第17話 本当の部活内容
「どうして入部してくれないの?ひどいじゃない!」
これを聞いて、ことりは、ますます腹を立てた。
「自分勝手は大概にして、さっさと帰ってよ」
きつく言われて、瀬奈が、しゅんとなった。
そして、さっきまでの威勢はどこへ消えたのか、突然しょぼんと項垂れて両手で顔を覆うと、その場にしゃがんでしまった。
「冷たいこと言わないで……」
「え??ごめん」
ことりは、困惑して謝ったが、幼馴染二人は、うんざりして溜息を吐いた。
「またか」
「まただね」
瀬奈のいつもの常套句、常套手段なのだ。
木の葉は、憐みに満ちた目で、新しいルームメイトを見つめた。
「九十九人目の被害者か。何だろ、この罪悪感。俺、悪くねえのに」
「面倒見の良い男子が犠牲になるよね。幼馴染みとしての罪悪感だよ。それに、木の葉は、いとこだから」
奏も、気の毒そうな眼差しを、ことりに注いだ。
「僕、君を傷付けるつもりはなかったんだ。入部しないけど、話は聞くから。ね、泣かないで」
ことりが、近付いて宥めすかすと、瀬奈は、瞬時に顔を上げて微笑んだ。
両目は輝き、喜びに溢れている。
「赤目守りって知ってる?あたし、友達なの」
「え?」
ことりが、目を丸くすると、瀬奈が、畳み掛けるように喋り始めた。
「あたし、森を潰す計画に反対してるの。あの子は、良い妖怪よ。迷子になったら助けてくれるし、森の小鳥も動物も、あの子が護ってる。あたし、友達を護りたい!今こそ、ミステリー・スイーツ・フラワーズの出番なの。皆これまで散々、赤目守りに助けて貰ったのに、あんまりよ!」
瀬奈の言葉は、ことりの胸を熱くした。それで、ことりは右手を差し出した。
「入部するよ、君に協力する!僕も、赤目守りと友達になったんだ!あの子の住処を壊すだなんて酷過ぎる!森の動物たちだって可哀想だ。情の一つも無いのかな、最低な学校だ!妖怪と人間の仲を取り持つのが、奉公屋の仕事なのに!良い妖怪を追い出そうとするだなんて、奉公屋の恥だよ。僕も一緒に闘う!先生達はロクデナシだ!」
ことりが苦情を打ちまけると、瀬奈が、頼もしく頷いた。
「その通りよ!ことちゃんのような心優しい仲間を探してたの!建設妨害の作戦は、既に練ってあるから、後は実行するだけよ」
「すごいよ、君、素晴らしい行動力だね!」
ことりは、感嘆した。先程までの怒りは、すっかり消え失せた。
「決行は、明後日なの」
「えっ?明後日?早いね」
ことりだけでなく、木の葉と奏も驚いた。
「はあっ!?」
「日付が変わったら、ほぼ明日じゃないか!!」
「アホ面してるわよ」
幼馴染二人を鼻で笑うと、瀬奈が話した。
「工事は来週よ?先生たちに邪魔されたら困るの。一刻も早く勝利を収める!それに、満月は明後日よ?だから、絶対に明後日なの!目に物見せるてやる!」
「うん!見せてやろう!」
ことりが、力強く言い切ると、瀬奈も心を込めて言った。
「ことちゃん、ありがとう!あたしたち、今日から同士ね!」
あだ名で呼ばれても、ことりは笑顔だった。
入部届に記名すると、瀬奈と一緒に、右手を上げて復唱した。
「心を一つに立ち向かおう!エイエイオー!」
木の葉と奏は、苦り切った表情で見交わして、ひそひそ話した。
「どーすんだ」
「どうするって、木の葉は、あっち側だよね?さっきまで僕に説教たれてたよね?入れば?」
「すねんな。おまえも入れ!」
「僕は、お菓子作りに興味がない」
「俺もねーよ、菓子は食べる派だ。でも、赤目守りを助けたいのは同じだ。ただ、何で部活と関係あるんだ?それが疑問だ。どう思う?」
「さあね、本人に聞けば?」
奏は、素っ気なかった。木の葉は、聞かなかったことにして話題を変えた。
「あいつら、先生を相手にとか、実戦経験が豊富な熟練の奉公屋を怒らせようとしてるんだぜ。喧嘩相手が学校だぞ。ベテラン連中を敵に回すんだぜ」
「それだけで済まない。奉公屋の育成小学校に手を出すってことは、奉公屋全員に喧嘩を売るってことだよ。ことり君が心配だ」
瀬奈は、新しい仲間と意気投合して談笑していた。
そんな二人に声を掛けるのは、木の葉も奏も躊躇われたが、奏が意を決して瀬奈に近付いた。
「何で部活と森が関係あるのか、聞きたいんだけど」
奏が、おそるおそるといった感じで聞くと、瀬奈は溌溂と答えた。
「この作戦に、花とスイーツが関係あるからよ。ミステリー・スイーツ園芸部なんて、表向きの名前よ」
奏と、木の葉の心臓は早鐘を打った。
また陰でヤバイことしてたのか――二人の心の声は重なった。
「森の土を使えば、色んな草花を咲かせられる。学校の花壇を使えば、タダも同然。部活という名目さえあれば、いつでも使える。薬草の栽培、花の改良……あたしが、本当は何を植えて何を育てているのか、先生たちは誰も何も知らない。裏工作は、ともちゃんの仕事だもの。部活報告に抜かりなし。家庭科室も自由に使いたかったの。毎回、許可を取るのは面倒でしょ。それで、この部を作ったのよ。部費を使って、上手に遣り繰りしてる」
瀬奈の自慢顔を見て、木の葉と奏は心底苛立ったが、ことりは目を輝かせた。
「君って詐欺師の才能があるんだね!僕、スイーツは、作るのも食べるのも大好きなんだ。何だか凄く面白そうな部活だね。どんな花を植えて、どんなお菓子を作ってるの?」
ことりは、胸を躍らせながら答えを待った。
「花の種類は多いから、おいおい説明するけど、どっちも普通じゃないの。普通の人間が食べるお菓子じゃない。あたし達は、奉公屋の卵でしょ?見た目も種類も疑われないように、何回も試食して試作品を作ってる。味つけは、それなりに普通の味がしないとね。スイーツは、ほとんどの人間が好きでしょ?目に付けば、不思議と手が伸びる。口に入る確率が一番高くて、確実な方法。薬草や花を、咲かせて混ぜる。これが、本当の部活内容よ」
木の葉は、恐ろしい真相を知って、こんないとこ欲しくなかったと、思わずにはいられなかった。
奏も凹んだ。大変な事件に、ことりを巻き込んでしまったのだ。
こんな部活だったとは思いも寄らなかった。




