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第二話 スタート

「じゃあ、キミたちは本当に無関係ってことで良いんだよね?」

「女!」

「よしよし…、はい、尋問終わり!ちょっとこっちついてきてね〜」

「う〜い」


 あのあと俺とルキは一瞬で拘束されて鉄格子で窓が保護された部屋にやってきた。


 ひとまず眼の前のカールした長髪の女と二人きり〈え?僕は?〉でおしゃべり。

 そんで終わってどっかに連れて行かれている。


 長く続く純白の廊下。最近はこんな景色ばっかりだ。


「もっと女と話したかった…」

「はいはい。またいつかね」

「ほんとか!?また二人きりで話してくれるのか?」

「いや僕もいたよさっき」

「お前は黙っとけ!」

「え?」


「それで?話してくれるのか?」


 俺は待ちきれなくなって前を進む女に話しかけた。

 それを聞いた女は振り向き口に指を当てて腰にしなを作って口を開く


「敬語!」

「へ?」

「け・い・ご・!」

「けいご?」

「そう!これからキミ達は私に敬語で話してもらいます」


 え?けいご?なにそれ?


 〈ほら!いっつも君が上司相手に使っていたです、ます調のあれ!〉


 ああ、あれか。


「え?なんで?」

「男に敬語使われると私が嬉しいから」

「へぇ」

「で?」


 女の眼光が鋭くなる。


「あ、えと、うっす」

「うんいいよ、話してあげる」

「あ、いいんだ…すね」

「うん。なにか話したいことがあるの?」

「あ、それ考えれば何もないっすね」


 〈なにもないのか…〉


 ルセぇお前は黙っとけ。


「じゃあなにもないなら私がキミに話すね?」

「お?マジかよ!あざっす!」

「はい。これキミの手帳」

「へ?」


 そう言われて渡されたのはガラケーみたいな何か。中には俺の写真が入っている。


「これからキミには公安警察広域超常課に所属してもらいます」

「は?」

「因みに拒否権はありません」

「え…公安って、警察?」

「そうです」


 警察、警察…。


 じゃあ俺、警察官になるってことか?


 〈そうだね〉


 やっぱそうなのか…。警察、警察はえーと確か、


 〈polliceman〉


 そそ!それ!ポリスメン!やったぜ俺!念願のポリスメンだ!

 あ、でも公安ってなに?


 〈公安ってのは警察の中にある特殊部隊だよ〉


 へぇ!特殊ブダイ!いいねぇ!


 〈特殊部隊ね?まあざっくりといえばスパイだよ〉


 スパイ!かっこいいじゃねぇか!


 〈よかったねナンダ〉


 ああ、最高の気分だ!



「じゃあ俺、スパイになるってことっすね!」

「うん、そうとも言えるし、言えないかもしれない」

「え?」


 女はまた一歩俺の方に近づく。


「これから話す情報は全て極秘情報。公安、それも広域超常課以外の人に喋ってはいけないよ。最悪始末される」

「え…」


「日本が誕生してからおよそ2000年。様々な超常現象が報告されてきた」

「…」

「古くは大化の改新の斉明天皇の呪いだったり、日本には超常現象が公式書物として残っているんだ」


 へぇー、そうなのか。

 全然わかんね。


 〈ええ…〉


「おかしいとは思わない?古来よりこんなに超常現象が起こっている今の日本で、超常現象は一回も起こらない」

「ああ…それは確かに」

「確かに?」

「あ…確かに、そうかもしれない…です」

「うん」


 女は廊下の先に歩き始める。

 だから俺もおいていかれないように後を追う。


 〈なんで喋ってる途中に歩き始めるのさ〉


「平安時代までは民衆にも超常現象の存在は信じられてきたんだ」

「へぇ」

「そしてその後に誕生した鎌倉幕府も超常現象を信仰することを奨励し、季節外れの台風を巻き起こして大帝国”元”を打ち破った」


 へぇ。そんでさ、ルキ。


 〈…〉


 ルキ?


 〈…〉


 大丈夫か?ルキ?


 〈あ、ごめんごめん?それで?なんて言ったっけ?〉


 まだなんも言ってねぇよ…。それで?この話、いつ終わんの?


