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第5話 ミステリー・スイーツ園芸部、始まりの話


「初めに言うけど、私たちの計画には、お盆の森の土壌が必要不可欠なの」


 放課後の生徒会室に残っていたのは、生徒会長の知世と、副会長の結花、そして役員でも何でもない瀬奈の三人だった。

 これは、ことりが養子に出される一年前の話である。


「どうして、普通の土じゃダメなの?学校の花壇ので、いいじゃない」


 瀬奈は、沈み込むようにして、黒いレザーソファに座っていた。

 その横で結花が、姿勢を正して座るようにと口酸っぱく言っていた。


「二人とも、ちゃんと聞いて!!」


 知世が目を吊り上げると、心外だという顔つきで、結花が正面に向き直った。


「ちゃんと聞いてるわ。それで、どうやって手に入れるの?赤目守りは、絶対に分けてくれないわ。これは、極秘で動かなければいけない案件よ。先生たちに知られるわけにはいかないもの。それに、栽培した花や薬草を、どうやって食べさせるの?あんまり現実的な案には思えない。止めた方がいいわ」


 結花が、不機嫌な声で言い切ると、急に瀬奈が姿勢を正した。


「ねえ、お菓子に混ぜたら?咲かせて混ぜる!お菓子は、ほとんどの人が好きだよね。目に入れば、不思議と手が伸びる。口に入る確率が一番高くて、確実な方法。あたし達、奉公屋の卵だよ?見た目も種類も疑われないように、何回も試食して、まずは、試作品を作る。味は、本物に近付けないと」


 瀬奈は、手前のテーブルに置かれた小さな籠に手を伸ばした。


「ゆいちゃんも食べる?」


丸いプレーンクッキーを摘まんで瀬奈が聞くと、結花は、顔をしかめた。


「太るからいらない」


「えー、一つで太る?」

 

 不満げにパクッと口に入れた。


「瀬奈って、極たまーに良いアイデア思い付くのよね。知世の意見も魅力的。オーガニッククッキーなんかどう?結構うけると思わない?」


「ともちゃん!極たまにって、失礼過ぎる!!」


 瀬奈は、頬を膨らませたが、結花の瞳は、きらりと光った。


「本当に良い案だわ。まず、部活を作らない?園芸部という名目さえあれば、いつでも花壇が使えるわ。薬草の栽培、花の改良……裏工作は、私がするから。部活報告は、私に任せて。金銭面の調整も、上手くやるわ。部費を使って、上手に遣り繰りするから」


「それも良いアイデアね。でも、お菓子を作るなら、家庭科室も自由に使いたいわね。毎回、許可を取るのは面倒よ」


 知世が頭を悩ます前に、瀬奈が更に良い案を出した。

 

「じゃあ、ミステリー・スイーツ園芸部にすれば?」


「ミステリーいるの?」

 

 結花が、眉間に皺を寄せたが、瀬奈がきっぱりと言った。


「だって、ミステリー殺人になるんだもん!先生たちには、ミステリー小説に嵌まってるとか何とか適当に言えばいいよ」


「まあ!殺すの!?」

 

 結花が、口を開けて目を丸くしたので、知世が慌てて訂正した。


「一時的によ。計画実行中の間だけね。ロミオとジュリエット的な、あれよ。後で息を吹き返すみたいな。睡眠花すいみんばなでは弱過ぎるから、万一の場合を考えてね」


「ああ、そういう事。さすがに、殺すのは、まずいわ」


 結花が、ほっとした所へ、瀬奈が、水をさした。


 「神父さまの説明不足で、ロミオとジュリエットは死んだよね」


「あれは、説明不足じゃないわ」


 知世が、不服そうな顔で否定した。


「確か、行き違いよ。ジュリエットが仮死状態になってるって、伝わらなかったから、そうなったって話でしょ?神様に仕える人を悪く言わないで。それに」


 二人が喧嘩になりそうだったので、結花が、さりげなく話題を変えた。


「私、思い出したわ。この間、いとこから聞いたの。無敵怪盗ジェラルディンは、盗んだ満月を、お盆の森に住む巨大カラスたちに時々渡してる、って。森の土を分けて貰う対価として。熟練奉公屋たちが造った巨大懐中電灯の明かりは、ジェラルディンが盗んだ満月の光が原料だと聞いたわ。手に入れた土は、ミンフィユ王国の病院に、安く売ってるみたい。入院中の子供たちを楽しませるのが目的だそうよ。転生食堂にも、持って行くみたいね。私、ちっとも知らなかった。でも、耳よりな情報だったわ。ジェラルディンに頼んで、少し分けて貰うのは、どう?森の土を入手するのに、ジェラルディンの手を借りてみる?」


 瀬奈と知世は、目を見開き、時々ポカーンと口を開けながらも聞きった。

 お盆の森の土を使えば、季節を問わず色んな草花を咲かせられる。

 薬草の栽培、花の改良には、もってこいだ。


「素晴らしいアイデアよ、確実に手に入る方法だわ」


 知世は諸手を挙げて賛成したが、瀬奈は、にこりともしないで言った。


「どうやって、コンタクトを取るの?ミンフィユ王国になんて、行けないよ?それこそ、非現実的じゃない?夜中に盗んで来る方が、現実的だと思う」


 瀬奈が、沈み込むようにしてソファに座った途端、知世が声を上げた。


「思い出した!!私も、思い出したわ!!どうして、すぐ思い出さなかったのか、不思議なくらいよ」

 

 瀬奈と結花は、急な大声に驚いたが、知世は、満面の笑みで二人を見て言った。


「伝手があるの、きっと力を貸してくれる!!後は、部活を作ればいいだけね。申請は、私がするわ。申請書も私が書くから。ただ、私と結花は、生徒会執行部だから、入れないのよ。でも、その方がいいかもしれない。たった一人の部活に、顧問が、しょっちゅう顔を出すわけないから、毒草を育てたって、きっとばれないわ」


 こうして誕生したミステリー・スイーツ園芸部に、ことりが巻き込まれるのは、一年後の話である。


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