジェラルディンは、十羽の手元をじっと見つめた。


「これで、譲って貰えない?ダメ?」


 ポンっと差し出された紫のバラは、ブルームーンだった。


「これを、どこで?」


 ジェラルディンが目を見張ると、十羽が、いつも通りの笑みを浮かべて答えた。


「赤目守りに咲かせて貰ったんだ。お盆の森は、僕と九羽くわの管轄だから。君が、この花をどれほど欲しているか知ってたから、交渉に使おうと思って。君と戦うほど、僕はバカじゃない」


 セーシュが、ほっとしていると、ジェラルディンが、不満そうに口を開いた。


「たったの一本?」


「まさか!!千本だよ」


 シルクハットを裏返して、パッと花束を取り出した。


「まあ!凄い!」


 千本のブルームーンは、ボリュームたっぷりで見応えも素晴らしかった。


 セーシュが、感嘆の声を上げると、帽子をかぶり直して、空いてる右指をパチンと鳴らした。


「あら、素敵!」


 セーシュは微笑んだが、ジェラルディンは、目を吊り上げた。

 赤系チェックのミニスカートは、赤いサテンのドレスに変わって、首元のピンクのリボンは、満月がモチーフのネックレスになっていた。


「それじゃあ、行こう!!祭も喜ぶよ」


 十羽が、嬉しそうな声を上げた。滅多に見せない、年相応のにこにこ顔が微笑ましくて、ジェラルディンは肩をすくめた。


「これでフリルが付いてたら、殴り飛ばしてた。花束は、十羽が持ってて。先に、悪知恵の依頼を片付けるから」


「まあ!いいの、ジェラルディン?」

 

セーシュが、心配そうに尋ねた。


「奉公屋の子供たちは、人であって、人じゃないのよ。もし、その子たちが悪巧みに使ったら、あなたのせいになるわよ」


「君のせいになんてしないよ。ちゃんと、僕が責任持つから。祭の願いは、叶えてあげたいんだ」


 不安げに答える十羽を見て、ジェラルディンは微笑んだ。


「噂には聞いてたけど、本当に変わったね」

 

ジェラルディンは、握りっぱなしだったマントを、ぱっと投げるようにして広げた。

夜風が、それを手伝って、満月をすっぽり覆い隠した。

月の光がなくなると、文鳥と無敵怪盗、妖怪は、星空から消えていた。


 

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