第5話 調教
パトライトが遠くに見え始め、想定よりも台数が多いなと思いながら気が付いたことを陽菜を抱き締めたままに尋ねた。
「何でアイツらを自力で片付けなかったんだよ?」
コイツの『実力』なら、不意打ちなら訳なく皆殺しに出来るだろうに。正当防衛で。
「ん、アプリが起動したのがわかったから。人数多かったし、リスクもあるし。陽向が駆け付けてくれるって信じてたからギリギリまで待ってたんだよ?」
「………………………………そうか。」
そうだな、そういうヤツだったな、コイツは。
こんなにズタボロになっても、俺を信じて待ってくれてるなんてな。
俺は、もう、コイツから逃れられないのかもしれないな。猛獣使いに調教でもされているように。
「それに、私を守るのは、コレをヤルのは、あんたの『仕事』でしょ?」
傍らに泡を吹いて転がった男たちを指差しながら満面の笑顔を俺に向けるのは、正直やめてほしいんだが。心臓に悪いぞ。
最初に到着したパトカーから駆け降りてきた婦警が俺と陽菜の顔と転がっている強姦魔達を見て、
「またあなた達なの!」
「またとは、酷い言われようですね?被害者に向かって。後で『正式に抗議』させてもらいます。前回は事情聴取と言う名の取り調べで貴女に『酷い目に』合いましたからね?全部録音してますよ?」
言葉に詰まった彼女を無視して、後ろの警官に、
「部室に一人監禁されてるようです。対処願います。」
「何故知ってるのよっ!」
「アンタは黙ってろよ!説明は後だ。手遅れになる前に動けよ?この無能共が!」
婦警を怒鳴りつけて、後から来た階級が高そうな私服警官に、
「この被害者のスマホを遠隔操作して状況は全て録音してあります。コイツらの会話から一人監禁されているのがわかりました。至急対応願います。『手遅れ』になる前に。」
ナイフを手に泡を吹いてズボン脱ぎかけで倒れている強姦魔達を確認して絶句する私服警官を無視して、
「太一、コイツら事情聴取とか言いながらエグい取り調べしてくるから、弁護士が来るまで何も話すんじゃないぞ?未成年とか関係なく追い込み掛けてくるから気を付けろよ?三人とも親御さんを先に呼んだほうが良いかもしれないぞ!」
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「なあ、太一。」
良が、ボソッと俺に話しかけてきた。
「ん、どうした?」
「あれが、『狂犬』か。」
「そうだな、俺も素のアイツとしか付き合いがなかったから、噂しか知らなかったけどな。」
「俺も、格闘技、やるぞ。お前の所に入門させてくれないか?」
「どうしたんだよ?格闘技は興味ないって言ってたじゃないか。道場は、親御さんは大丈夫なのかよ!」
「今のままだと、俺の『実力』だと、大事な、大切な人を守れそうにないからな。獲物を持ってないと何もできないのは情けないからな。」
「……………………そうだな、俺も鍛え直さないとな。健も、そう思わないか?」
「ああ、3人で強くなろうぜ!」
「いや、『狂犬』を入れて4人だな。」
パトカーの後部座席に連れ込まれる陽向を見ながら、まるで犯罪者扱いじゃないかと思いながら、それぞれの親に連絡を取りながら、俺達は誓い合った。