第33話 ことりの手紙と、爝火の弟
静花は、ランを見ながら続きを話した。
「一年前、おばばが亡くなる三日前さ。さっきと同じ会話をした。ただ、あの晩と違うのは、ラン、あんたがいたことさ。そして、天鬼没塔、この実話を聞かされたことだ。それも全部、あんたを救う為だよ。一回忌に参加していたら、あたしは、七区の奴らに捕まっていた。あんたを、救えなかっただろうね」
ランは、ポカーンと口を開いたまま聞いていたが、じわじわと汗をかき始めた。
「わたし、命を狙われてるの?」
「そうらしいね。怖いかい?」
静花に聞かれて、ランは強がった。
「ぜ、ぜんっぜんっ!それより、一年前から術をかけてたなんて、おばばさまは、すごい妖怪だったね」
ランが話を逸らすと、静花が微笑を浮かべた。
「大妖怪だったからね、わけないよ」
その時、急に風が吹いて、空から、ひらりひらり赤い封筒が落ちてきた。
「珍しい。母さまからだ。水色の封筒でないということは、直接来られた?」
静花は、手紙を掴むと、急いで辺りを見渡した。
しかし、気配はない。
封筒の後ろを見ると、「ことり」と小さく書かれてある。
届けてくれたのは、おそらく小菊だ。
「ことりじゃないか!」
静花は、内心かなり驚いたが、音を立てず、ゆっくりと封を開けた。
読み終わると、苦い顔をした。
「何て、バカなことを!誰が、入れ知恵したのやら」
呟きを聞いて、ランが、静花の周りを、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ことりお兄ちゃんからなの?ねえ、わたしにも見せて。読ませてよ。何て書いてあるの?」
しかし、静花は、懐に仕舞い込んでしまったので、ランは、がっかりした。
「さて、急ごうか。時間との勝負だ。やる事は決まった」
「ええっ!今度は、どこへ行くの?」
ランは、夜空を見上げて、満月に誓った。
「お月さま、わたし、もう二度と家出しません」
静花とランの遣り取りの最中に、トイは、魔女ばあさんを殺していた。
二人は、トイの悪事を知る由もなかったが、すぐに知る事となる。
行き先は、未来の樊籠小学校なのだ。
「あいつの手を借りるのは癪だけど、仕方がないね」
静花の奉公屋としての能力は、静める花だ。
巨大な彼岸花を一本、ぽんっと咲かせた。
すると、背の高い男が一人、赤い花弁に包まれて姿を現したのだ。
「ちょっと、静花!僕、忙しいんだけど!」
男の苦情を遮って、静花は、捲し立てた。
「こっちだって、本当は、呼びたくなかったよ!だけど、今、過去にいて困ってる。叔父さんの顔なんか、心底見たくなかったよ!でも、叔父さんも、今回の審判員だって聞いた。私も、そうだから、あの子たちが魔女と会う前に帰りたい。手伝って!」
男は、苦笑して、ランに目を遣った。それで納得した。
「天代の次女だな。そのせいか。分かったよ。星の怪盗なら、どんな願いも叶えられる。ただ、あいつは、兄さんと、無敵怪盗の言う事しかきかない。が、任せろ。うまくやる」
そう言って、ウインクすると、ぱっと姿を消した。
満月の夜に出没する無敵怪盗が、心底嫌悪する妖怪は、二人いる。
そのうちの一人が目の前に現れた時、ジェラルディンは、今夜こそ仕留めると決意した。
忌々しい妖怪は、ジェラルディンが、満月の真上に舞い降りた瞬間に出没したのだ。
「久しぶり、ジェラルディン」
文鳥のセーシュが、口を開くより先に、ジェラルディンが動いた。
「ジェラルディン!?」
珍しくセーシュの方が戸惑ったほど、素早かった。
こんなにも怒りに燃えたジェラルディンは、見た事がない。
胸ポケットから取り出したのは、いつもの黒いマントではない。
深紅のマントを一瞬で引っ張り出して両端を握ると、ぱっと投げるようにして広げた。
夜風が手伝って、妖怪をすっぽり覆い隠したが、それは、ほんの一瞬だった。
「うわっ、待ってよ!僕は、喧嘩しに来たんじゃないんだから!」
炎が、マントを突き破って、彫刻のように美しい顔が現れると、ジェラルディンの眉間の皺は、益々険しくなった。
「僕は、静花に頼まれて来たんだよ」
その名を聞いて、ジェラルディンの手が止まった。
セーシュは、再び肩に止まって、疑わしそうに見つめた。
「静花が?どういう意味?」
ジェラルディンが聞くと、妖怪は、にこっとして言った。
「どうやら、過去にいるらしい。この僕を頼るくらいだ。静花のやつ、相当困ってる。満月を分けてくれないか?どんな願いも叶えられる星の怪盗を頼るしか手がない。あいつは、過去にも未来にも行ける。あいつに行けない場所はない。でも、兄さんと、君の頼み事しか受け付けない。君に満月を分けて貰って、それを渡せば、願いを叶えてくれる筈だ」
涼しい顔をしているが、切羽詰まった頼み事だと、ジェラルディンもセーシュも、すぐに分かった。
どうも一刻を争うようだ。
「分かった。今すぐ渡すから、早く持って行ってあげて。でも、静花が過去にいるなら、あんたは、どうやって過去に行くつもり?」
ジェラルディンが、満月の四分の一を千切って渡すと、妖怪は、微笑んで答えた。
「静花が、時間を計ってるから、そろそろだよ。また勝手に呼ばれるよ。それじゃあ、行くね。ありがとう、この借りは、きっと返すから」
ジェラルディンは、最後までしかめっ面だった。
「静花が、輝龍さまの娘でなければ、あんなやつに、大事な満月を渡さず済んだのに」
悔しがる顔を見て、セーシュが、宥めるように言った。
「気にしない事ね。ああいう身勝手な男って、きっと独身で終わるわよ。さあ、残りの満月を持って帰りましょう」
ジェラルディンは、いつもの黒いマントを、胸ポケットから、するすると引っ張り出して両端を握った。
ぱっと投げるようにして広げると、夜風が、それを手伝って、満月をすっぽり覆い隠した。
月の光がなくなると、文鳥と無敵怪盗は、星空から消えていた。
コンテストの締め切りが明日なのに、まだ全部書き終わっていないという情けない状況なので、今夜は、最新話を書いて投稿、を繰り返しそうです……。




