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3 逆

 だがオジサンはすぐに立ち去れば余計に怪しまれると判断したのか、自分の方から警邏二人に近づいて行く。

 だから仕方なく、わたしも従う。

 プー太郎でヒモなところは救いようがないが、地頭が悪いわけではないようだ。

 それは、これまでのわたしとの会話からでもわかる。

「ご苦労様です。この辺りで何かありましたか」

 警邏のすぐ近くまで辿り着き、いけしゃあしゃあとオジサンが問う。

 すると年配警邏の方がオジサンに応える。

「ご近所の方ですか」

「ええ、まあ……」

「悪い噂を聞いていませんか」

「例えば、どんな……」

「お嬢さんに聞かせる話じゃないな。こちらは……」

「親しくしている親戚の娘さんです」

「君、名前は……」

「えっ、わたしの名前ですか。いわゆる職質……」

「……というわけではないが、見たところ中学生の娘さんと若い男の組み合わせが怪しいのでね」

「そういうことですか。では嫌疑は早めに晴らすとしましょう。沖野みのりです」

「あなたの方は……」

「前沢裕紀です」

「同じ姓じゃないんですね」

「だから親戚ですよ。家族じゃない」

「わかりました」

 そこで、もう一人の警邏が参入。

 年配の警邏とは親子ほど歳が違う。

「お嬢ちゃんは噂を聞いてないかな」

「だから何の噂です」

「お譲ちゃんや、もう少し年齢が高い女子高校生たちに関することなんだが……」

「援交ですか」

「やはり知っているのか」

「お巡りさんの言葉を聴いていれば、知らなくたって想像できますよ。ちなみに、わたしは聞いていません。ねえ、オジサン……」

「……問われても、きみとそんな話をしたことがないからな」

「お嬢ちゃんは本当に知らないのか」

「ええ。……でも、この辺りが怪しいんですか」

「藤野さん、どう応えます」

 若い警邏が年配の警邏に助けを求める。

 すると年配の警邏がこう答える。

「話してやれ」

「では……」

 と前置きし、若い警邏が話し始める。

 オジサンに向かい。

「ここのコンテナを利用した援助交際……というか、児童買春行為の通報がありましてね。ここは常に人が行きかう場所でもなし、まさか中で人がそんな行為に及ぶとも思われない。そこを利用したのでしょうね」

「そうでしたか。びっくりしました。ぼくにはまるで思いつけない」

「……でしょうね。われわれも通報を受けたときには驚きました。だが調べに聞かないわけにもいかず」

「事実はありましたか」

「もぬけの殻ですよ。鍵もかけずに逃げたようです」

「われわれがコンテナの管理者に鍵を借りに行っている隙にです」

 年配警邏が補足説明する。

「狡賢い奴らですね」

 またもいけしゃあしゃあとオジサンが言う。

「そうですね。困り者たちです」

 ついでわたしたち二人に対する嫌疑が解けたのか、警邏が言葉を締めくくる。

「とにかく怪しい者たちを見かけたら、ご一報下さい。お願いしますよ」

「わかりました」

 だからオジサンも素直に警邏の言葉に従う。

「では、わたしたちはこれで……」

 警邏にそう言い、わたしの方を向くと、さあ行こう、とオジサンが態度で示す。

 わたし自身はコンテナの中に作られたという売春部屋を見たかったが、我慢する。

 いずれ機会があるかもしれない。

 このオジサンと一緒にいれば……。

(じゃあ、行きましょ)

 すぐにわたしもオジサンに態度で示し、その場を去ることに同意する。

 警邏たちは仲間を待っているのか、動こうとしない。

 その情景は派手ではないが、付近の住人には伝わるようだ。

 通行人が数人、貸倉庫出入口から、わたしたちと警邏の姿を覗き込んでいる。

 その数が徐々に増え、物見高いオバサン一人のがわたしたちと擦れ違い様、警邏たちの方へ近づいて行く。

 擦れ違う瞬間に見せたオバサンの顔に浮かぶ不審感。

「ねえ、あの顔を見た。まるでわたしたちが犯罪者みたいに……」

 もう安全だろうと思われる時点までコンテナ群を離れたところで、わたしがオジサンに訊く。

「きみは違うが、ぼくは犯罪者だから半分は正しいのじゃないかな」

「余裕ね」

「……ところで、きみの名は本当にオキノ・ミノリなのか」

「それを言ったらオジサンの名は本当にマエザワ・ユウキなの」

「まさか」

「わたしの方も、まさか、だわ」

「悪人だね」

「それは褒め言葉よ」

「そうか。では、きみは『褒め言葉は善人をさらに善く、悪人をさらに悪くする』って諺を知ってるかい」

「初めて聞くわ。どういう意味……」

「さあ、言葉通りの意味だろうな」

「呆れたわね。意味も知らない諺を他人に披露する人は初めてだわ」

「ああ、それはありがとう」


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