 〈え?女と話してるのにどうしたの?〉


 飽きた。


 〈ええ…〉


「公式に聖なる力が働いたのが…聞いてる?」

「…あ」

「聞いてないね」


 女は下を向きながらため息をつく。


「まあいいよ。これだけは覚えておいて」

「う…はい」

「君には、これから今も日本各所で起こる超常現象をなるべく民衆に見つからない内に始末してもらいます」

「はい」


 いつの間にか廊下の終着点の扉の前に立った女は歩き終わって振り返り、ナンダに近づいてくる。


「今から情報の漏洩防止のために目隠しするね?」

「ええ…目隠しぃ?」

「返事は?」

「はい」


 しゅるしゅると布の擦れる音の後、俺の目は完全に塞がれる。


「あと他の公安職員に『極楽へは?』と聞かれたら、必ず『梢の地ならし』と答えてね?合言葉だよ」

「はい」

「じゃあこれから宜しくね?ナンダくん」

「ぐおっ!」


 耳元でささやかれて崩れ落ちた俺は車に乗せられた。



 ‐‐



 視界に映るのはダークな板材の天井、ブラインドがかかった窓、そして美人の顔…。


「う〜ん」

「お、目が覚めた!」

「ゲッ!」


 誰かの膝の上で目覚めた俺。

 俺は起き抜けから回避行動を取り、膝上から脱出する。


「あ、警戒しなくてもいいよ!あれはもうしない」

「じゃ、じゃあなんなんだ!なんなんだお前は!」

「敬語!」

「何なんですかあなたは!」


 ダサッ


「私の名前は財前ナツミ。ナツって呼んでね」

「はぁ?」

「ここが警視庁内部にある公安本部、通称ゼロって言います」

「ゼロ…」


「へえ。これが新入り。なんか生意気っすね」

「げ!野郎!」

「なんだよいきなり…」

「それはこっちのセリフじゃ馬鹿!」


 金髪の俺ぐらいの身長のボブチャラ男から急に話しかけられ、俺は身構える。


「はい。これ君のルームメイト」

「え?このチャラ男が?」

「うんそうだよ。あとゴローくんはナンダくんに公安のことを手取り足取り教えてあげてね?」


 うーわやだ。


「最悪」

「俺も最悪」

「今からでも女と同部屋にしてほしい…」

「残念だけど私には自宅があるからね。それとナツさんって呼んでね。まあ最初の一ヶ月だけだから、ね?」

「チッ…」


 クソっ…


「あのーなっさん」

「どうかした?ゴローくん」

「この化け物、なに?」

「あ、こんにちは」

「こんにちわじゃねぇだろバケモンが」


 露骨に嫌がるチャラ男。

 野郎の嫌がる姿なんて誰得なんだよ。


 むしゃくしゃするしおちょくってやろう。


「これ、俺のしもべ、名前をルキっていいます。ほら挨拶をしなさい」

「さっきしたでしょ。こんにちはって」

「あのーなっさん、部屋替えって…」

「それは許可できないな」

「はい終わり!終わったよ!これ!」


 頭を抱えて叫ぶチャラ男。

 なんだよ大口叩いてたくせに心は小せぇんだな。


「ゴローくんしか頼める人が居ないんだよ…。頼まれてくれる?」

「いや、じゃあ先輩がやればいいじゃないですか」

「私、忙しいの。だからゴローくんがやってくれたら何かそっち方面で便宜を図ってやっても良いかな…なんて」


 またこの女のしなを作ったこのポーズ。それしないと死ぬのか女は。てか便宜ってなんだよ。便器の間違いじゃねぇか?


