《セントネルク王国》
「さて……どうしたものか」
着る物もなく、家も無く、食べる物もなく、仕事も行くところもない。
ある物といえばーー
「ねえねえお兄ちゃん、この国すごいんだね〜……自然豊かですっごく広いよ〜」
妹のリアがいるーーそれだけでいい。
とりあえず空き家を探そうーー。ここ《セントネルク王国》は広いから、どこか探せば人の住んでいない家があるかもしれない。
「リア、腹〜減ったか?」
一晩中走って隣国まで来たんだ……俺はいいが、リアはきっとお腹が空いてるだろう。
「ううん、大丈夫!それよりお兄ちゃんが食べる分が心配!」
周りの景色が目新しいからか、リアが強がっているようには見えない。
まあお腹空いていないならいいが、いずれにしても食料の確保は早い方がいい。
「まずは家を探そう。そのあとで、兄ちゃんは仕事を探してくる」
まだ夜は寒いから、できれば暖を取れるものも必要だ……。
これからきっと大変だろう……。
しかしリアの目に映っているのはーー
「うん!一緒に頑張ろう!」
新しい今日と、この国の景色だけだったーー。
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隣国《セントネルク王国》に亡命してから約3日ーー。
この国には奴隷制度が無いから、俺たちを軽蔑視する者もいなかった……のだが。
「あの子……」
「かわいそうにな………」
ヒソヒソーーと、住民からの視線自体は無くなるわけでは無かったーー。
なぜなら…………
「……奴隷の烙印……か」
俺は左肩に、妹のリアは右足首にそれぞれ奴隷の焼き印を押されている為、嫌でも視線を集める要因となったーー。
まあ、決して悪い事ばかりでは無かったのだがーー
「坊主、今日も仕事探しか?毎日健気なこったね〜。ちょうど土木作業が人手不足だから、行ってくると良い」
「いつもありがとうございます。助かります!!」
「リアちゃん。これ、良かったらお食べ。ちょうど不格好なパンが余ってたからね」
「わぁ〜!ありがとう、おばちゃん!!」
街の人達は親切で、俺たちが奴隷とかそんなのは関係無く接してくれた。
おまけにーー
「お、来たか……お〜いレオ!!こっちだ〜!!」
「こんなに集まって……どうされたんですか?」
「何ってお前……ちょうど空き家があったから、オメェらにくれてやろうと思って改装してたんだよ!代金は〜今日タダ働きって事でいいか?」
「っーー!ありがとうございます!!」
「おうちだ〜!やったぁ〜!!」
リアも飛び跳ねて喜んでいる。何から何まで、街の人達にお世話になりっぱなしだった。
「いや〜、ガキが妹の為に健気に働いている姿を見てたらな〜……ううっ、うちのガキも見習ってもらいてぇもんだ……!!」
感極まって涙を溢す頭領を前に、深々とお辞儀をする俺とリアだったーー。
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「「いただきま〜す!!」」
今日も八百屋さんから余った野菜を、肉屋のおじさんからもらった売り物にならないようなお肉をもらって鍋を作った。
この街の人達はとても良い人達ばかりだ……こんなことならもっと早くこうしていれば良かったと、恥ずかしながら思う。
「ねぇにいちゃんにいちゃん!!明日は何するの!?」
「そうだな……そろそろにいちゃんも冒険者ギルドに登録でも行こうかな……」
「冒険者ぎるど〜?」
冒険者とは、魔物や悪人などを退治、討伐をしたり、採集などを行ってクエストをこなして報酬を受け取る機関である。
その他にも鍛冶師、占い師、法学師(弁護士のようなもの)など、特殊な職業の斡旋なども行っており、冒険者登録をしておくだけで割安で依頼ができたりもする。
俺はーー勇者になりたい。
だから、冒険者ギルドでSランクまで上り詰めて、いつか聖国の〝大司祭ギルド〟へ行きたいんだ!!
だから、冒険者になるのは必要最低限の事でもあったーー。
「リア!明日は忙しくなるから、にいちゃん先に家を出てるぞ!!」
「え〜、リアも行きたいな〜」
「お、じゃあ一緒に行くか!?」
「うん!!」
そうして、久々の暖かい食事を過ごしたーー次の日。
「よし!じゃあ行くかーー!」
「行こう行こう〜!!」
今日は日雇いのバイトはお休みだ。
ギルドへ行って手続きやらなんやらで忙しく……
「ねぇねぇにいちゃん、あれな〜に〜?」
と、ギルドへ向かう途中での出来事だったーー。
「た、助けてくれ〜!!」
街の住民だろうか?ゴブリンの集団に攻撃を受けていた。
「どうするの……お兄ちゃん?」
この街の人達は俺とリアを受け入れてくれた。
だったら俺はその恩返しがしたい!
「リアは離れてろ……巻き込まれたら危ないからな」
「うん……頑張って、お兄ちゃん……」
そう言ってリアが一定の距離を離れたところで、そばに落ちていた石を拾い上げる。
コツンッ
「ゲッ?」
ゴブリンに向かって石を投げる。
「どうしたどうした?お前の相手はこっちだーーぜ!!」
ギュルルルルルーーゴツンッ!!
「グゲェッ!!」
強烈な勢いで当たった石が、ゴブリンに命中する。
「「「グゲェ〜〜!!」」」
「お?ナイスショット!」
怒りに身を任せたゴブリン三匹が、俺の元へと駆け寄ってくる。
普通に考えたら生身の人間がゴブリンに勝てるわけもないだろう……普通ならな。
「っーー!坊主、逃げろ〜!!」
ドガッ、バキッ、ドゴッ!!
ゴブリン……?最弱のモンスターの一種だろ?
こちとら人間相手から毎日のように鞭やら木の棒やらで殴られ続けたんだ。
俺がどれだけ過酷な環境で仕事をしてきたと思うーー?
木の丸太一気に三つ運ばないといけないようなーー気が遠くなるような毎日を過ごしてきたんだーー。
ゴブリンが3匹?笑わせんな!
「グ……グゲェ……」
「オメェらくらいなら、素手でも十分だよ」
レオはこの一件が、後にギルドにどれだけの衝撃を与えるか知る由もない。
冒険者レオとリアの、壮絶な冒険の幕が開けるーー。