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第3話 森の怒りは終わらない2

 

 化けモミは、広範囲にわたって右からも左からも、木の葉とことりを襲い続けたが、一向に当たらなかった。


永久夏とわなつ、おまえなんか、一生、高くなれねえよ!永久に、そのまんまだ!」


 木の葉が、一番高い化けモミを指差してののしった。


「樹に名前があるの!?」


 ことりは、目を見開いた。

 ここに来るまでも十分驚きっぱなしだったが、木の葉の瞳が険しかったので、黙って耳を傾けた。


「あいつの右隣の樹、前に来た時よりも高くなってる。他の樹もそうだ。日光を浴びて、ぐんぐん成長してる。でも、永久夏は高くなれねえ!何でか分かるか?」


 急にふられたので、ことりは、木の葉の質問を反復してしまった。


「何でか分かるの?」


 すると、木の葉が、にっと笑った。


「あいつの性格が、むちゃくちゃ悪いからだ」


「樹に性格があるの?」


 ことりは、驚きを通り越して呆れ返った。


「性格のいい樹なんて生えてないよ」 


「永久夏は、すかした野郎だ!仲間に、こう言ってたんだぜ。『俺が一番高いだろう、俺は真夏に愛されてる、だから俺にだけ光が来る、これが実力の差だ!』胸クソ悪い話だぜ」


 木の葉が吐き捨てるように言うと、ことりも眉を吊り上げた。


「癇に障る奴だね。確かに嫌な樹だ」


 語気を荒げて、ことりは永久夏を睨んだ。


「同じ樹で仲間なんだから、尊重し合うべきじゃないの。樹高を競い合うライバルもいるんでしょ。その樹に対しても、随分と失礼な言い方だ!相手を見下すような物言いをするんだね。僕、そういう奴、だいっきらいなんだ!かなりムカツクよね!」


 仲間やライバルの樹々側に肩入れすることりを見て、木の葉は満足顔まんぞくがおで捲し立てた。


「性格の悪い樹には限界がある!ある程度まできたら、樹高は伸びねえ。性格の良い樹は伸び代だらけだ!人と同じで、無限の可能性がある。何が実力の差だ!勝手に吠えてろ!雨の日も風の日も、本当に苦労して大きく育った樹は、自分と同じように努力する樹に、そんな言葉は投げ掛けねえ。偉そうにもしねえ、見下さねえ!仲間やライバルの頑張りにケチを付ける奴は、自分の頑張りを貶すも同じだぜ」


 木の葉の言葉は、ことりの胸を熱くした。類は友を呼ぶ、まさにそれで、ことりもかなり熱いタイプなのだ。


「うん、トワナツは間違ってる。木の葉の言う通り、人と同じだよ。他人の努力を称賛できる奴が、実力を伸ばしていくんだ」


 ことりも険しい顔をして言ったが、その後で、にやりとして永久夏を指差した。


「僕は君に同情する。太陽は世界を照らしてるんだ!樹高が伸びないなら、可哀想な話だね。低くはならないけど、高くもなれないんでしょ。じきだよ、仲間にライバルに抜かれるのは!君は光に届かなくなる!いい気味だ、ざまあみろ!」


 ことりが舌を突き出したので、木の葉が口の端を吊り上げた。


「けっこう言うじゃねーか。熱し易いタイプは損するぜ。次行くぞ!」


「バイバイ、アホナツ!次来た時は、君の頭上を飛び越えてやるから!今は、せいぜい高みの見物してなよ!」


 ことりは右目の下を、右手の人差し指で大胆に引っ張った。

 それから、もう一回、舌を突き出した。


「べーっだっ!」


 それを見て、木の葉が目を細めた。


「俺よりガキだぜ」


 モミの化け樹々は、二人の会話に耳を澄ませていたので、もうずっと影の切れが弱 くなっていた。

 応援してくれる子供たちを襲えない、彼らの想いは一致して、攻撃を止めた。

 しかし、永久夏は、傲慢な態度を崩さなかった。


「ほざけ、生意気な小僧ども!俺が一番だ!仲間もライバルも全員、蹴散らしてやる!おまえらなんぞ、俺の敵じゃない!おまえらごときが、俺に刃向かうな!」


 怒鳴り散らして影を伸ばし続けたが、無駄に終わった。掠りもしなかった。

 他の化けモミたちが、木の葉とことりを援護したのだ。

 彼らのおかげで、二人は走る気力を温存できた。体力も多少だが回復した。


 しかし、化け若葉が痺れを切らして、自分たちの意志で、はらりひらりと化け枝から舞い降りた。


 そして、ざわざわ、ぞわぞわ、ガサゴソと不気味な音を立てて自ら影を生み出すと、水溜りのような巨大な楕円を作って二人の足元を攻撃したが、失敗に終わった。

 ことりが、木の葉の首根っこを掴んで、六十センチ浮いたからだ。


「おまえ飛べるのか?」


 木の葉が目を丸くして聞いたが、ことりは言葉を濁した。


「あ、うん、そんな感じ」


 どんな感じだと問いたいが、木の葉は我慢した。

 今は、呑気に問い掛けている場合じゃない。


 化け若葉の水溜りを乗り越えた二人が、何とか化けモミ林を脱すると、樹高八十二メールの樹々が突っ立っていた。

 森に生えるのは、よしとする。しかし、またも季節が不自然だ。


「街路樹だ。公園樹かな?葉が黄色だね。ここは、秋エリア?」


 化けイチョウの群れは、目一杯、大振りの枝を上下に揺すって、リズミカルな音を響かせた。


「ねえ、ジングルベルって聞こえるけど。もう冬が来たの?」


「残念だな、サンタは来ねえよ」


 むすっとした表情で木の葉が答えたので、ことりは目を丸くした。


「来て欲しいの?」


「そんなわけねえだろ!」


 化けイチョウは、影を自由自在に動かせつつ、巨大な銀杏を、ぼとぼと落として邪魔をした。

 黄色い銀杏は、落ちる度ぐちゃぐちゃに潰れて、強烈な匂いを発した。


「うわっ、くっせえ!」


 三時間は経つだろう、木の葉も疲労が溜まっていた。

 飛散した化け銀杏を誤って踏むことが多くなって、その度、顔をしかめてうめいた。


「クソッ、腹立つぜ!靴までくせえ!」


 木の葉は、右手の人差し指と親指で、上向きの鼻ぺちゃをつまんだ。


「僕も銀杏きらいだよ、おいしいって言う人の気が知れない!全部、焼き払ってやりたい!」


 二人は、化け樹と化け樹の間で生まれる光を、化け枝と化け枝の隙間から射す木漏れ日を追い掛けて根限りのスピードで逃げ切ると、激怒のままにイチョウ通りを後にした。


「どうせまた碌な目に合わないよ」


 ことりは、ぎゅっと目をつむった。


 不運を疑わずに目を開くと、白梅と紅色の桃の花が、麦畑のように広がっていた。

 今を盛りと咲いている。樹高五十メートルが可愛く見える。

 ことりは、目を輝かして感嘆の声を上げた。


「うわあ、すごい!良い香りだね!地獄で仏だよ!このエリアは天国だ!花を見ると心が和むね。ここに不幸があるわけないよ!」


 夏の森に冬が到来、秋は深まって春まで訪れる。

 全てが、ごっちゃの森で、花や草木に季節は関係ない。

 四季も種類も集結して、好き放題に生えている。

  花好きのことりには、最高の森だ。


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