「やります。任せてください」


 なんだコイツチョロッ。まあいいや。

 もう同居人コイツでいいや。


 そうと決まれば挨拶。


「じゃあよろしくな!俺の名前は剛健難陀!」

「す、須方(すがた)悟郎…だ」


 俺達は柔らかい握手を交わす。


「あ!僕も!」

「ウエッ気持ち悪!離せよ!」

「気持ち悪くないし!生理現象だし!ヌメヌメなのは!」

「うるせえよウツボマン!生理現象の方がキモいだろ!」

「そうだぞ!キモいぞ!」

「味方は?僕の味方は?」


 俺の新生活が始まった。



 ‐‐



 部屋に響き渡る重厚な音。


 ナンダ達のいなくなった部屋のドアが開き、個性的な山高帽を被ったヒョロヒョロの男が入ってくる。


「で、どうだ。例の憑依者は」

「普通の青年ですが、略歴が特殊で、すこし気になる点が…」

「そうか、あいつを国家の犬にできるなら日本の国際的地位の向上は確実だろう」

「話聞いてましたか?…ええ。あのレベルの使い魔を操れるのは稀有な才能です」


 椅子ではなく机に脚を組んで座るナツミに、男はフランクな言葉遣いで話す。


「それで、痕跡は視えるか」

「ええ、はっきりと」

「ならいい。あれを国家の言いなりにするのは癪だ」


 男はタバコを取り出し、公安の制服である黒のスーツとは真逆の色の純白のライターで火を付ける。


「俺様はようやく見つけたあれを、国家ではなく、公安の犬にしたい」

「同感です」

「くれぐれも盗るんじゃねぇぞ?あらぁ俺様含め公安のモンだ」

「…公安のモノなら、即ち私のモノでは?大門さん」

「ハッハッハ!言うようになったじゃねぇか!」


 タバコの煙は、開けっ放しの窓から出ていった。



 ‐‐



 始まった新生活は凄く楽しい。

 料理は作ってくれるし、朝ご飯も豪華だ。


 家事もしてくれてる。チャラ男なのに意外だ。


 建設時代も寮で飯食ってたけどこれの百倍はおいしい。


 ヤキを入れられながら食ったこともある寮とは大違いだ。

 ルキ以外の人と過ごすことがここまで楽しいことだと思わなかった。


「ヒャッハア!ほれ餃子〜」

「アチッ暑いってナンダ!」

「やめろウツボマンとナンダ!タレが飛び散るだろタレが!」

「え〜いいじゃねぇか。シケた空気で飯食う方が辛いぜ」

「うるさい口答えするな!」

「僕はしてないし」

「お前に言ってねぇよ!」

「なら僕はやっていいってこと?」

「いいわけねぇだろ…」


 うん、おいしい餃子だ。


 〈ほんと。素晴らしい生活だよ〉



 ‐‐



(数日後)


「なっさん!無理!無理っすこの生活!」

「どうして?」

「あいつら常識知らないですよ!おかげで家の中はもうめちゃくちゃっすよ!」

「へぇ」


「昨日だって…」


 ‐‐


 昼食時も…


「背筋を伸ばせ!肘をついて食べるな!」

「うるせえ俺達には俺達の食べ方があるんだ!」

「そうだそうだ!」

「この家にも食べ方があるんだよマヌケども!」


 夕食時も…


「うぇーい!」

「箸で乾杯するな!」

「えー、こっちの方が楽しいだろ?」

「楽しいとか楽しいとか関係ねぇよ!」


 だったり…


「待てルキ!俺のPSPを返せ!」

「家を走るな!苦情がくるだろ!」

「うるさい!こっちは俺の生命線(ゲーム)かかってんだよ!」

「返すわけ無いでしょバーカ!」

「お前は今すぐ()()ゲームを置け!ヌメヌメになってぶち壊れるだろうが!」


 だったり…


「このガッチリした扇風機に花火入れたらどうなるか試して見ようぜ!」

「これサーキュレーターだよ。扇風機じゃない」

「うるせぇ黙れウツボ」


 手持ち花火どーん。


「うわすげぇ!火出た!火!」

「やった!実験成功だ!」

「いやー、いい風呂だったってどわあ!」

「お、ちょうどいいとこにきたなチャラ男。お前もやるか?」

「家の中で花火を燃やすなあ!」


 ‐‐


「ありえないでしょ?これ一日で起こったことですよ?」


 ゴローは机に拳を叩きつける。


「あー、それは大変だったね」

「大変どころじゃ無いですよもう!」

「大丈夫だよ。多分じきに言う事も聞いてくれるようになるよ」


 どこか投げやりのナツミ。それを聞いてゴローもどうでも良くなったらしい。


「なら良いんですけど、一ヶ月たっても治らなかったら僕公安辞めますからね!」

「1ヶ月後にはもうルームメイトじゃないよ?キミたちは」

「あっ…」


「いぇーい!主役は遅れてババンと登場!」

「からの僕は床下から参場!」

「どわあ!」


 びっくりするゴロー。

 フハハハ。俺達の悪口を言った末路だ。


「やめろよバカ!なっさんの私室だぞここは!」

「いや、別にいいよゴローくん」

「いいの!?」

「ほらなゴロー。俺の勝ちだ」

「黙れ!」


 ハッハッハ!


「というか、こんな馬鹿話してて大丈夫なの?ナツさん」


 お、珍しくルキから喋ってる。


「そう、じゃあ本題に入るね」


 お、どんな話かな?

 まさか俺に告白とかじゃねえよな。


 やばい、もしそうだったらどうしよう。


「これからキミたちに任務を言い渡します」



「これからキミたちは一階にいって他の公安職員と合流して、隣県の山奥にあるトンネルに向かってもらいます」


 おお、トンネル。トンネルかぁ。凄そうだな。


「そこは工事中のトンネルなんだけど、作業員が何人か行方不明なんだ」

「そして、それが妙に心霊の類だと?」

「そう。だからなるべく早く無傷で作業員を救い出してね。できる?」

「「できます!」」


 敬礼!…してるのは俺だけか。次からはやめよう。これ


「それじゃあ行こうか」


 前を行くナツミのデケェケツに魅了されつつ、ナンダは進むのであった。


 未来へと。



「ゴローくんは優しいね」

「…まあ、公安で優しい人なんて僕ぐらいでしょ」

「自分で言うんだね」


「死と隣り合わせの現場は、人をもう一段階上の境地に持ってくんですよ」




「俺にとっては、それが優しさだっただけです」


因みに本来の公安警察というのは主にテロからの未然の防御と外国の諜報員の摘発及び対策をする警察内の組織のことです。


読み切り投稿しました。ぜひ見てね。


https://ncode.syosetu.com/n7597jn

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